確認ー2
気を正して、正面にあるパネルを見る。
『東北地区における福島区域の鎮圧作戦は、無事に成功を収めた。抵抗軍にとっては比較的影響力の高い区域だった為、敵戦力に痛手を与えることが出来ただろう。しかし、中部地区の抵抗軍の反応が増加している為、依然として警戒態勢を取ることが重要だ。人民軍兵士も、抵抗軍の急襲に注意されたし。』
予想はしていたが、いつも通りの堅い文面が並んでいた。詳しく書いてあることに関しては良いのだが、もう少し柔らかい文面にならないのだろうか。
この疑問はドゥアルも同じだった。
「ほんっと見づらいなあ……。もっと工夫すりゃいいのに。」
「やっぱり? 司令官に言っちゃおうかな。」
「いや、多分無駄だよ。情報部の部長がこういう書き方じゃないと駄目だって言ってたらしい。」
そんな話を聞いた僕は、古風の考え方にお偉いさんは縛られているのかと思った。
若干呆れながら、次の項目を見る。
『ナンバー部隊の活躍をまとめました!』
下には年表とその年の出来事が書いてあったが、すぐにドゥアルが口を挟む。
「そもそも、どうして俺たち"ナンバー"は特別扱いされてんの?」
「普通の人達より運動神経いいから……とか?」
「えぇ……そんなんで特別扱いとか、全然ッ嬉しくないね。」
ドゥアルの言い方は少々棘があるが、言ってることは確かに共感できる。
かくいう僕も、司令官に同じような質問をしたことがあるが、「エキスパートの集まり」とだけ言われ、あとは適当に誤魔化されてしまった。
それ以前に、"ナンバー"という部隊名の意味すらも知らない。僕もそこに所属しているが、部隊内で得られる情報など無いに等しい。
何となく部隊に属して、何となく戦果を挙げて、何となく褒められて。
やり甲斐が無いという訳でもないが、なあなあで過ごしてきた人生ではある。
そう思うと、いつもとは違う刺激が欲しい。
なんでもいいんだ。衝撃が走るような出来事があれば。
例えば、人民軍の一番偉い人が殺されたり――いやいや、確かに大変な事ではあるけど、こんな考えがバレたら処刑待ったなしである。やっぱりやめておこう。
返答に困った僕は、今思っている本心をそのまま言葉に変える。
「……まあ、いいんじゃないかな。僕達が頑張れば、他の人達が楽になるし。」
「ほんとイルってお人好し。あっ分かった、二号兵団の部隊長だから、そういうことを言わないといけないんだろ?」
「そんな訳ないって。」
「嘘だぁ」と僕を小突くドゥアルを横目に、視線を今の項目から下に向ける。
『予告:各部隊長は、九時に作戦会議室に集合すること。』
「これ、イルは行かなくていいの?」
「うん。だって謹慎中だから……。」
そう、暇なのは処罰を受けているからだ。
少し前の作戦で、部隊長である僕は計画通りに指示を出したのだが、気持ちが焦っていたのだろう。ルートを変更して前線部隊を向かわせたのだ。
しかし、抵抗軍兵士もそのルートを通ってこちらに向かって来ており、前線部隊は不意打ちを受けて撤退。結果的に計画は崩れ、隊長である僕は罰として、出撃禁止の処分を受けていた。
戦闘に向かわせないという罰はどうかと思うが、それを言ったら更に罰が延びる。
今日まで仕方なく作戦指示の講義を受けていたのだが。
「あれ、確かイルの処罰についての会議だとか何とかって聞いたけど?」
ドゥアルが思いもよらないことを言う。
唐突過ぎて、再度聞き直す。
「えっ僕の? 本当に?」
「嘘ついても仕方ないだろ。ほら、もう九時半過ぎてる。」
「うわあああ、どうして教えてくれなかったの?!」
「いや、メール来るでしょ、普通。」
それはそうか、と思った僕はデバイスを手に取る――
「――あ、部屋に置いてきた……。」
部屋を出ようとしたあの時、僕はデバイスをベッドの上に投げてそのままにしていたのを思い出した。
そもそも僕が部屋を出た時間は8時半。その時はまだメールも来ていない。
ということは、僕が部屋を出てからメールが届いたことになる。
メールに気づけなかったことに関しては、デバイスを携帯していなかった僕が悪いが、前もって早く伝えなかった司令官もいかがなものか。
兎にも角にも、急いで作戦会議室に向かいながら、怒られた時の言い訳を考える。
司令官に怒られるのは目に見えていた。言い訳した所で何が変わるわけでもないのだが、気に触ることを言えば、烈火の如く罵声を浴びせられるだろう。
そんな司令官も、前はもっと優しかったような思い出があるのだが、いつからこんなに厳しくなったのか。
まあ、考えても無駄か。僕の目の前には、すでに作戦会議室の入口の大きな扉がそびえ立っていた。
一つ深呼吸をして、扉の取っ手に手を掛ける。
どんな意見も受け止めてやる、そんな心意気で部屋の中に飛び込んだ。
・抵抗軍:旧兵士達の総称。
・ナンバー:一部の優秀な兵士が集まった、人民軍の特殊部隊。