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カオスな状況


真っ赤な目に屈強な肉体、口元は歪んでおり、笑っているつもりだろうか。


非常に凶悪な笑顔で見つめる先には、ダイナマイトボディを押し倒し苦笑いをするヌイが。


「なんだ?

楽しみの最中だったか?」


「...ああ、そうですね。

なので、今のところは帰ってもらっても?」


ヌイの返しにガハハと口を開けて豪快に笑う男。


ピタリと笑いを止め、真顔になる。


急な表情の変化に嫌な汗が止まらないヌイ。


「...笑えねえ冗談だ。」


ぼそりと呟き消える。


もちろん大人しく帰ってくれたわけではない。


「くっ!!」


【風魔術】によって次に現れる場所を把握したヌイは歯を食いしばりながらウォンさんから離れる。


「てめえ、絶テェ許さねえ。」


「...身に覚えがないんですけど。」


ガキィっと、およそ人間からは聞こえるはずのない音を立て、男の拳を両腕をクロスさせる形で受け止めるヌイ。


またもや消える男。


ジンジンと痛む腕をぶらぶらさせ警戒するヌイ。


「い、行くよ!」


ヌイが標的になったことを瞬時に把握し、他の二人を避難させることを選んだカイン。


上司であるウォンさんに睨まれながらも職務を遂行する彼は、意外と度胸があるのかもしれない。


何が何だかわからないリョウと原田先輩の二人はカインに言われるがまま連れて行かれる。


三人が出て行き、ウォンさんとヌイ、田岡先輩の三人になった室内は、異様な静けさが支配していた。


「そこの女は逃げなくていいのか?」


ヌイから数歩離れた先に現れた男はそんなことを問いかける。


「...これでも脱走した男を拘束する職務途中でな。

なに、気にすることはない。」


言いながら冷や汗が頬を伝う。


言葉を喋る拘束対象に"口有り"の存在が頭をよぎったのだろう。


先ほどのリョウと原田先輩の二人の証言を信じるなら、あの段階で"口有り"へと変化していたのだろう。


そんな推測をしつつ目の前のその人物を観察する。


そこには、黒は見て取れず、唯の人間が一人佇んでいるのみ。


一つおかしな点を挙げるとすれば、目の異常な赤さだろうか。


充血なんてレベルではない。


ただ、それ自体は特に取り上げて騒ぐことでもないだろう。


魔暴化によって起こっている変化、その程度の認識で事足りる。


しかし、ベテランの警官が解せない一番の問題は、体に"何の変化もない"ことだろう。


つまり、目の前の人物には魔暴化の症状の一番の特徴である黒い靄が確認できないのだ。


だったらこの赤い目は何なのだろうか。


この空間にいる正常な二人の思考はそこに収束する。


目の前の赤い目をした人物は一体"何なのだろうか"?


「そうかい。

警察も大変だなぁ。」


そんな呑気なことを大きな独り言で呟く。


お前だよ、なんてツッコミは生まれない。


本気で言っているのか、それとも皮肉なのか、どうにも理解に苦しむ。


「じゃ、すまねえが俺はこいつに用があってな。

一発ぶん殴らねえと気がすまねえんだ。」


「...もう充分だと思うんですけど...。」


うるせえとばかりに姿が消える男。


次の瞬間にはヌイの目の前に現れ、拳を顔面へと振り抜く。


「うぉ!」


目の前を通過するぶっとい腕から慌てて距離を取る。


「ああくそ!

黙って殴られやがれ!」


「そ、そんな無茶苦茶な!」


二人の鬼ごっこが始まった。


男が何もない空間から現れては、ヌイが悲鳴をあげながら拳を躱す。


もはや、目で追うことすら難しいその鬼ごっこに、ウォンさんはどうすればいいのか、所在なさげに右往左往している。


手にはしっかりと真っ白の糸が握られており、何とか拘束しようと機を伺っているようではあるが。


どうやら二人の戦いについていけない様子である。


現れたと思ったら消え、現れたと思ったら消え、もはや異次元の戦いである。


そんな常軌を逸した光景もそうであるが、ウォンさんは他にも悩んでいることがあった。


それは、"拘束するべきなのか否か"ということである。


というより、拘束してどうにかなるとは思えなかったのである。


自分でも何を考えているのだと思うのだが、見ている分には全く危険を感じない。


見た感じ魔暴化の特徴は全くなく、会話にもおかしな点はなかった。


いや、脱走してここでこんなことをしている時点で異常ではあるのだが、長年の経験からくる直感。

危険な香りを感じなかったのである。


これは完全な感覚であるのだが、この男からは魔物のような動物的な衝動は感じず、理性の色が濃く見えたのだ。


それらを鑑みるに、拘束した先に内面的な変化は見込めないだろうという考えが浮かんだのである。


つまり、今この部屋で暴れまわっている人物は、自分の意志で行動しているのではないかという推測。


そして、この男からは全く殺気を感じない。


まるで、"子供の喧嘩"。


そんな表現がしっくりくる。


かと言って、ただ放っておくこともできない。


「ひい!」


「逃げんな!」


二人の追いかけっこは止むことはなく、むしろより一層激しさを増している。


果たして此れを止められるものは存在するのだろうか。そんな疑問まで浮かんでくる。


「ちょっ、ウォンさん!

何とかしてください!」


「あ、ああ!

田岡一人!

やめなさい!」


ヌイからの助けを求める声を聞き、何とか言葉を発する彼女。


ピタリと、男は動きを止め、彼女を向く。


「なんだ?

俺になんか用か?」


びっくりするほどあっさりと、男は動きを止め問いかける。


まさかいうことを聞くとは思っていなかったウォンさんはあわあわと言葉を探す。


「あ、え、そ、そうだな。

部屋で暴れるのはよさないか?」


そんな的外れな言葉を呟く。


シーンと静まり返る室内。


ヌイの冷たい眼がウォンさんに突き刺さる。


「...ああ、そうだな。

御影!

表出ろ。」


「「え!?」」


意外にも言うことをすんなりと聞く田岡先輩は顎をくいっとさせ、扉へ歩き始める。


そんな衝撃的な展開に二人の声はシンクロした。


「ちょっ、ちょっと!

ウォンさん!」


「す、すまない!

咄嗟のことで...反省している。」


そう言って頭を下げるウォンさん。


いや、反省されてもとヌイ。


「おら、さっさとしやがれ!」


扉前で怒りの表情の田岡先輩。


カオスだ。

カオスがそこには広がっていた。


***


「ちょ、ちょっとカインさん!?」


「御影が危ねえって!」


一足先に部屋を後にした三人組。


リョウと原田先輩の二人は先導するカインに詰め寄る。


「...自分には御影くんを守りながら"口有り"から逃すことなんてできないよ。

"口有り"は先輩と御影くんに任せるしかないと判断したんだ。

自分を恨みたかったら全部受け止める。

本当にごめん。

先輩達なら何とかできるかもしれない。

いや、きっと出来る。

けど、君たちがいたら、御影くんも動きにくいだろう?」


その言葉に何も返せず俯く二人。


悲痛な面持ちのカインは爪が刺さっているのだろう、握った手からは血が流れている。


自分の無力さを感じ取っているのだろう。


「...わかりました。

信じます。

けど、もしもヌイに万が一のことがあったら、その時はあなたを一生恨みます。」


「...うん。

その時は甘んじて罰を受けるよ。」


そんな暗い雰囲気のまま、重い足取りで三人は警察署から避難する。


もう少しで外、そんな時カインが口を開く。


「...大丈夫。

きっと、先輩は御影くんに怪我なんてさせない。

...保証するよ。」


そう言って笑うカイン。


何処かぎこちないその笑顔に、リョウも答える。


「はい。

僕もヌイがやられるなんて想像つきませんしね。」


そう言って笑うリョウ。


その笑顔にはあまり力がなかった。


そんな空元気の笑顔を見せるリョウの耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。


「...うぅ、うっ!

お前はやっぱり男だ!

負けた!」


暗い表情の三人を待ち構えていたのは、ヌイの足元に這いつくばって男泣きをする田岡一人と、それを困ったように見下ろすヌイ。


その二人と少し離れたところで呆然と立ち尽くしているウォンさん。


それらを囲み、警戒している様子の警察官複数。



「なんだこれ。」



原田先輩の小さな呟きに答える声はなかった。



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