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参上!シルフィア団!!  作者: JULY
第一幕『快盗の誓い』
17/23

17話 未定

「遅くなったっす!」


マナケルジア王都、グランスポート行の駅前の広場に一個小隊規模の騎士団員が整列して待機していた。平和な日常では見ることのできない物々しい


「ブライリ―隊長、お疲れ様です!」

「おー副隊長! どうもっす!」


日は完全に落ちきり月と魔力灯がぼんやりと照らしている。しかし一人の女騎士が場に現れただけで、その雰囲気が一変する。闇夜を打ち払う太陽のような活発な少女。齢十六歳にして、王国最高峰の位、十三本の剣、金剣を賜った実力者。『置去』、サマリー・ブライリ―。


金剣の実力を持った彼女が、わざわざ城門前に集まる理由は一つ。直近の都市、グラン・スポートからの応援要請に応えるためである。グラン・スポートへ出向く時間が遅れてしまったのは一重に彼女の役職の重さが原因であった。


金剣レベルの実力者になると、最早その力は一騎当千、どころか一軍にすら匹敵する。名実ともにワンマンアーミーである彼女らは普段は王族の警護に当たり、その実力故国境をまたぐことすら、国際問題になりかねない。


そんな彼女を王都から出させる、これだけのことに必要な手続きを関係各所に踏んでいるだけで日が暮れるほどの重大な出来事なのだ。


「遅くなった分しっかり働くっすよ! ってことで皆、そろそろ出発するっす!」


おいっちにー、と。脚を伸ばしてストレッチを始めるサマリーに対して、彼女が率いる部隊の古参の騎士達は何も思うことなくグラン・スポート行きの列車の乗り場に向かう。しかし、


「あの、ブライリ―卿……、魔列車の発車時刻がそろそろ……」

「んー? あぁ! 私はダイジョブっすよ! 走っていくっすから」

「走っ……て? それは一体」

「おい! 行くぞ!」

「いいか、隊長や金剣の方達を我々の常識で測ってはならん」

「ちょっと~? 女の子に失礼じゃないっすか~? ……ほらほら、早く乗って乗って!」

「し、失礼しました!」

「ってことで、皆。あっちで待ってるっすからね」


サマリーがその一歩を踏み出しかけた、その時――


「お待ちください!! ブライリ―卿」

「っとと、なんすか一体、今から向かうってときに」

「そのことなんですが、たった今グラン・スポートから連絡がありまして……」

「それで、なんすか」


伝令にきた騎士と会話しているうちに、部下達を乗せた列車が発車した。その列車を目で追いかけながら、話を聞いている。


「えぇええええええ!!!?? 私は行くなってことっすかぁ!? 師匠に会えるって楽しみにしてたのにー!」

「ご容赦ください、既にこの後の仕事も入っています」

「そんなぁ……っす」


◆◆◆◆


場面はクレイが一人で夜道を歩いているシーン、それをジャックとシルフが奇襲を掛ける

 

 グランスポートの運動場が密集している地区から離れた郊外に、グランスポートに住む市民たちの共同の墓地があった。競技場と見間違うほど広い平地に等間隔で墓標が並んでいる。規模が規模のため、昼夜問わず墓参りにきている人が途切れることはなかったが、今は珍しいほど人がいなかった。


「母さん、もうすこしだよ。俺、がんばるから」


 クレイは毎日練習終わりに、母親のお墓参りにきていた。クレイは夜の墓地が好きだった。初めこそ不気味で恐ろしいと感じていたが、ここに眠っている方々も母と同じなんだと思うと、不思議と恐怖感は薄れていった。


 それどころか夜の墓地に吹く涼しい風と、別世界のような静寂が気づけば好みになっていた。


 「……よし、明日もがんばろう」


 母親への報告も終え、寮へと戻ろうと足を向けたとき、どこからともなく弾丸が、風切り音を立てながら飛翔する。


『鎖弾!!』


クレイを囲むように三点、どこからともなく光弾が地面に着弾した。地面に当たった光は一瞬、とある組織のマークに変わったと思えば、そのマークの中心から鎖が飛び出す。狙いは違わずクレイを目掛け、あっという間にクレイは鎖でがんじがらめにされてしまった。


「なんだこれ!? 離せっ」



地面から三点で完全固定されているクレイは、どんなにもがこうと鎖は緩む気配すらない。


「誰がこんなことを……、おいっ! 誰かたす――もごっ!?」


自力での脱出は不可能と考えたクレイは声を荒げて助けを求めようとしたが、そんなことをこの状況を作り出した当人たちが許すわけもないし、すでにこの墓地一帯には人払いの術を密かに展開していたことを、一介の魔術競技者が知る由もない。


 どこからか、身体をよじ登ってきた鎖が、口の間に無理やりねじ込まれ、ちょうど鎖を噛む形になった。そのおかげでまともな声を出すことは出来なくなった。


抵抗できず、助けも呼べなくなった彼を見て、ようやくこの状況を引き起こした張本人たちが彼の前に現れた


「「とうっ」」

「なっ!?」

「「参上! シルフィア団!!」」


仮面を付け、マントをたなびかせる二人の人物がクレイの前に現れた。目まぐるしく変化する状況にクレイはついていけなかった。


「早速で悪いわね。けど、貴方が持っているそれは危険なモノなのよ」

『解錠弾!!』


声から女性と思われる人物が、おもむろに白い大型の銃を取り出した。それをみてクレイの緊張が高まり、自分が置かれている状況の切迫さをより一層実感する。

彼の視線が白い銃に釘付けになり、身体が強張っているのを察知した女性は、意外にも彼を安心させるように優しい口調で言った。


「大丈夫。貴方に危害は加えないから、安心して」


カチリ、と引き金を引くと、銃口から黄金色の焔が噴き出し、やがて焔は鍵の形で安定した。

それが自分に向けられて、必死に身体を動かして抵抗しようとするが、ガチガチに固められた状態では効果がなかった。


「さあ、開きなさい。貴方の心の鍵を」

「ムゴッムグッ!!」

「……」


さっと女性が指で操作すると、ちょうど彼を縛っていた鎖が心臓部だけを避け、鎖の繭に穴が開いた。

黄金の鍵がゆっくり、ゆっくりとクレイの心臓部に吸い込まれるように入っていく。とんっ、と銃口が完全に身体に着くと、クレイの身体に明確な変化が現れる。


「むぐっ……!?」


今、彼の身体の変化に一番驚いているのは彼自身だろう。身体を動かすことが出来ない、それは鎖に縛られているからではない。動かそうとすることすらできない。まるで身体の動かし方を忘れたかのように、身体に力を込めることが出来なくなっていた。


「さぁ、お宝とご対面~っと」

「……っ!?」


クレイは目の前の光景を信じたくなった。自分の腹が開かれている。まるで金庫の扉のように片開きになった腹部を直視できずにいた。


「はい、お宝頂き~……これは靴、か。でも一足だけ?」


クレイの体内に入っていたコレクションは靴型のものだった。しかし、中に入っていたのは一足のみ。


「……まぁいっか。これでお宝も手に入れたことだし、とっとと帰りましょ」

「……ッ! ……ッ!」


クレイは声すら出すことができないため、目線で必死に訴えていた。


”頼むからそれを返してくれ”と


「……」


女の方はすでにクレイには興味をなくし、彼の身体から取り出したお宝を見つめている。しかし、二人組のもう片方は、


「……」


顔は仮面で隠れて見えないが、クレイの方をジッと見つめている。クレイは説得するにはこっちの方が可能性がある、と一抹の希望を賭け目だけで訴え続けた。


「……? ジャック何してるの。早く行きましょ、この子の”大切なモノ”も見つかってないんだしぐずぐずしてる暇ないのよ」

「……ッ! ……ッ!」


 クレイは鎖に縛られ、口を封じられつつも目線だけで言葉にならない声を上げ続けた。そしてその思いは一人の男に届く――


「……っ、ちょっとアンタまさか……」


 男は女の手元からあっという間にコレクションを奪うと、縛られているクレイに近づいてそのコレクションをクレイの胸に開いた金庫の中に戻した。


「何してんのッ!?」

「ぐっ……はぁッ!」


 クレイは胸に戻されたコレクションの力を引き出して、体に巻き付けられた鎖を弾き飛ばした。自由の身になったクレイは方で息をしながらゆらりと二人の快盗をみやった。


 女は戦闘が起きると身構えたが、クレイの次の行動によって毒気を抜かれてしまった。


「――頼むっ! せめて大会が終わるまでは……その力を使わせてくれ!!」


 ぱっとクレイは地面に頭をつけてこう言ったのだった。

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