夢は四桁ランカー
「変わんないのかよ。」
思わず声に出してツッコミを入れてしまう。
もっともらしい光を放って変化なしってギャグセン高い。
さすがアン。
しかし、【召喚魔法】恐るべしと言ったところか。
思った以上に強力なスキルである。
これは益々チート感が出てきた。
だが、まだ確かめたいことがある。
果たして、この【召喚魔法】はどんなタイプなのか。
今の所、召喚しっぱなしだが倦怠感や疲労といったものは感じない。
こいつらを召喚してもうすぐ2時間ほどが経つが、変化は何も見られないのである。
もしかして、ステータスを高く設定しすぎたのかもしれない。
そんなことを考えていると部屋のチャイムが鳴った。
誰だろうか。
もう時刻は夕方である。
「はーい。」
そういって扉を開けようとして固まる。
あ、あいつら見られたらまずいのではないか。
「ちょ、ちょっと待っててください!」
そう言って慌てて部屋に戻る。
どうしよう。
いや、召喚したんだから帰すこともできるはずだ。
そう思い、帰そうと念じる。
しかし、何も変化がない。
くそ、教科書に載ってないスキルが早くも本領を発揮しやがった。
どうすれば帰るんだ。
「ピンポンッ」
もう一度チャイムが鳴らされる。
待たせるのもだめか。
こうなったら知らねえ。
「ハク、アンとレイを隠してくれ。」
そう言うとハクは首を傾げ、アンだけを消す。
そして固まった。
え?
「ハク、レイもお願い。」
そう言うとハクは首を横に振る。
できない、のか?
くそ、スキルの知識がないとこうもうまくいかないものなのか。
何だかわからないが、アンは隠せてレイは無理らしい。
そういえば、部屋のもの全てを消した時もレイだけは消さなかった。
よし、なら俺にだって考えはある。
「レイ、このコップの中に入れる?」
そう言って、少し大きめのコップを差し出す。
レイの大きさからしてギリギリ入れないかもしれないが、頼む。
レイはプルプルと振動し体を縮めた。
お!すごいぞレイ!大きさ自由自在なのか。
そうしてレイがすっぽりとコップに収まった。
見た目は水の入ったコップである。
後は、ハクに隠れて貰えば解決か。
「よし、じゃあハク、少しの間隠れててくれ。」
そう言うとハクは首をかしげる。
なんで?みたいな感じである。
しかし、直ぐに言われた通りに隠れた。
えらいぞ、ハク。
「お待たせしましたー。」
そう言ってやっと扉を開ける。
そこには初めて見る男の子と、リンネさんの二人がいた。
「本当だよ。
何してたの。待ちくたびれたよ。」
リンネさんはあー疲れた、と非難の目を向けてくる。
「すみません。
ところでそちらの方は?」
ずっと気になっていた彼について尋ねる。
「あぁ、この子も今日から入寮するの。
さっき到着したから挨拶にと思って連れてきた。
名前は瀬戸涼。
仲良くね。じゃ、私はこれで。」
そう言ってリンネさんは消えた。
またか、実はそれ気に入ってるんでしょうね。
そして、俺は瀬戸くんを見る。
彼はリンネさんが消えたのを見て驚きで固まっていた。
俺もこんな感じだったのかもしれない。
瀬戸くんは俺より背が低いが高1にしては背が高い方で、170cm後半くらいはあるっぽい。
純粋な身長は高い方であるが、猫背で暗めな印象によって一回り小さく見える。
「瀬戸くん、あれはリンネさんの十八番だよ。
そうやってびっくりさせるのが好きみたいで、俺もやられたんだ。」
そう言うと彼は首を傾げる。
「でも、リンネさんはドワーフですよね。
どういう仕組みですか?」
「ああ、あれは嘘で、本当はピクシーらしいよ。
あ、せっかくだからあがってかない?
ちょっと話そうよ。」
そう言って半ば強引に彼を引きずり込む。
同性の同級生に会えてテンションが上がった俺だった。
「お、お邪魔します。」
「適当なところにかけてて。
いま飲み物持ってくるから。」
そう言ってお茶とお菓子を用意する。
「あ、ありがとうございます。」
彼は縮こまって動かない。
あちゃー、やってしまった。
舞い上がりすぎて無理やり部屋に上げてしまった。
昔の俺がこんなことされてたら、ストレスで自殺してしまうところだ。
「あーっと、ごめんねいきなり。
嫌だった?」
そう言うと彼はワタワタと慌て出す。
「い、いや、そ、そんなことはないですよ。
ただ、ちょっとだけ緊張してて、あんまり友達とかできたことなくて、人の部屋に入った経験がなくて。」
言いながら落ち込んでいく瀬戸くんは、まるで俺を見ているようだった。
「瀬戸くん。」
「は、はい。」
俺は右手を差し出す。
彼も恐る恐る手を差し出す。
「これからよろしく。」
「よ、よろしくお願いします。」
俺たちは力強い握手を交わした。
「ところで、瀬戸くんはこんな早い時期に寮入りなんて珍しいね。」
「は、はい。実は僕、孤児なんです。
みんなに負担かけないためにも、早めに孤児院を出てきて。」
なんていい子なんだろうか。
思わず涙が出てきそうだ。
「そうなんだ。
偉いね、瀬戸くんは。」
「い、いえ、そんなことはないですよ。
じゃ、じゃあ、え、あ、ええと、あの。」
すると瀬戸くんは言葉に詰まったように、言いだそうとしてやめてを繰り返している。
なんだろう?
「あ、あの、その、な、名前は、その。」
あ、ああ!
俺としたことが自己紹介してなかった。
舞い上がりすぎだろう。
「あ、ごめん。
俺は御影繡。高1で君と同じ歳だよ。」
そう言うと瀬戸くんは驚いた表情に染まる。
「え、同い年?」
「うん。同い年。」
そう言うと瀬戸くんはホッと胸を撫で下ろした。
「な、なんだー。
先輩かと思ってずっと緊張してて。」
む、確かに高校生離れした背をしてるからね。
なるほど、だから、ずっと敬語だったのか。
てっきり、まだ壁があるからかなとか勝手に思ってたけど。
「あぁ、ごめんごめん。
一番に自己紹介するべきだったね。」
「い、いえ。こっちも聞くタイミング逃してたから。」
それからお互い談笑していると、ハクが手元のお菓子に抱きついていた。
え?
ちょ、いつからそこにいたの?
そんな幸せそうにお菓子にくっついちゃって。
てか、瀬戸くんにバレバレじゃん。
なんて言おう。
そんなことを考えながら瀬戸くんをチラリと伺う。
「そういえば、御影くんはなんでこんな時期に寮入りしたの?」
瀬戸くんは全く気にした様子もなく話を進めている。
え、もしかしてそんなに珍しくないの?
いや、少なくとも俺がこの世界で生きてきて15年間は、こんなの見たことも聞いたこともない。
じゃあ、なぜ?
「あ、ああ。
俺は、早めに寮生活に慣れとこうと思って。」
我ながら素晴らしい回答だ。
「そうなんだ。
ところで、さっきからどうかした?」
うっ、鋭いぞこの子。
さっきから瀬戸くんはハクに全く反応しない。
どういうことだろうか。
「あー、いや、なんでもないよ。
そういえば、もうそろそろ夕飯の時間じゃない?
食べてく?」
「え、いいの?
実は僕あんまり料理得意じゃなくて。
助かるよ。」
やっぱり全然ハクに触れない。
視線すら向けない。
なんでだろう。
そういえば、ハクに隠れるよう言った時、首を傾げていた。
あれは、もしかして。
「じゃあ、ちょっと待ってて。
簡単なのしか作れないから期待はしないでね。」
そう言ってハクとともに台所へ向かう。
「もしかして、ハクは俺以外に見えないの?」
疑問をぶつけてみた。
するとハクは俺の周りを飛び回る。
正解、だろうか。
なるほど、そういうことか。
だったらもう何も気にしなくて大丈夫か。
「もしかして他の子たちも俺以外には見えなかったりする?」
そういうとハクはぶんぶんと首を横に振る。
見えないのはハクだけなのか。
いいことを聞いた。
そんなことを考えつつ、料理にとりかかる。
今日の夕飯は野菜炒めだ。
ぶっちゃけそんなものしか作れない。
野菜も摂れるし、お手軽だし素晴らしい料理だ。
滅多なことでは失敗しないのも俺的にポイントが高い。
味噌汁も作ってみる。
「こんなのだけどいい?」
「うん。すごく美味しそう。」
お世辞が上手だ。
「「いただきます」」
***
瀬戸くんが皿洗いをしてくれた。
出来は上々だったと思う。
たぶん。
その後、すぐに瀬戸くんとはお別れして今は夜。
片付けがまだ終わっていないらしい。
こんな時間まで引き止めて悪いことをしたかもしれない。
そして未だに、召喚した子たちは健在である。
もしかしたら半永久的に召喚可能なのかもしれない。
そんなことを思いながら何の気なしに《スキルカード》を手に取る。
あれ?
御影繡
【スキル】
【思考加速】
【風魔法】
あれぇえ?
【召喚魔法】は?
消えてるんだけど。
え、もしかして一回きりのスキルだった?
そんなスキル聞いたことがないけど。
いや、でも現に【召喚魔法】なんてスキル今まで聞いたことがないし、一回きりのスキルだと考えれば辻褄は合うかもしれない。
そういうことだったのか。
3匹は今も楽しそうに遊んでいる。
遊んでいるのかどうかはわからないけど、アンの上にレイが乗ってハクはその周りを飛び回っている。
なんか楽しそうだ。
そういえば、レイは何ができるんだろう。
ふと気になってきた。
「レイはどんなことができるの?」
そういうとレイは待ってましたと言わんばかりに体を震わせ、巨大化する。
どんどん大きくなっていく。
どんどん、どんどん大きく、って。
「ちょ、ま、」
そのまま部屋と同じ大きさにまで巨大化した。
すごいけど、部屋が爆発してしまう。
やめろと言いたいがレイの体に取り込まれてしゃべることができない。
そのまま少し時間が経つと、レイは小さくなっていく。
よかった、死にかけた。
「ちょっと、急に...え?」
文句を言おうと思った俺がみた部屋の景観はさっきまでと全く違っていた。
全ての家具が新品のようにピカピカで、床も天井も壁もピカピカである。
俺の着ている部屋着もピカピカで、そういえば風呂上がりのような清潔感もある。
「こ、これ全部レイがやったの?」
恐る恐る聞いてみるとレイはプルプルと誇らしげに震えた。
「す、すげえ!
これ風呂も掃除も洗濯もいらないじゃん!
でかしたぞ!
これで生活費が浮く!」
こいつら本当にすごいやつばっかりじゃねえか。
一旦まとめてみよう。
ハクは物を消して、指定の場所に移動させることができる。
俺の推測が正しければ、恐らくゲームで言うところのアイテムボックス的な原理なんじゃないかと思う。
そして、俺以外には見えないんなら、学校に行く時に荷物を運ばなくて済むのではないか。
どのくらいの距離、時間まで物を運べるのか、消したままでいられるのかはわからないが、いち早く実験してみよう。
次に、レイは大きさを自在に変えられる。
最大と最小がわからないためなんとも言えないが、持ち運びが簡単にできる風呂と洗濯機と掃除機を手に入れたと考えれば、なんてやつだ。
《ランカー》になったら野宿なんて当たり前、汚れなんて気にすることもない毎日だと聞く。
レイさえいれば全ての問題に片がつく。
夢が広がる。
最後にアン。
こいつはいまの所出番は少ないが、壊れず、瞬時に形を変えられる武器だと言えば、どれほどの価値があることか。
一番の当たりはこいつかもしれない。
こいつらと一緒に早く冒険をしてみたい。
そんな気持ちになってくる。
この世界には俺たち人族が住む大陸と魔族が住む大陸の二つが存在する。
200以上のランクを持つ者たちは《ランカー》と呼ばれ、その殆どが【戦闘スキル】持ちである。
彼ら《ランカー》は人族が住む、この大陸にいる魔族を仕留める者と、魔族が住む大陸にいる魔族を仕留める者の二種類がおり、後者の《ランカー》ほど、ランクが高い傾向にある。
勿論、後者の《ランカー》の方が得る者も危険も大きい。
今の俺の夢は《四桁ランカー》だ。
そのためにはこいつら3匹は非常に助けになる。
感謝するほかない。
この高校3年間をかけて、こいつらの能力の把握に、俺自身の能力の把握、鍛錬までしなければ《四桁ランカー》の夢は夢で終わってしまうだろう。
それほど《四桁ランカー》の者たちは皆揃って化け物であるのだ。
そうと決まれば明日からやることだらけだ。
これからの人生に期待しつつ俺は明日に備え眠りについた。




