第1章-新世界-
それは唐突だった。
ある日突然現れた。
誰一人残すことなく、恐らくは地球上の人間全てにそれは与えられた。
それは、、、刀だった。
俺の名前は清24歳。地方生まれ地方育ち。東京の大学に進学したが、地元に就職して再び田舎暮らし。昔から田舎の長男は家を継ぐものと、親父から散々言われて育ってきたせいか、何ら違和感は無かった。
仕事は地方公務員。土日祝日が休みで平日でも17時には仕事が終わる。平日なんては早く仕事が終わって帰ってきても、ただぼんやり過ごす日々が続いていた。
「あ〜、今日も飲みにでも行くか。正広まだ仕事終わんねーかな。」
ブーブーブーと携帯のバイブが鳴る。ナイスタイミングでの正広からの電話だ。
「仕事終わったー?これから飲みにでも行くべ!」
俺は2つ返事で了解すると、すぐに正広を迎えに行こうと車に乗り、エンジンをかけた。ゴゴゴゴ、、ゴゴゴゴゴ、、、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
???!!?!?!?
地鳴り!?
ドンっ!!!!ドドドド!!!!
大きな音と共に目の前が真っ白になり、その後真っ暗になった。自分が意識を失っていたことに気付いたのは後の事だった。
気がつくと草原に横たわっていた。まるでRPGの世界に出てくるような草原だ。文明的なものは周囲には見てとれない。
「あれ??ん?どういうこと?ここは?」
完全にパニック。普通この状況で冷静でいられる人間なんていないだろう。自分の状況を把握できないままいると、近くに何か落ちている事に気付いた。
、、、 刀だ。
男なら思わず飛びついて振り回したくなるのが性だろう。俺もその性に純粋に従った。
ずっしり重い。草木もスパスパ切れる。本物の刀なんて目の前で見たことも触った事も無いが、手にする刀が本物だと理解するのに時間はかからなかった。
しかしおかしな事に気が付いた。それは色。刀身がうっすら赤みががっている。最初は血のりかと思い驚いたが、よく見ると刀身自体に色が付いている。だが、そんな事は気にせず、むしろちょっとかっこいい刀拾ってラッキーぐらいの感覚だった。その時!!
がさっ!!ガサガサっ!!!
何かが林から飛び出してきた!!
「うわっ!びびったー!犬??犬にしては、、デカっ!!」
「ガルル…ガゥ…ガァァァア!!!」
犬にしてはデカすぎてよく見ると姿形も明らかに異形な犬のような獣が狂ったかのように襲いかかってきた。
「うわっ!うぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
俺は一目散に逃げ出した!しかし獣は驚くほど速い!すぐ背中に迫ってきた!
「、、、、、細雪、、」
キラッ!と一瞬何かが光った瞬間!
「ガァァァア、、、」
獣はずしぃんと大きな音を立て倒れた。額には氷柱のようなものが刺さっている。
「危なかったわね。」
声のする方に顔を向けると、すらっと背が高く、目鼻立ちの整った綺麗な黒髪の女性が立っていた。髪は腰まである。
正直驚いた。女性の綺麗さにも驚いたが何よりもそのいでたちに驚いた。
手には刀。真っ青で思わず見とれるほどの色の濃さ。真夏の青空よりも濃い。そして、なぜか鎧をまとっている。
「コスプレ?でも刀と鎧ってどんなキャラだよ!つかさっきのデカい犬は何かのイベント?にしては本物感がすごかったような、、、」
「何をぶつぶつ言ってるのよ!もしかして、、、あなた今ここに着いたの?」
「着いたというか起きたというか、、、とりあえず気が付いたらここにいたんだよ。」
とりあえず自分の状況を説明すると、彼女は少し面倒くさそうな顔をしたが、丁寧に説明してくれた。この場所のこと。この刀のこと。この世界のことを。そしてやるべきことを。
この世界は完全に以前住んでいた世界とは違うらしい。地球なのか、違う惑星なのか、違う銀河系なのか、違う次元なのかそこまでは誰にも分からない。ただただ見慣れぬ世界ということだけ。
この世界には俺と同じようにある日突然この世界に迷い込んだ人間しかいない。しかし人間がいる以上、生活圏は存在し、村や街などが数多く存在している。先ほどの獣のような生物も野性に生息している。
そして、この世界の人間は全員刀を所持している。護身のためなど持つ必要があって所持しているわけではなく、強制的に持たされている。この世界に来た時に、自分の分身として、自分の掌からズズッと出てくるようだ。想像すると気味が悪い。俺は寝てる間に出たのかな?
そして何より刀の刀身の色が重要である。色によって能力が大きく異なる。この刀は自分の分身である。しかし、人間の潜在能力は刀の能力に影響しない。だが、逆に刀の能力は使う人間の潜在能力に大きく影響を及ぼす。例えばプロレスラーが弱い刀を持っていたとすると、力の強い刀を持った子供に勝てない。それほど刀の能力は大きい。そして、能力のある刀が与えられるかどうかは完全に法則は無く、ランダムである。
ここで色の話に戻る。色で刀の能力の強弱が判断できる。弱 緑→黄→赤→青→黒→白 強
大まかに色別にこのような序列になっている。また色は濃ければ濃いほど強い能力を秘めている。
最後に人間が暮らしている以上、社会が形成され、社会が形成されるということは人間の序列が形成され、その序列は当然ながら刀の能力の序列と同じということ。もちろん、そのコミュニティから外れて生きている人間もいるようだ。完全なる武力社会。その頂点にはこの世界「Others」の王が君臨し、その下位に四天王、九武大将などの位が存在している。
「細く説明ありがとうな!でも俺はすぐ帰るよ!帰り道はどこかな??」
「帰る?そうね、、、死ねば帰れるかもしれないわよ?」
「!?!?!? どういうことだよっ!」
「私も、おそらくはこの世界の大半の人が帰り道なんて分からない。どうやったら帰れるかも分からない。」
「おい!まじかよ!!俺は絶対帰るぞ!こんな今にも誰かに殺されそうな世界で生きてくなんて絶対ごめんだ!」
「私も探しているの。だけどこの世界は力が絶対的な世界。もしかしたら絶対的な権力を握る王ならこの世界の秘密を知ってるかもね。」
俺はこの時心に決めた。なら強くなるしかない。ならなければ帰るどころかすぐに殺されてしまう。
「分かった。強くなるにはどうしたらいいんだ?」
「無理ね。刀が全て。あなたは赤。しかも色が薄い。せいぜい獣に殺されない程度になるのが関の山ね。」
「俺は諦めねぇ!強くなる方法を探して、絶対に帰るんだ!あんた!俺に力を貸してくれ!」
「ずいぶんと都合のいい人ね。自分より弱い人間に力を貸すことにこの世界で意味があると思う?」
「、、、。俺は強くなる!あんたもりも王よりも!約束する!そして元の世界に帰ろう!」
「、、、雪、」
「ん?」
「私の名前よ。あんたなんかにあんたなんて呼ばれたくないわ!」
「俺は清!雪これからよろしくなっ!」
「暇つぶしよ。飽きたら勝手にさせてもらうわ。」
こうして二人の新世界での物語はスタートする。
続く