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気分屋文庫  作者: 有賀尋
1/8

つるさんの贈り物

こ…こは…?

見たことのない景色に思わず飛び起きた。


辺りを見回すと、色鮮やかな風景が目に飛び込んでくる。


詳しい事は思い出せないが、強いて思い出せることと言えば、ついさっきまで無機質な白い天井を見上げて目を瞑った事くらいだ。

少し先には、綺麗な小川が流れていた。


ここはどこなんだろう…?


あるじ まってたよ


「え…?」


拙い言葉の方を振り向くと、そこには綺麗な1羽の鶴が僕を見ていた。


「主って、僕のこと?」


僕はそう問うと、その鶴は首を縦に振って答えた。


そう。つるさんの あるじ。

くるのを ずっと まってた


「どうして僕なんかの事を…?というか、ここはどこ?」


つるさん あるじ しあわせにする

そのために いままで しあわせ あつめにいってた

ここは つるさんの すんでる ばしょ

あるじしかはいってこれない とくべつな ばしょ


どうやら僕にもやっと幸せになる権利が与えられたらしい。

だけど。


「ごめん、つるさん。僕はつるさんがくれようとしている幸せは僕には必要なさそうだ」


そう告げると、つるさんはびっくりしているようだったが、僕のそばに寄ってきて、頭を頬にすり寄せてくれた。


あるじ かなしいかおしてる どうして?

じゃあ あつめた しあわせ どうしたらいい?


不安そうなつるさんをなだめながら、僕は言った。


「つるさん、これから僕の言う事を聞いてくれる?」


そう言うと、つるさんは明るくなった。


あるじとの やくそく つるさん まもるよ!


つるさんは任せなさいと言わんばかりに胸を張った。

その様子が微笑ましくて、僕は笑ってしまった。


あるじ やっと わらってくれた

あるじの わらったかお あったかな きもちになる


拙い言葉ではあるけど、必死に僕を慰めようとしてくれていた。


「つるさん、集めた幸せは、今僕のそばにいる人に与えてほしい。…僕は、その人を守れなかったから…。だからつるさん。僕の代わりにその人を守ってくれないだろうか。僕はきっと、もう向こうへは帰れないから」


そう言うと、つるさんは集めてくれていた「幸せ」が入った袋を僕に押しつけた。


あるじ つるさん あつめた しあわせ あげる


「だから僕は…」


つるさん あるじしか まもっちゃ いけない

でも あるじ そのひと まもれる

つるさん あるじ まもるひと まもれるようになる


「つるさん…」


あるじ かえろう?

あるじ まってる ひと たくさん いるよ


「……そうだね…。これを持って帰ろうか」


つるさん あるじ おくる

あるじ しんぱい しないで


そう言うと、つるさんは背中に乗るように促した。

僕は、つるさんの背中に乗って、僕の身体へと戻っていった。

つるさんが集めてくれていたたくさんの「幸せ」を持って。




目が覚めた場所は、最後に見た景色と変わらない、無機質な白い天井だった。


目を開け、そばにいた人を呼んでみる。自分でもうんざりするほどか細い声だったが、その人は、振り向いて僕の顔を見ると、涙を流して、大喜びで部屋を出た。

ふと、何かを握っているような感覚があった。

左手に、白くて綺麗な鳥の羽を握っていた。


今までの出来事が夢でない事を僕に悟らせた。


つるさん あるじ まもる

ずっと あるじと いっしょ


その羽からは、不安を消してくれる言葉が聞こえた気がした。



病気が治った今でも、白くて綺麗で汚れることを知らない羽をお守りとしてずっと持っている。


それが10年も前の話だ。

誰にも話したことはないし、話すつもりもない。


10年経った今でも、つるさんはたまに僕の夢にやって来る。拙さは変わらないけれど、精一杯僕を元気づけてくれる。


あるじ げんき してるか?


「あぁ、元気だよ」


そう言って、僕はつい最近知ったつるさんの大好物のクッキーを渡して、すり寄ってきてくれるつるさんを撫でるのだった。


〜神様シリーズ第1弾〜

この物語は、とある人に「自分の後には綺麗な鶴の守護霊がいます」と教えてもらったことから作り上げたお話です。


もしもその鶴と話ができたら。

自分の死ぬ間際で鶴と話ができたら。

その鶴のおかげで生きられているのだとしたら。


そんな事を考えながら、その鶴を想像しながら書き上げました。


貴方には、どんな守護霊がいると思いますか?

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