遅刻ー2
「それで本題だが、前もって伝えてある通り、イルの処罰についてどうするべきか問いたい。」
「……。」
「ここ最近の二号兵団は、あんまり仕事ぶりが良くないですよね。」
整備部部長が口を開く。
「ん、確かに……。イルが隊長から降りたからか?」
「影響は少なくともあると思いますよ。ね、イル?」
「え? ああいや……ど、どうでしょうかね……?」
何故だか、ただ話を聞いていただけの僕が恥ずかしくなっていた。文脈からすると、遠回しに褒められているような気がしている。
さらに、今まで口を開かなかった兵団長も、補足する形で発言する。
「イルは隊長として十分優秀だ。統率力を評価するなら、復帰させる以外に選択肢は無いのでは?」
いつもしかめっ面の兵団長でさえ、今日はやけに言葉が甘い。物凄く調子が狂うから、できればやめて頂きたい。
しかし、整備部部長は悪ノリし始めた。
「確かに二号兵団の人達って、イルが普段から明るく接してるから、あまりネガティブなこと言わないですね。みんなやる気が強いというか。」
「ああ。士気の上昇は良いことだ。」
僕を置いてきぼりにして、僕についての話で勝手に盛り上がる司令官と部長達。その光景は非常に滑稽だったが、同時に湧き上がるむず痒い感覚に耐えられなくなって、つい言い放ってしまう。
「もう! 僕をどうしたいんですか?!」
「どうしたいって、私は戦線復帰させたいのだが。」
「私も賛成ですー。」
「俺は、最初から反対する気は無いぞ。」
「作戦に失敗したとはいえ、死者は出てませんし。いいんじゃないですか?」
「……ということだが? イル。」
「あーもう、調子狂うな……。」
慣れない謎の優しさに、身体が火照って仕方がない。多分、顔も真っ赤になっているのではないだろうか。
そんな困惑する僕の表情を見て、一人にやける整備部部長。この人には後で苦情を入れておこう。
「……分かりました。再び頑張ります……。」
「よし、決まりだな。今回はこれで解散とする。」
颯爽とその場を去ろうとする司令官を呼び止め、僕は言う。
「あの……ありがとうございました。」
「別に感謝されることはしてないが? ただ、皆君の活躍に期待しているんだ。これからも頑張ってくれ。」
ぽんぽんと僕の肩を二回叩いて、司令官は会議室を後にした。
その期待が、かなりの重圧であることは分かっている。
それでも僕は、司令官達に活躍を認めてもらえたことがただただ嬉しくて、いつもとは違う特別な感情が湧き出していた。