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re:start

ちょっといつもと違います。

「またダメだった。」


真っ黒な空間でただ一人、何度目かの失敗に項垂れる。


こんなの無理ゲーだ。

そんな愚痴をこぼし、同じく真っ黒な椅子に腰掛ける。


薄ピンク色の半透明な人型は、そんな男を心配しているのか、周りをふよふよと飛び回っている。


スライムのような水のような何かは、男の膝によじ登り、同じく心配しているのだろうか、ぐにぐにと形を変えながら、男の様子を伺っているようだ。


不思議なことに不定形の透明な物体は、真っ黒な空間でもしっかりその存在が確認できる。


男の右肩には真っ黒な空間と同化している、これまた真っ黒な鴉が止まっていた。

首をかしげる仕草に凡そ生きものと言える生気のようなものは見て取れない。


男はぱらぱらと机の上にある本のページをめくり始めた。


真っ黒なページに白い文字。


『田岡一人に憑依していたファントムにより殺されました。』


相変わらず淡白なその文は、今まで何度も目にしたものである。


男がこの真っ黒な部屋に来るのはもう何度目か。

十を超えたあたりから男は数えるのをやめた。


よくわからない真っ黒なコンビニ強盗に殺されること十数回。


腕や足を切り落としても再生され、拘束しても逃げられる。

触れられれば黒い何かが伝染し、回復は追いつかず、かといって傷を負わないことも難しい。

ならばと、逃げようものなら目の前に忽然と現れる。


魔王からは逃げられないとはよく言うが、序盤の敵すらもそんな様子じゃクソゲーだろう。


時間をかけて助けを期待してみても無駄だった。

数時間もすれば何処かしらは触れられ、蝕まれていく。


やれることは全て試してきたつもりである。


いや、まだ二つだけあったか。

男は自嘲気味に呟いて頭を横に振る。


残った二つの選択肢は、どちらも男には選ぶことはできないらしい。


二つの選択肢、それは"殺す"か"諦める"か。


男の考えうる残された二つの選択肢は詰まる所その二つであった。


生きるために人を殺すか、諦めて死を選ぶか。


どちらを選んでも後悔することは間違いないだろうと、そんな思考に染まっているのはこの黒い空間のせいだろうか。


死んでもやり直しが効き、考える時間も用意される。

こんな非現実的な現象に、もう普通の人間のような思考とはかけ離れていた。


次は何を試そうか。

そんな力無い呟きに答えられるのは自分自身であり、その答えすらもう随分前に出尽くしている。


ループする結論に気付かない振りをしてもう何回目だろうか。

こんな無駄な時間を使って無駄な思考に費やすのも、この黒い空間とゲームのように続くコンテニューの存在のせいだろう。


「...なんかあるだろ。」


懇願にも似たため息とともについて出たその言葉は、誰に向けられた言葉だろうか。


ふぅ、と一息ついた男は椅子から転げ落ちて床に寝転がる。


スライムのような物体は、その衝撃を吸収し体に纏わり付いたまま。


周りを飛び回っていた人型は男の額に腰かけた。


小さめな鴉は器用に体を移動して男の腹の上に陣取っている。


眉間にしわを寄せ、目を閉じて考える男。


そのまま寝息をたて始める光景は、もう何度目かのことであった。


『返して。』


何処からか聞こえて来るその声にガバッと起き上がる男。


キョロキョロと黒い空間を見回している。


『返して。』


何処から聞こえてくるのか、その声は男にとって一番身近なものであった。


「...なんなんだよ。いっつもいっつも俺の声で。

...どうすりゃいいんだよ。」


『返して。』


「だから!

いつもいつも返して返してって、会話になってないってば!」


男は、姿の見えない声の主に言葉を発する。


『返して。』


「だから!

どういう意味か説明してくれってば!」


『返して。』


このやり取りも、もう何度目だろうか。

最初こそ薄っすらと事情を感じ取り、精神的に参っていた男だったが、その声は同じ言葉を繰り返すのみである。


鈴木明希。

自暴自棄になって自殺して転生した大学生。


御影繍。

転生後の鈴木明希。


その事実に何の疑問もなく生きてきた鈴木明希だったが、どうやらこの声を聞く限り御影繍の体を乗っ取っていたようである。


心底罪悪を感じ、塞ぎ込んでいたこともあったのだが、この通り、会話が通じない。

返してと何度もそう言われるが、返し方も教えてくれなければ事情も説明してくれないのである。


男はそれでも何とかしようと必死に会話をしようと試みたこともあったのだが、この状況を見る限りうまくいかなかったのだろう。


「...もうなんなんだよ。

勘弁してくれ。

俺は人の人生奪う趣味なんかねえよ...。」


頭を抱えて一人ごちる。

周りの三匹はそんな男を励まそうと、ぱたぱたと慌てているようである。


『返して。』


「...はあ。」


気を取り直したのか、ただの逃避か、男は椅子に座り直し本を広げる。


『自殺しました。』


そのページを開いて腕を組み、首を傾げる。

そのままページを見つめ続けること数分。


前のページをめくる。


男は困惑していた。

文字化けのページに、ではない。


"覚えていない"ことに対してである。


目の前にある文字化けのページ。

次のページには自殺しましたの一文。

その次のページには家族と別れたこと、リンネさん、碓氷さん、リョウの三人に会ったこと、三匹を召喚したことが書かれている。


"覚えている"。


男は困惑していた。


この世界で自殺する前、男は何をしていたのか"覚えていない"ことに困惑していた。


いや、覚えていることもある。


両親が亡くなったこと。

養子であること。

昔家族は仲が良かったこと。


そんな事実に自分が自分じゃなくなる気がして、自殺したこと。


いや、おかしい。


男は矛盾に気付く。

いや、矛盾に納得した。


『やっと、返してくれた。』


いつも聞こえていたものとは違う、初めて聞く言葉。

男は驚きつつも理解することに成功する。


「ああ、ごめんよ。」


そう言って手にした"二冊"の本のうち、真っ白な本を"向かいの真っ白い椅子"に腰掛ける男...御影繍に手渡した。


『ちょっと遅いけどね、許すよ。』


そう言って微笑む御影繍。


同じく微笑むのは向かいに座った鈴木明希。


二人の男はようやく互いを認識し、物語は幕を開ける。

今まではプロローグみたいなとこあります。

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