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参上!シルフィア団!!  作者: JULY
第一幕『快盗の誓い』
4/23

ボーイ イズ メッド ガール

「……でも、エヌラーペのしそんは」


 ようやくカップに口をつけ始めたテラが計画の一番の問題点を指摘する。


「問題はそこよ。私たちは彼の居場所を知らない」


 うーん、と顎に手をやりながらフィアはうなった。なにせエヌラーペの子孫は現在国際指名手配されているのだ。そんな人物がおいそれと姿を現すわけもない。まして三年もの間、国家から逃げ続けているような人物をたった二人で探し出そうなど、雲をつかむようなはなしだった。


「最後に目撃されたのって、……いつだっけ」


 目玉焼きを頬張りながら聞いた。


「……いちねんまえ。まなけるじあのりんごく、ぺすたでそれらしいじんぶつがいたって」

「ペスタねぇ……。真偽はともかく私ならそういう話が出ただけでペスタには近づかないわね。案外近くにいるかもよ? 灯台下、暗しって」

「……それでも、このくにからみつけだすのはふかのう」

「そうかしら。私の勘が言ってるわ。『エヌラーペの子孫はこの王都にいる』って」

「……そうしんじたいだけ」

「厳しいわね」


 いやに現実的な相棒の前に、フィアはつまらなそうにスープを飲んだ。


 ――それはたまたまだった。たまたまテラに見せた新聞の記事。その裏に書かれてあったとある特集。『今王都で話題の人物』


「テラ、これ面白そうじゃない?」

「すとーりーとまじしゃん、じゃっく?」

「考えてたって始まらないわ! よく見たらほら、この近くでやってるみたいよ。いってみましょ!」

「……わたしはいい。フィアひとりでいってきて」

「そう、また寝ちゃだめよ? おっでかけーおっでかけー」


 フィアは楽しそうに朝食の片付けに向かい、そのまま着替えに部屋に行ってしまった。テラはまだ中身が入ってるカップを持ったまま、フィア側に置かれた新聞に目をやる。そこには全身を黒で整えマスクを被った男がうやうやしく礼をしているところだった。


 

 ◆◆◆◆



 エーシアは特に顔を隠すことなく堂々と街を歩いていた。確かに今の自分は一級の国際指名手配犯だが、人は案外すれ違う人々のことをそこまで見てはいない。今朝自分とすれ違った人の顔を十人でも思い出せればいい方だろう。


「……」


 それにしても、エーシアは思った。いい街だ、と。

 こうして少し外に出るだけで、にぎやかな声がいたるところから聞こえてくる。耳をすませば客と店主の活気あふれたやり取りが聞こえ、目から色鮮やかな花屋や果物屋の豊かな色彩が楽しませ、鼻から食欲をそそる香ばしい香りが飛び込んで今すぐにでもひやかしに行きたくなる。


 ここはグロスリュフィア大陸に位置する大国、マナケルジア王国の王都アルスター。中心のマナケルジア城を囲むように城下町が栄えている。王都の北南を横断するように海に直結している運河が流れているため内陸部にありながら豊富な海の幸も手に入る。マナケルジア王国は昔から運河を使った貿易に力を入れているため今日もミシピ川は数えきれないほどの船が行き来している。


 なんて自分を指名手配している国について考えると、目的の場所に着いた。着いたのは通りにあるちょっとした広場。広場には人は二、三ほどしかいない。人通りも少なく、ここなら人だかりができてもあまり

 迷惑にはならないだろう。


 手に持っていたのは古びたトランクケース。使い込まれているのか、革の色つやがなまめかしい。傷や擦れてなお使い続けていることから相当愛用しているのが伺える。

 エーシアはおもむろにトランクケースを地面に下ろし、開く。その瞬間から、エーシアは指名手配犯から、ストリートマジシャン・ジャックへと変わる。ケースから黒いシルクハットを被り、マントを羽織る。白い手袋を嵌め、最後に目元を隠すマスクをつけたら準備完了。

 さあ、今日はどんなマジックを披露しようか――


 遠くで遊んでいた少女がこちらに気づいて、走りながらやってくる。


 本日最初のお客様。演目(ショー)の始まりだ。


 ◆◆◆◆


 噂が広まり、あっという間にエーシアの周りには人だかりができていた。ジャックの一挙一動を観客は注目するが、その全てをことごとく欺かれる。無から取り出し、無へと帰す。ジャックは魔術を一切使わずにまるで魔法のような現象を引き起こす。


 手を振れば歓声があがり次々とトランクケースにおひねりが投げられる。


 最後に今日一のマジックを披露して演目(ショー)は幕を閉じた。ちゃりんちゃりんと硬貨が鳴らす交響曲をフィナーレにし、ジャックは貴族のようなお辞儀した。


 がやがやと、人々は冷めやらぬ興奮を語りながら去っていく。


 その集団から一歩離れた陰から、ケースを閉じて去っていくマジシャンを見つめる者が居た。


「――見つけた」


 その銀色のつぶやきは、熱に浮かされた誰の耳にも入ることはなかった。

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