余韻
ーー261708060950
こうして出撃停止処分が解けた僕は、部屋に戻り、そのことを報告したい一心で、別の基地にいるオペレーターのフウさんに通信を繋いだ。できれば朝方に連絡を取りたかったが、通信障害で接続ができなかった。今はもう治ってるといいのだけれど。
暫し待っていると、モニターの文字が『待機中』から『接続中』に切り替わり、スピーカーからはフウさんの基地の生活音が流れ始めた。
無事に通信が繋がったことに安堵し、声をマイクに流す。
「あーあー。フウさん、こんにちはー。」
「はーいもしもしー。こんにちは、イル。」
いつもの柔らかい声。最近はあまり連絡が取れていなかったが、普段であれば作戦を遂行する上で何回も聴いている声なのに、僕にとってはかなりの安心感を与えてくれる。
「早速ですけど、一つ報告したいことが。」
「あ、もしかしてあの件?」
「そうですそうです! 出撃停止命令が解けたんですよ! ようやく!」
「おー良かったね! やっと私も仕事ができる……。」
最後の言葉がうまく聞き取れなくて、もう一度聞き直す。やっと仕事がーーとか聞こえた気がしたが、「ううん、何でもない」と適当にはぐらかされてしまった。
「ああでも、命令にはちゃんと従うのよ? あと無理をしちゃダメ。いい?」
「分かってますよー。二の舞は嫌ですから……。」
あははと笑うフウさん。
今の言葉に、僕はお母さんの面影を感じていた。
いや、正確に言うとお母さんのような温かみである。実のお母さんではないし、歳もお母さんと呼ぶには若すぎるけど、それに近いような懐かしい感覚。不思議だ。いつまで経っても解き明かすことは出来ないだろう。
すると、フウさんは少し恥ずかしそうに聞いてきた。
「ねえ、イル……敬語やめない? いちいち堅苦しくて……。」
「え、だって僕年下だし……。」
「年下って言っても2歳しか離れてないのよ? ほら、やってみて!」
そんな事言われても、こっちだって恥ずかしいんですけどーーと思いながら、自分なりにシチュエーションを考える。
「……じゃあいきますね。」
「ねえ、フウ。この次はどこに行ったらいい? 教えてよ?」
「……。」
「…………。」
ああもう、顔から火が出るほど恥ずかしい。というか、結構ノリノリだった自分が本当に嫌だ。
フウさんもフウさんで、黙り込むのは本当にずるい。
「……ちょっとフウさん?!なんか感想をーー」
「ーー待って!」
「待って……。余韻に……浸らせて……。」
フウさんの言っていることがよく分からない。余韻とは何のことで、どうしてそんなに満足げなのか。
30秒近く待っても反応は無く、ついついしびれを切らす。
「あのー……そろそろ感想を……。」
「ん〜もうあざとい! ずるいってあれは……。」
「ずるい?」
「うん。ずるいから敬語禁止! はい決定!」
「えぇ……。もう分かりま……分かったよ……。」
この後も、フウのリクエストに何回も応えては、お互い異なった意味で悶絶していた。