20話未定
「まずはお前からいくか、クレイ。今までさんざんバカにしてくれやがって」
「……ッ」
宝魅人へと変貌したノレドはその足で歩いてクレイに近づいた。背中に隠れる少年少女は怯えて顔をクレイの背中に押し付けている。
「俺がどれほど努力してもお前はすぐに先を行く、おかしいだろ? 貧乏で装備もロクに整えられないお前が、俺より速いなんてよ。あっちゃならねェンだわ」
「そんな言いがかりを……」
「言いがかり、ね。それはそうだけどなァア!?」
ノレドは手に生えた爪で虚空を振った。それだけで空気を伝播して斬撃がクレイとその弟妹を襲う――
『防御弾!!』
どこか機械的な声と共に緑色の光弾がノレドとクレイの前に撃ち込まれ、扇状の防御壁が出来上がる。斬撃は完全に阻まれクレイたちは無傷で済んだ。
「何者だぁ……?」
「憶えとけ……」
黒いスーツに身を包んだ人物はマスク越しにノレドを見据えて言った。
「シルフィア・ジャック。――参上! シルフィア団!! 予告する、お前のお宝いただくぜ」
「……やってみろよコスプレ野郎ぉ!!」
『コレクション』の力を得て完全な宝魅人とかしたノレドは腕に力を込めて、振った。すると目に視えないはずの波動が放たれジャックを襲う。その波動を受けたジャックは動きを阻害される。
「しまっ……」
「そぉおら、勝負ありだあ!」
ノレドに生えた爪で動きが止められたジャックを襲う。鋭い爪がスーツを切り裂こうとしたそのとき――
「何ィ!?」
爪がその身を切り裂いた、確かに爪は当たったが、気が付くとジャックの身体がカードの塊に変わっていた。ひらひらと宙を舞うカードたち、その一枚がノレドの顔に張り付く。それを慌てて顔からはがすとそこには――
『ばーか^^』
「――くッ!!」
「おいおい、そのカードタワーを建てるの苦労したんだぜ? 冗談、魔術で一瞬さ」
「次はこうもいかないぞコソ泥。お前には俺の力を見ることができない。避けることは不可能だ」
「それはどうかな」
再びノレドは力を溜め、鈍化する波動を放とうとする。その一瞬前にジャックは一発の弾丸を宙に放った。
「ははは、どこを撃っているんだッ!」
振りぬかれた腕から強力な波動が放たれると――
外したと思われる弾丸が宙でパッと弾けて、大量のカードを散布した。ヒラヒラと宙を舞いながら落ちてくるカードたち。そしてそれらはやがて鈍化の影響を受けてゆっくり宙を落ちる。そしてそのカードの動きを見てジャックは、タイミングを見計らって宙に飛び回避する。
「カードを見てればその遅くなる力がどういう軌道、タイミングで来てるか分かるってね」
「どこまでもバカにしやがって……ならここで使ってやろう、俺のもう一つの力を」
「……? ――ガはッ!?」
フッとノレドの姿が掻き消えたかと思ったら次の瞬間、腹部に強烈な衝撃が。視界にはダメージ状況を示す情報が刻まれているが、そこには一発で警告表示が現れていた。
「まだだ、そんなんじゃ終わりじゃねえぞ」
ノレドは蹴り飛ばし宙に浮いたジャックに向かって先ほどの鈍化の波動を浴びせた。とうぜんジャックは避ける暇もなく直撃、ふわふわと浮かんでいた。そこにノレドは先ほど以上に強烈な蹴りを背中に叩きつけた。
やがて鈍化の影響が消えた瞬間、ジャックは弾丸のようにすっ飛ばされていき、あっという間に闘技場の外、地上へと落下していく。
ロクに受け身もとれず、ジャックは轟音を響かせながら地上に叩きつけられた。幸い落ちた場所は誰もいない場所で、巻き込まれずに済んだ。
「カはッ、はぁ……いってえなあ。どこだここ……」
ジャックの疑問に瞬時にスーツが答える。視界の端に現在位置を示す、グランスポートの縮図と、空中競技場から地上までの飛翔軌跡を立体的に表した映像が表示される。
その飛距離は驚きの一キロメートル以上。空を見上げれば競技場が遠くにあった。
「まずい、早くいかなきゃ間に合わない……」
ダメージを受けた箇所は飛来しているうちに修復が完了したらしく、落下衝撃で受けたものもジャックが立ち上がるころには正常に稼働している。頭でスーツの機能を最大限まで引き上げるよう指示すると、胸のシルフィアエンジンが唸りを上げながら回転数が急上昇。
エンジンから全身に流れてるエネルギーストリームを高濃度に圧縮されたシルフィニウムが流れることで全身が青白く発光している。
「頼む、間に合ってくれよ……!」
ギュッと脚に力を込めて跳躍、家屋を蹴りながらジャックは急いで元居た空中競技場へと向かうのだった。
◆◆◆◆
「これで邪魔者はいなくなったな、クレイ」
「ノレド……」
蹴り飛ばした先を見据えながら、ノレドはゆっくりとクレイに向き直った。クレイはどうすることもできず、後ずさる。それに合わせてノレドも詰めていく。
「クレイ、お前もバカな奴だ。この『魔道具』を持ちながら使わずに、勝負に負けて、あろうことか明け渡すなんて……お前はどこまでマヌケなんだ?」
その言葉を聞いてクレイはいい淀んでしまった。確かに、自分はあの試合で勝つことができたかもしれない。しかしそれはしなかった、その理由は自分の足元に隠れてして――
「にいちゃんはマヌケなんかじゃない!」
「そうよ!」
「お前たち……」
クレイの足元に隠れていた弟妹が恐怖で涙を浮かべながらも、必死に自分たちのヒーローを否定する悪者を糾弾した。その足は震え、声は上ずっていても、クレイにとってはそれが何にも勝る誉め言葉だった。
「……」
一瞬、ノレドの姿が歪んだ気がした。そして遅れて足元を吹き抜ける風。
「はなせ~!」
「……!?」
気が付くとノレドはクレイの弟の首根っこを掴み、宙に持ち上げていた。
――何も見えなかった……!
気付いたときにはすべてが終わっていた。魔導短距離走を得意とするクレイは自身も高速移動するため、日ごろから動体視力は鍛えているし、魔力を通せばその視力は数倍にも引き延ばされる。
だが、今のノレドの動きはそのクレイをもってしても完全に捉えることができなかった。魔力を用いた人間の限界すら楽々と凌駕する『コレクション』の存在の怖さと力を改めて思い知ったのだ。
「弟を離せッ!」
「もちろん離してやるさ、だがその前にこいつがおかしなことを言ってたもんだからよ、もう一度よく聞いてみないと。で、ボウズ、コイツがマヌケじゃないとかどうとか言ってたが……」
「当たり前だっ、にいちゃんはマヌケなんかじゃない! にいちゃんに謝れっ」
「……あっ、ハハハッハッハッ」
ノレドは腹を抱えて心底面白い冗談を聞いたかのように笑い転げていた。その間首根っこを摑まえている弟の存在を完全に忘れているのか、振り回されていた。
「うわぁあああッ!? 助けてくれにいちゃんっ」
「止めろ! !」
「――止めねーよ」
ノレドはピタっと笑うのを止め、恐ろしく低い声で言った。掴まれている弟も雰囲気の変化を察知したのか騒ぐのを止めた。
「俺がこうしてる理由がわかるかクレイ」
「うわっ!?」
ノレドは弟をクレイの方に向かって無造作に投げ捨てた。慌てて弟を受け取ると、ノレドの方を見た。
「俺はな、クレイ力が必要だったんだよ。あの大会で記録を出して、選抜に通って、一流の選手になるんだ。その為にはどんなことでもしてきた」
「だったらなんで俺に……」
「だからだよクレイ、俺はどんなことでもしてきたにもかかわらずお前には勝てなかったっ」
ノレドはだんだんと話しているうちに熱が入ってきたのか、声が荒げてきた。
「それなのにお前はッ!? 俺が練習してる間にバイトをして金を稼ぐ片手間に軽く練習するだけで俺の記録を抜いていくッ!! そんなことあって堪るかァッ!? だが俺はある日力を手に入れた……これで誰もオレには追い付けない最強の力を」
ノレドは自分の拳を開閉して、その力を実感していた。彼の言う通りその力は現代魔術の域を超え、遡ること古代魔術、さらに魔法の領域にまで踏み込んでいる。『マリスコレクション』というものはそれほどまでに強大な力を秘めているのだ。
「そして大会当日の今日、全力を尽くした俺はまた届かなかった、だからこの力を使って勝った……それなのに……お前も俺と同じ力を持っていただとッ!? しかもそれを使わねえとは、そんな中で勝ったオレをどこまで馬鹿にすれば気が済むんだクレイぃ……」
ノレドの主張は完全に八つ当たりのそれだった、しかし彼が手にした力の前には誰もそれを指摘することは出来ない。下手に刺激すればどうなるかは想像に易い。だがここでお約束というべきか、空気の読めない衛兵がノレドに向かって攻撃の矛先を向けたのだ。
「そこのお前ッ! 今すぐ投降しろ! この街には王宮騎士団が駐在しているッ、抵抗すれば即座に――」
――ゴッ!!
「……抵抗すれば、なんだって?」
瞬きをした瞬間には、ノレドの脚がまるで戦槍のごとく衛兵の腹部に突き刺さっていた。貫通はしてないようだが、肉体からしていい音ではなく、衛兵はぐったりとうなだれ生命反応をしていなかった。
「きゃぁああああっ」
「見ちゃダメだ」
クレイは弟と妹の顔を塞いで体の後ろに隠した。今のノレドは本当に何をするか分からない。
「騎士団だろうがなんだろうが俺の相手じゃねえ……ははっ金剣の連中にも楽勝かもな!? これが終わったら王宮を襲って国を支配するのもいいかもしれねえなぁ!?」
「――残念ながら騎士様たちはあなたみたいなのを空いてるほどヒマじゃないのよ。だから快盗が相手になってやるわ」
その言葉ともに銃弾がノレドに向かって撃たれた。しかし宝魅人と化したノレドは避けるまでもなく、 硬質な腕を掲げると弾丸を防いでしまった。
「――っと間に合ったか? って、フィア!?」
ようやく競技場に戻ってきたジャックが見たのは、宝魅人とそれに生身で立ち向かうシルフィア団、団長、フィアの姿だった。
「無茶しやがって、今助け――」
『――心配いらないわ、間に合ったもの』
「だから今助けるって言ってるだろっ」
動き出そうとしたジャックを制止する声が、スーツに内蔵された音声装置から聞こえてきた。発声しているのは勿論数十メートル先にいる、ノレドと向き合ってるフィアだろう。
「スーツもなしで宝魅人に勝てるわけ――」
『だから、生身じゃなくなるのよ、私も』
その声が聞こえた途端通信は打ち切られ、代わりにフワッと柔らかな風が鈴の音を運んできた。それは距離的には絶対にジャックに聞こえるハズもなかったが、確かにジャックの耳は捉えていた。
「シルフィアチェンジ」
快盗団に二人目の変身者の誕生の産声を。




