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参上!シルフィア団!!  作者: JULY
第一幕『快盗の誓い』
14/23

魔導競技

 待ち合わせ場所で頼んだバーガーを食べた後、色々夜の都市を散策しては見たがこれと言って異常なことは起きなかった。流石アスリートの街というべきか、ほとんどの住民が健康管理の一環として早寝早起きを心掛けているのだろう。

 王都と比べて通行人の数が明らかに少なく、家の灯りが点いている方が少ないくらいだ。


 隠密行動をするなら申し分ないが、こうも街の変化がないと次第にやる気も下がっていくというもの。テラによると、フィアも早々に宿を取って寝たらしい。ならば自分もそこまで張り切る必要はないと、エーシアも宿に戻るのだった。


 収穫がないまま夜が明けて、エーシアは今日はどこにいこうかと宿の外を歩いていると、昨日乗せてもらった人力車の青年と再び出会った。


「あれ、お客さん昨日の……」

「あー、兄ちゃんは確か……」

「クレイです。自己紹介はまだでしたね」

「俺はエジアだ、よろしく」


 クレイは爽やかな笑顔で手を差し出してきたので、手を握り返した。その手は固く筋肉質でとても鍛えられていることがよくわかる手だった。


「兄ちゃんも何か競技を?」

「ええ、まあ、魔道短距離走をやってます」

「へぇ! なら今度見に行ってもいいかい? 取材相手が中々見つからなくてさ……」


 これは本当である。取材の対象が、古代の大魔導士が造った伝説の秘宝を所持していることが前提なだけで。


「僕でよければ好きなだけ。なんならこの後見に来ますか? 今日のバイトは午前で終わりですから」


 人力車のバイトならばこの都市に詳しいに違いない。また、毎日色々な場所を巡っているなら些細な変化にも気付けるかもしれない。


 聞き込み調査において現地民に勝る情報源はないだろう。彼と有効度を高めておくのも悪くない。


「分かった、なら他で時間を潰してるよ。どこで待ってればいいかな」

「お昼になったら第三競技場に来て下さい。いつも僕はそこで練習してますから」


 それでは、とクレイは朝日にも負けないまぶしい笑顔を残しながら去っていった。


「あの笑顔に魅せられたら誰でも乗るだろうな……」


 ◆◆◆◆


 エーシアはそれから、周囲の競技場を見て回って時間を潰して待ち合わせの第三競技場に向かった。


「第三とはいえ広いなここも」


 見上げるほど高い楕円形の建物。外周部を走り込んでいる人や、身体を鍛えている人。競技場の中だけでなく外にもあふれてるのは流石だと言わざるを得ない。


 この中で人を探すの結構大変なんじゃ……?


「あ、いたいた。こっちです」


 声がする方を見てみると、人力車のバイトの恰好ではなく薄着で運動できる服に着替えたクレイが近づいてきていた。


「よくおじさんのこと見つけられたね」

「はは、はじめて来る人は見つけやすいんですよ」


 確かにこんなコートを着ながら物珍しそうにあたりをキョロキョロしてたら浮いてしまうだろう。反省しなければ、と考えているとクレイがついてきてくださいと歩き出した。


「それにしてもすごい人が多いね」

「競技場の数も限られてますから、中を使える時間は限られているんです」


 競技場の入り口を潜り抜け、二人は競技場の中に入っていった。中は冷房が効いていて、清潔感のある空間があり、そこでもたくさんの選手が行き来していた。


「ほんとうは選手以外はトラックに入れないんですけど、今回は特別に」

「ありがとう」


 見学者や記者といった競技者以外は二階のラウンジや観戦席で見ないといけないらしいが、クレイが話を通してくれていたようだ。


「まあこういう専属記者みたいな人は珍しくないですから。っとトラックに入ったら僕から離れないようお願いします」

「え、それってどういう……」


 クレイの後に続いて歩いていくと、急に立ち止まり手で制止させられた。


「止まってください」


 エーシアの前を何かが超高速で通り抜けた。あとから風が遅れてエーシアの前髪を揺らす。


「ちょ、今のは……」

「これが僕がやってる魔導短距離走です」


 照れくさそうに頬をかきながらクレイはエーシアに説明した。魔導短距離とは全身に身体強化を掛けて挑む短距離走のこと。


「いやー相変わらず何度見てもすごいよ、迫力が」

「そうですよね、おじさんは記者ですから珍しくもないですよね。すいませんバイトの癖で」


 設定上は中年の競技記者なので、何年も競技者たちと向き合ってきたことになっている。今更魔導競技をみて驚いたりしてはいけないのだ。


「というわけでトラック内を横切らないよう端を歩いてくださいね。魔術の結界はありますけど」

「わかったよ」


 クレイの言う通り周りに細心の注意を払いつつ、競技場の端を歩いていくと、不意に彼が立ち止まった。


 「ここです、ここでいつも練習しています」


 そう言って着いた場所は、直線のコースが横に五本並べられただけのシンプルな物だった。しかし、彼の言う通りそのコースには結界が張られており、外側からはコース内が結界越しに歪んで見える。


 「これが……」

 「ちょうど今誰か……走るみたいです」


 言葉の中で声のトーンが一瞬だけ落ちた気がしたが、特に気にすることもなくエーシアは彼の言う通り目線を向ければ、一人の選手がしゃがみこむ形でスタート位置に付き、まさに今すぐにでも走り出しそうだった。


 「おー、やっぱり速いな」


 決して瞬間移動のような魔術は使われていない。彼はただ速く走っただけ。その証拠に彼がつい先程まで居たスタート位置にはその強烈な踏み込みを物語るように地面が足跡の形に凹み、抉れている。そして巻き上がった砂埃は、周囲を囲んでいる結界に阻まれ、宙を彷徨いその後落ち着いたかのように地面に降り注ぐ。


 今の速度は、魔術を全力で使ったエーシアに匹敵する。魔術と奇術を用いて、全世界相手に手玉を取るような実力者のエーシアに匹敵するとは、選手達の水準の高さが伺える。


 「俺達が専門にする短距離走は、長距離と違って加速に魔力を多く振れる。だから速度だけなら誰にも

 負けない自信があるんだぜ?」


 そう言いながら近づいて来たのは、たった今超加速で走り抜けた選手だった。


 「ノレド、相変わらずいい走りだね」

 「お、クレイか。バイトは終わったのか?それにこのおっさんは?」

 「ああ、今日は彼の取材を受けることになっててね、バイトも早く上がらせてもらったよ」


 ノレドと呼ばれた青年は、クレイと違い野性味が強い、漢らしい青年だ。しかし、その隆々とした筋肉の裏腹に流れる魔力は繊細で緻密。この若さでここまで魔力を練れるのは才能だけでは不可能な芸当だ。密かにエーシアが感嘆していると、ノレドの興味がエーシアに向けられた。


 「ほぅ〜、取材か。だったらあの女の所には行かないのか?」

 「あの女?」

 「なんだ、お前ら知らないのか?」


 ノレドは近くのベンチに置いてあった一枚の記事を二人に見せた。そこにはデカデカと一枚の写真と共に大きな見出し記事が載せられていて──


 「神童現る!銀髪の妖精、あらゆる競技で新記録を叩き出す」

 「……」

 「な、なんだよこれ!?」

 「今、めちゃくちゃ話題になってるぜ?俺もこれを見て居てもたってもいられなくてな、練習してた所だ」


 その記事に写っているのは、満面の笑みを浮かべる銀髪の少女。顔は見たことがないが、この輝く銀髪は見覚えがありすぎる。魔術がかけられているこの写真の中の彼女は、煌めく銀髪を縛って結いながらたなびかせて走っていた。


 記事を読むと、目に付いた競技に飛び込んでは一瞬でその選手達を追い抜き、世界新記録を立てまくっているらしい。


 「あのバカ!……目立ってどうすんだよ」

 「……」

 「クレイ?」


 ただならぬクレイの様子にノレドも声を掛けた。

 クレイは肩を震わせながら記事を食い入るように見つめている。俯いて顔は見えないが、今声を掛けなければ取り返しがつかないような気がして──


 「お、おいクレイく」

 「すみませんエジアさん。ちょっと用事を思い出しまして、僕は行きます。取材は代わりと言ってはなんですが、ノレドにするといいと思います」

 「ま、待って──」


 そう言うやいなや、クレイは競技場の外へ駆け出して行った。魔術も使われており、その姿を見失うのは一瞬だった。


 「あいつ、どうしちまったんだ」


 場に残されたノレドとエーシア。エーシアは彼を追うかどうか迷いながらも、取り敢えず自己紹介を済ませたのだった。

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