疑心暗鬼
ーー261708060915
「……。」
無駄に広い会議室の空気は、沈黙で立ち込めていた。
誰一人として会議を始めようとせず、ペンを走らせる音も聴こえてこない。
というのも、今回の会議の主幹であるイルが来ていないからだ。罰則中にも関わらず、イル自身の罰則に関する重要な会議に遅れるとは、相当な神経の図太さが伺える。
……とはいえ、落ち度は私にもあった。
イルに会議の強制参加を伝えるメールを送信した時刻が、開始予定時刻の30分前だったのだ。気づいていなくても無理はない。
既に予定時刻から15分が過ぎていた。
「……仕方ない。該当人物が到着するまで、定期連絡を行う。」
場の空気を変えようと、私はそう発言した。
何か報告したいことはあるか、と問うと、情報部部長が静かに手を挙げた。
「私から一つ、気になることが。」
「何だ、言ってみろ。」
「抵抗軍が、新しい兵器を開発した可能性があります。」
苛立っていた部長達の顔付きが変わる。
「水平方向に発射される、新型の砲台が北台湾地区で発見されました。基地を直接攻撃する為に開発されたと分析していて、北台湾基地が攻撃を受けたのも、この砲台によるものでしょう。」
「射程は?」
「最長で約5キロメートルと考えられます。」
情報部部長からの報告を、つい面倒だと思ってしまう。新兵器への対策や作戦を練らなければならない為、とにかく時間が取られるからだ。
正直、耳を背けたい案件だった。人民軍兵士にとっても、知らない方がいいことだってある。
テンプレートのような返事をし、続けて手を挙げていた整備部部長から話を聞く。
「ここ最近、基地周辺で頻発している局地的な通信障害に関する調査依頼についてですが……。」
「ああ、抵抗軍との関係は何か見つかったか?」
「いえ……何も見つかりませんでした。敵兵士の反応も無く、目視による確認も行いましたが、特に何も得られず……。」
「そう……か……。」
重要性の低いことだと分かったものの、緊張感は依然として解れずにいた。
この通信障害も抵抗軍による撹乱だとすると、すぐそこまで敵は迫ってきているということだ。"もし"ということを考えるなら、少しの安堵も許されない。
大きい溜息が漏れたその時、硬く閉ざされていた会議室の扉が静かに開かれた。
・北台湾:沖縄のこと。この世界では台湾になっている。