計画と失敗
「...アルタイルの反応が消えた?」
とあるマンションの一室で、ベッドに横になった男が呟く。
ベッドから半身を起こして、フレームのない眼鏡を装着しスマホを操作し始める男。
電話はワンコール鳴りきったかというタイミングで繋がる。
「ナニー?」
右耳に当てたスマホからは、やけにイントネーションの外れた高い声が聞こえる。
「そっちの計画に不備はないとのことではなかったか?」
インパクトのあるその声を特に気にした様子もなく、電話越しに聞こえてくる声とは対照的な低めの声で問い掛ける男。
まるで問い詰めるかのようなその口調に、電話越しの声は慌てて答える。
「ナ、ナンデオコッテルノ?
ウソハツイテナイデスヨ、ワタクシハ。
ナニカアッタノデ?」
その慌てた返答からは嘘の気配は感じ取れず、男は眉間にしわを寄せる。
電話越しのその声に、先程までの少し怒気のある表情を変化させ、疑問の表情を浮かべる。
「...アルタイルに忍び込ませていた霊の反応が消えた。」
その言葉に電話越しから驚きの気配が伝わってくる。
「ナッ!?
デ、デモレベルハゴダッタハズデハ?」
「ああ、確かにレベル五の霊を送り込んだ。
現在のアルタイルの戦力ではどう足掻いても対処できないレベルの筈だ。
お前さえしくじっていなければ、な。」
そんな意味深な言葉に焦りの気配を見せる電話越しの声の主。
「ワ、ワタクシハケイカクドオリ、アルタイルノシステムヲダウンサセマシタ!
...センリョクノブンサンモミスハアリマセン。」
まるで上司に叱られる部下の様に必死に自分の無罪を主張する声。
その声からは、やはり嘘の色は見て取れない。
男はさらに眉間の皺を深くさせ、考える。
計画通りにいけば、今頃憑依対象者の意思を飲み込み、完全な男の駒になっていた筈の霊。
その計画を確実にするべく、アルタイルには支配下の魔物をぶつけさせ、霊を対処する可能性のある人物を外に誘い出した。
さらに念を入れ、万一にも対処されないよう、危機察知システムをダウンさせるまでの用意周到振り。
しかし男の【スキル】は、確かにその霊との繋がりが途絶えたのを感じ取った。
計画実行に向けてアルタイルの状況の把握は完璧なはずである。
何せアルタイルには"あいつ"をニ年前から送り込んでいるのだ。
計画実行直前まで逐一連絡を取っていたそいつがしくじる筈がない。
いや、"あいつ"の【スキル】の特性上しくじりようが無い。
"あいつ"が裏切ったなら話は別だが...それこそあり得ない。
計画は"あいつ"と俺とこいつの三人だけのもの。
そもそも計画実行時の状況の把握も"あいつ"の領分だ。
一番有り得る穴はこいつだけ。
そのこいつがミスをしていないとすれば...。
対処されたというならば、"あいつ"と連絡をとったその後だ。
そんな馬鹿な。
あり得ない。
"あいつ"と最後に連絡を取ったのは、計画実行時。
憑依し、憑依者の自由意志による対象の殺害完了と同時に"支配"は完了するはず。
しかし、それが失敗したというのであれば、それは。
「...憑依者の殺害が失敗した?」
そんな馬鹿な。
男は自分の出した結論を有り得ないと斬って捨てる。
憑依直後と言えども、レベルは五。
"四桁越え"でも殺してしまえるほどの戦力はある。
しかも、今回の霊の能力は【侵食】【再生】【空間術】の特別製。
それでも万が一のことを考え、力のある戦力と対面しないよう、それらの力が外に向くよう細工した。
計画が失敗する可能性など"ゼロ"だ。
...それなのに。
「もう一度聞く。
ミスはなかったんだな?」
「ハ、ハイ!
イエスサマデモホトケサマデモナンニデモチカイマス!」
可哀想なほどに取り乱し答える電話越しの声。
よっぽど男の怒りが自分に向かうことを恐れているのだろう事がうかがえる。
「そうか。」
お前は無神教だろう、そんな考えを隅に追いやり電話を一方的に切る。
男は目を瞑り考える。
確かに霊との繋がりは切れている。
どういう事だ。
計画の失敗は有り得ない。
誰もミスはしていない。
しかし、【スキル】は計画の失敗を伝えている。
だとしたら。
本当に"対処された"のだというのならば。
それが可能な人物は。
それが起こり得るシナリオは。
「...殺害対象者が計画実行後に、霊を無力化する程の力を得た?
...そんな、少年漫画の主人公じゃあるまいし。
いや、しかし...。」
男の独り言は、とあるマンションの一室に溶けて消えた。




