新しい朝
朝、目を覚ますといつも通り、愛すべき三匹が俺を囲む様に寄り添っていた。
「...おはよ。」
"何度目の今日"だろうか。
今度こそ何とかしてやる。
そんな意気込みと共に、手にしたスキルカードに目を落とす。
御影繍
【スキル】
【思考加速】
【風魔術】
【捏造】
【耐性】
「あれ?」
そこにあった文字に思わず声を出してしまった。
「捏造?」
何故か身に覚えのない【スキル】があることに首を傾げる。
そして、消えた"二つ"の【スキル】に。
黒い靄がある限り、前には進めないと考えた俺たちは、レイがとった【耐性】の【スキル】に着目した。
黒い靄に対して【耐性】の【スキル】で無効化ができるのではないか、という安直な発想であったのだが。
とってしまったものは仕方がないと、その路線で攻めてみることにした俺たちは、似たような【スキル】の【適応】をとってみることにしたのだ。
【風魔術】と同様に、【適応】と【耐性】の二つが新しい【スキル】になってくれるのを狙ったのだが。
思ったようにはなってくれなかったようである。
「【隠蔽】と【適応】で【捏造】の【スキル】になったのか。」
狙いが外れて少し落ち込んだが、思わぬ方向に変化した【スキル】に少しだけ期待する。
「っと、その前に。」
少し離れた位置にあるスマホに意識を向ける。
いつも通り、【風魔法】を使おうと試みる。
「おぉ?」
何だこれ?
いつもと全く違う感覚。
まるで空間そのものを操っているような、不思議な感覚。
ふわふわと俺の思った通りに浮遊してくるスマホ。
「...すげえ。」
今まで使ってきた【風魔法】とは比べ物にならないくらい精密に風を、いや、もはや空間を把握して操作できる気がする。
これならもしかしたら...。
そんな期待に思わず笑みを浮かべてしまう。
目を瞑っていてもスマホの位置が手に取るようにわかるし、それだけじゃなくて、部屋にある全ての物の位置や大きさ、形までもわかる。
【風魔術】様様である。
もうなんだってできる気がする。
空間全てを掌握しているような、神にでもなったような、そんな錯覚に陥るほどの全能感。
今まで使っていた【風魔法】がオモチャに感じる程である。
「...これ、すごくね?」
誰にでもなく呟く。
危ない奴である。
「そうだ、こっちのスキルも試してみるか。」
独り言が多い。
よっぽど興奮しているらしい。
「何で試そうか。」
【捏造】の【スキル】を試そうと部屋を彷徨う。
...ていうか、【捏造】ってどんな【スキル】何だよ。
久しぶりに感じる手探り感。
初めて【召喚魔法】を使ったときを思い出す。
少しワクワクしているのはしょうがないだろう。
男の子なのだ。
「それにしても、どうしようか。」
新しく手に入れた【スキル】を使おうとうずうずしてみるが、どう使うのかも、使えるのかもわからない。
ふと、手にしているスマホとスキルカードに目を落とす。
...先ずはイメージしやすい文字から始めてみよう。
名前通りの【スキル】なら...。
そう思った俺はスキルカードに意識を集中する。
ぐにゃりと何かが歪む感覚。
御影繍
【スキル】
【思考加速】
【風魔術】
【捏造】
【耐性】
「おお?
失敗?」
何も変わらないスキルカードに落胆する。
俺の考えた通りだったら、【風魔術】の【スキル】が【風魔法】に変わって【捏造】と【耐久】の【スキル】が消えるはずだったんだが。
「そんなうまくいかないかー。」
そんなことを言いながら、諦めきれない俺は、アンに【捏造】の【スキル】を駄目元で試してみる。
ぐにゃりと何かが歪む感覚。
最近気に入ってる鴉の姿で首を傾げるアン。
「やっぱだめか。」
割と本気で落ち込む。
ハクは誰にも見えないし、レイは透明で、形や大きさを変えられる。
だから、堂々と俺の近くに居ても違和感はなかった。
うん、なかったはずだ、多分。
けど、アンだけは見えるし、ある程度の大きさがある。
それに、最近ずっと鴉の姿をしているし、さすがに鴉を肩に乗せた高校生はヤバイだろう。
いや、流石に勘弁してほしい。
中二病ってレベルじゃない。
そのため、外に出るときはいつもハクの謎空間にいることになっている。
そのため、【捏造】の【スキル】で何とかしてあげようと思ったのだが。
どうも失敗に終わったらしい。
はあ...。
落ち込む俺を慰めようとしてるのか、レイとハクの二匹が寄ってくる。
優しい。
「ごめんな、アン。
だめだった。」
思ったようにいかなかった俺はアンを見やる。
アンは部屋の隅にある姿見に向かって首を傾げている。
鏡なんて珍しいものでもないだろうに。
「どうしたんだー?」
アンの変な行動に、何かあったのかと近づく。
「...なっ。」
姿見の向こう側にいる筈のアンはハクの様に半透明で、まるでさっき"【スキル】で想像した"通りの姿である。
「成功してた...ってこと?」
部屋には呆然と鏡を見つめる一人と三匹の姿があった。




