明日RISK
私は中学生だ。中学生と言えば学校だ。学校と言えば宿題だ。宿題と言えば。
「やってなかったぁ」
同じ境遇で思い出してしまった人、嫌な気持ちになってたら謝罪します。てか、みんなもやりなさいよね。私、羽音の締め切りは明日なんで、ピンチだよね。もう昼過ぎだし。でもまぁ、いけるでしょ。
「甘かった」
ダメだ。多すぎる。よりによって無駄に三連休だったから多い。ああ、お天道様も私を置き去りにして行く。何か絶望したら一気におなか空いた。そろそろ呼ばれるだろうし、補給に行こう。燃料ないと頭回らないし。私はダイニングに降りて行った。今日の夕飯何だろう。
「むっ、やあ! 初めましてだねハオトちゃん!」
何か知らない人が座ってる。と言うか変態がいる。全身タイツで顔を中心に三本線が交差してる。
「何だねその目は! ぬ? そうか自己紹介がまだだったね! 私の名前はアシタリスク。君を助けに来たヒーローさ!」
「えーと、警察警察ぅっと」
「ま、ま、待って、待ってくれ! 親御さんの許可は貰ってるから!」
「は、何で? と言うか、お母さんどこ行ったのよ?」
「うむ、お客が増えたと、喜んで買い出しに行ったようだ」
「えぇ……」
それしか言えない。変なとこで順応早いな、家の親は。色々言いたいところだけど、まず気になってしょうがないことは――
「その格好何よ」
「素晴らしいフォルムだろう? 特にフェイスのアスタリスクがセンスの塊さ!」
「それアスタリスクじゃなくてスターマークだけど」
あれ、何か急に黙っちゃったんだけど。
「それはそうと」
流した。
「私は君を救いに来たんだ」
「間に合ってます。帰ってどうぞ」
「まぁまぁ、そう無下に扱うんじゃないよ。私の名を聞いて何かわからないかい?」
「スターマークがどうしたと」
「違うスターマークじゃないアスタリスクだ! いや、違う! そうじゃない! アシタリスクだ!」
この変態何がしたいんだろう。めっちゃむせてるし。
「つまりだねぇ、アシタリスク。そう! 明日のリスクなんだよ!」
「はぁ。で?」
「明日までにやること、あるだろう?」
「それ個人情報じゃん。やっぱ警察に」
「だから待って! 私ヒーローだから! そこんとこ詳しいの!」
何かさっきからうるさいなぁ。
「でぇ、そのヒーローが私の宿題でもやってくれるの?」
え、ちょっと。何で立つの。わ、こっち来たし。
「ヒーローとして、そんな悪事は働かないさ」
「じゃあ何ですか。後近いです、キモい」
「私はね、助言に来たんだよ」
「そう言うのいいんで。後近い、うざい」
「やらなけれいいのさ」
「は?」
こいつ何言ってんの。ヒーローから悪魔のささやきが聞こえるんだけど。
「やっぱ帰って。不審者お断りします」
「ただいまぁ」
うわ、最悪。
「やあ、母君! わざわざ申し訳ない」
「あらぁ、いいのよぉ。大勢で食べた方がおいしいわぁ。もうすぐお父さんも帰ってくるみたいだから、準備できるまで待ってて頂戴ねぇ」
何で嬉しそうなんだこの人は。明らかに変人じゃないか。
「それにしても驚いたわぁ。羽音ちゃんにこんなお友達がいたなんてぇ」
「お前ぇ!」
「いや、あっはっはっは! 漢字で見たのでね、名前を間違えてしまったようだ。すまなかった」
そこじゃないよ。これと知り合いだと思われたことに怒ってるんだよ。
「ただいま」
帰ってきた。こうなったお父さんに。
「ちょっとお父さ……」
「父君、遅かったではないか」
「ああ、アシタ君。娘が世話になってるよ」
「いやぁ、とんでもない」
こいつ脇から固めていやがった。
「ご飯できたわよぉ」
仕方なく、私はこの異様な空間で食事を済ませた。
私はこの両親の娘なのだと実感してしまう。案外諦めると慣れるものだ。但し、食事中に無駄にうるさかったことだけは許さない。
「ごちそうさま」
「あらぁ、羽音ちゃんもう行くの?」
「宿題あるから」
実際やんなきゃいけないし、何よりアレとはいたくない。後何ページあったかなぁ。
「ふむ、まだ半分は残っているかね」
「何で付いて来てんのよ。第一、女子の部屋に勝手に入らないでよ」
「ふむ」
聞けよ。
「これを今日中にできるかい?」
「え? やるしかないでしょ」
「やりたいのかい?」
「いや、やらなきゃいけないでしょ」
「素直になりなよ」
やっぱうざい。それに全然ヒーローじゃない。
「正義のヒーローが人を堕落させてどうするのよ」
「何を言う! 私は助けに来たのだよ」
「いやだって……」
「今日やらなければならないと言う思いは、とってもストレスになる。そうして責任に押しつぶされて、やりたくもないことで責められるのだ。これは良くない。実に嘆かわしい」
「はぁ」
「しかし、他人に任せてはいけない。自分のことなのだから」
「まぁ」
「だから、"明日の自分"に任せるのさ。今日の自分には無理でも、明日の我々ならばきっと解決してくれる」
「明日の、自分」
確かに、今は全くやる気になれない。だったら――
「おっと、そろそろ遅い時間だ! それじゃあ失礼するよ」
「え、ちょっと」
「いやぁ、母君。とても美味たる食事であった。又、お邪魔するよ」
「あら嬉しい! いつでもいらしてねぇ」
「父君、次の機会には飲み交わそうではないか!」
「はっはっは、冗談がうまいねぇ」
「では、暫く」
何か嵐のように去っていったなぁ。それにしても、明日か。できるとこまでやって、今日は寝ようかな。色々あって疲れたし。
新しい日差しに、私は目が覚めた。いつもより早めにかけた目覚まし、それが鳴るよりも前に起きた。そう言えばあれからまだ残ってたんだ。日付は変わってもやる気は変わらない。やっぱり昨日頑張っとけば良かったかなぁ。まぁ、昨日と言わず休みの内にやっとけばって話なんだろうけど。とりあえず昨日の続きを――
「あれ?」
何だろう。答えが分かる。もっと言えば、問題をすぐに理解できる。とてもすっきりしている。
「昨日の、明日の自分」
今日の私は、昨日の私に任されたことをこなせるようだ。とても順調だ。
「終わったぁ」
時計はいつも起きる時間を指している。助言通りに上手くいったみたいだ。今度会ったらお礼言った方が良いかな。いろんな問題が解けて、晴れやかに家を出た。
「行ってきます」
いつもは寝起きで入っていかない朝食もおいしくいただけたし、寝不足でふらふら慌ただしくしなくて済んだし、早起きもしてみるものかな。
「やあウノネちゃん! いい朝だね」
「あっ、あなた昨日の」
「そう!」
「スターマーク」
「アスタリスク! ん? 違う、アシタリスクだ!」
こだわりなんだ。
「それはそうと、昨日はありがとうございました」
「ん? 大したことはしてないさ。ヒーローとして悩める人々を救うのは当然だからね!」
「おかげで宿題も終わりましたし、あの助言をもらえて良かったです」
「あっはっは! そうかそうかぁ。ん? 宿題終わったの?」
「え?」
ああ、やっぱりこいつ、ただの変質者だ。