雨
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”敵が人であれ何であれ、一匹残らず殺せ。”
私たちはそう教えられてきた。
今までだって、何も考えずに敵を殺してきた。
私たちが殺すべき敵は、役目を終えた腐った肉。
だから、その教えに何の罪悪感も感じていなかった。
少なくとも私は、全ての欲求が快楽で満たされていた。食欲も、睡眠欲も、殺人欲も、性欲も、何もかも全て。
この作戦も成功すれば、大量の敵を殺害できるかもしれない。
そんな期待に胸を躍らせながら、敵のサブファイルサーバーにアクセスし、リプログラミングを試みる。
作業自体は簡単で、何事もなく終わるはずだった。
しかし、プロダクトキーを解除する為に開けたセキュリティホールから、ファイルに溜め込まれていた敵の記憶が黒い濁流となって溢れ出した。飲み込まれまいと作業を停止するものの、一度開いた穴は塞ぎきらず、為す術も無いまま波は私を攫っていく。
黒い粘液のような、物質かどうかも判らないモノの中で聴こえる声。
「いやあああああッ!!!」
「や、やめてくれ! 殺さないで!」
「お母さん……起きてよ……!」
悲鳴ともとれるこの声は、人間の声そのものだった。
どうして、どうして人間の声が聴こえるの?!
やめて聴きたくないの、そんな汚い叫び声なんか!
腐肉が人間を装って私に語り掛けているように思え、気が乱れる。
耳を手で潰してしまうほど塞いでも声は止まない。吐き気がするほど脳裏に焼き付いてしまったようだ。
叫び声は恐怖になり、やがて恨みへと変わっていく。
キエロ キエロ
コロス コロス
バケモノ バケモノ
脳を焼き切られた死体が、そう叫びながら這い寄る。
狂いそうになる気を静めようと、その場でうずくまって顔を伏せ、目を瞑るも、黒い背景は何一つ変わりやしない。
気づけば足首を掴まれ、顔を上げると、血みどろになった誰かの眼球が私を凝視していた。
恐怖のあまり、泣き叫んでしまう。怖いのはどっち?
足元に自分で水溜りを作ってしまう。
全身を貪るように纏わりつかれる。
自分の首に血塗れの手が架かる。このまま絞められるのだろうか。
私、ここで死ぬのかなあ。
嫌だなあ、死にたくないなあ。
もっと殺したかったなあ。
嫌だ
嫌だいやだイヤダ
嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ嫌だいやだイヤダ