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気分屋文庫  作者: 有賀尋
4/8

小さな神様と大きな光

虎羽(こう)!」


あ、まずい。


主が怒りながら僕を呼んでいる。

なんで怒ってるかって?

それは…


「お前また勝手に主人様の所に行ってきたな!」


そう、僕は主人様のところに行って幸せを分けてきたのだ。

僕の名前は虎羽(こう)

背は小さくてまだ100歳(人間で言うところの10歳くらい)だけど、これでも主である神様に仕える小姓。

こう見えて、他の小姓よりもかなり真面目だと思う。


あ、僕のことを怒りながら呼んでいた人は、僕が仕える(あるじ)で、僕や、僕の主が守っている下界の1人の人間を「主人様(しゅじんさま)」と呼んでいるんだ。


だけど、僕の主はそれを許さないみたい。

主曰く、「主人様はまだその時期ではない」んだって。

だから、勝手な事をしちゃいけないんだってさ。


「なんでですかー!主人様のことをちょっと助けただけじゃないですかー!」

「それが悪いと言っておるのだ!」


主と僕の追いかけっこは続く。

僕が主人様に分けた幸せは、小さな幸せだったのに、主はそれもダメなんだってさ。


「そら、捕まえた!」

「うわっ!?」


とうとう主に捕まって、首根っこを掴まれて主の部屋に連行されてしまった。


主の地獄のお説教タイムが始まる…。


「だいたい、何回同じ事を言われれば気が済むのだ!あと数日の事ではないか!なぜそれが我慢できぬのだ!次の満月まで何もするなと言ったではないか!月巫女様がまだお力を研ぎ澄ませておると言うのに、勝手な事をするな!…全く、お主に主人様を任せるのではなかった…!」


主はため息をついた。

そう、僕はたった1人の主人様が決められていた。

小姓の中でも1番早い。

僕は捕まってからというもの、かれこれ1時間正座をさせられてお説教を聞いていた。

そろそろ足の感覚が痺れてきてわからなくなりかけてきた。

同じ事をグルグル延々と言われるものだから、かなり辛い。


やらなきゃいいのにって…?



…………おっしゃる通りです。


1時間半を超えたお説教に、うんざりして聞く気も失せた頃、月巫女様がいらした。


「虎羽、届けてくれましたか?」

「つ、月巫女様…」

「巫女様!なぜこちらに!?」


主が驚いたように言うと、正座で限界を超えた僕を見て、月巫女様はさらにびっくりした顔をしていた。


「虎羽、もしかして言ってないのですか?」


僕は、俯いていた。

そう、実は今回僕が主人様に幸せを届けたのは、月巫女様から頼まれたから。

だけど、それを言ったところで主は分かってくれないのは充分知っていたから、僕は言わなかった。


「巫女様…?」

「虎羽、届けてくれましたか?」

「…はい」

「なぜ言わないのですか?」

「それは…」


主は信じてくれないから。


…………なんて言ったら、主からとんでもないくらいのお説教が飛んでくるだろう。

僕は何も言わずにただ「すみません」と俯いて言うしかなかった。


「虎羽の主よ」

「は、はい!」


主が月巫女様に呼ばれて背筋を伸ばした。


「今回は私が虎羽に頼んだ事なのです。虎羽はいつでも勝手に動いている訳ではありません。私のお使いを快く受け入れてくれているのです」


主は驚いた顔をしていた。

それもそうだ、僕が月巫女様にたまに呼ばれてお使いしている事さえ知らなかったのだから。

それに、これは僕と月巫女様の秘密だったからだ。


「それは、誠なのですか」

「えぇ、誠のことです。今までも何度かお使いを受けてもらいました」

「何も言わないものですから、虎羽の勝手な行動だとばかり…」

「その様子では、何も言わなかったのですね、虎羽」

「月巫女様が主様に言うなとおっしゃったのではないですか…。秘密ですよって」


すると、月巫女様は納得した顔をした。


「そうでしたね、私がそう言ったのでしたね。約束を守っていたのですね」


偉いですよ、虎羽。


そう言うと、月巫女様は頭を撫でてくれた。


「私はこれからも虎羽にお使いを頼みます。勝手な行動ではないことを分かっていてくださいね。虎羽、足を崩しなさい」


ようやく正座の開放宣言が出されて、僕は思いっきり足を伸ばした。足全体に血が再び巡り始め、次第に足に痺れがくる。


「…っ…!」


声にならない痺れの叫び。

いつもならちょっかいを出してくる主様も今日はちょっかいを出してこなかった。

ここで1番偉い月巫女様が僕を開放してくれたんだ、文句は言えまい。


ざまぁみろ。


何日かして、僕はお使いを頼まれて月巫女様の元へ向かっていた。

主からのお説教タイムは激減した。むしろなくなった、と言っても過言ではない。それもこれも、月巫女様が僕にお使いをさせる時には必ずお遣いの人が来てくれるようになったからだ。


もちろん、僕の主は1人しかいないよ?


最近は月巫女様のお使いも増えてきているし、月巫女様が以前、主と話をしていたのを聞いてしまった事がある。僕はどうやら不思議な力があるらしい。

月巫女様はそう言っていた。


不思議な力ってなんだろう?


僕はおそるおそる聞いてみた。


「月巫女様…」

「どうしたのですか、そんなに改まって?」

「あの…。僕に不思議な力があるって仰ってましたよね」

「あら、聞いていたのですか?」


すみません、と僕は謝った。


「僕には…。どんな力があるんですか?」


月巫女様は静かに微笑むけれど、何も言ってはくれなかった。


「今は知らなくても良いのです。いつか自分で分かる日が来るでしょう」

「月巫女様…」


いつか、か。


月巫女様は教えてはくれないだろうから、諦めることにした。


「月巫女様、今日のお使いは?」


そうでしたね、と月巫女様は白い袋を手渡された。


「主人様にこれを渡していただきたいのです」

「これは…?」

「虎羽、今日は何の日だか分かりますか?」

「え…?」


今日?何かあったっけ?


僕はしがない頭をしばらく捻らせた。


うーん、今日は新月ではないし、上弦の月の日でも下弦の月の日でもなければ三日月でもないぞ…?

龍星群が来るとは何もお触書も来なかったはずだけど…?


ふと思い出した。


「まさか、満月じゃ…?」


月巫女様は微笑んだ。


「当たりです。今日は満月、主人様のお力が最大限まで高まり、私の力が最も主人様に渡りやすい日です」

「じゃあこれって…!」


えぇ、と月巫女様は頷いた。


「これを持って、主人様のところへお使いに行っていただけますね?」

「もちろんです!」


僕は嬉々として下界へと降りていった。

僕が袋を持って行くと、主人様は女の人と一緒にいた。

2人の仲はとても良さそうで、いい感じの雰囲気だった。

下界は既に夜だった。


主人様に、おふたりに祝福と喜びを。


月巫女様の呪文が聞こえ、白い袋を開ける。

袋から光を放ち、まっすぐに光は主人様と女の人のところへ飛んでいった。

僕はそれが確かに届いた事を見届けると、月巫女様の元へと戻った。


「月巫女様、ただ今戻りました」

「おかえりなさい。上手くいったようですね」


そう言うと、僕の不思議な力の事を話してくれた。


「光が迷わずに主人様の元へと行けるのは、虎羽、あなたのおかげなのですよ」

「え…?」

「あの光、主人様の元へまっすぐに向かったでしょう?あの光は、主人様と主人様の奥様の元へと生まれ落ち、祝福を受ける生命の光なのです。あなたが袋を開ける前に、主人様の名前と場所を話しかけているのを、私は知っていますよ」

「あれは…!」

「癖なのも知っています」


う…。


僕は主人様にちゃんと届きますように、と主人様の名前と場所を袋に語りかけている。

届いた事を見届けるのも、道に迷ってしまった時に手を貸せるようにだ。

最初のお使いで失敗していたのを僕はずっと悔やんでいた。最初のお使いで届けるはずだった光は主人様へは行かなかった。

……誰に行ったかって?


主人様の隣にいる奥様だよ。


僕は、月巫女様の鏡を見た。

そこには、小さな新しい生命が主人様と奥様に祝福されている、未来の主人様の姿があった。


「虎羽、あなたはとても素晴らしい力の持ち主です。生まれくる新たな命を導き、祝福をもたらす力があります。鏡に映る未来の主人様のご家族の姿をご覧なさい。あなたが運んだからこそ、笑っていられるのですよ」


僕は、鏡を見ながら、僕が届けた光が、ちゃんと形をなしてくれることを祈った。

そんな僕を見て、月巫女様は微笑んでいた。


「虎羽」

「はい」


名前を呼ばれて鏡から目を離し、月巫女様と正対した。


「これからも光を運んでくださいね」

「…!っ、はい!喜んで!」


たった1人の主人様の笑顔を作れるのは幸せを運べる僕だけだ。


僕はもう1度月巫女様の鏡を覗いた。


主人様の未来に祝福と喜びを。


心の中で呪文を唱えた。

僕の耳には、主人様の喜ぶ声が幸せのベルのように心地よく響いた。

〜神様シリーズ第3弾〜


小さな神様のお話です。


『人を繋ぎ巡り会う』とか、『新しい命を運ぶ』という想像上の神様です。

今回は両方のお仕事をしてもらいました。


最初の失敗で、『人が巡り会い』、2回目で『新しい命を運ぶ』


なんとなく書いて、ずるずるとためてしまっていたお話でした。



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