天丼
ジリジリと鳴る目覚ましに、無理やり意識を引っ張られる。
...うるさい。
体を起こしながら音の発生源に手を伸ばす。
音が鳴り止みしばらくしてハクが飛んできた。
続いてアンも小さな鴉の姿で飛んでくる。
少し遅れてレイが必死に床を這って近づいてくる。
いつもの光景だ。
それにしても今日は変な感じだ。
頭がいつにも増してぼうっとする。
俺寝起きはいい方だと思っていたのだが。
それに何だか嫌な夢を見ていた気がする。
うまくは思い出せないが、思い出したところで何だという話か。
...頭痛い。
3匹を引き連れリビングへ。
コップに水を入れ飲み込む。
取り敢えず学校に行く準備をしようか。
***
リョウとシンと三人で学校に向かう。
「あと少しで休みだー!!」
急にそんなこと言うシンは本当に嬉しそうな顔である。
「何言ってんのまだ木曜日じゃん。」
「いや、もはや週の半分過ぎてんだぞ?
金曜日なんてほぼ休みみたいなもんじゃね?」
一理ある。
「リョウ、今日はバイトだっけ?」
「うん。
ヌイと夕方からだね。」
リョウと話していると、シンが顎に手を当て何事か考え始める。
どうしたんだろうか。
「ふーん。
やっぱ俺もバイト始っかなー。」
「バイトするにはある程度勉強できないとダメらしいけど。」
しれっとバカにしてみる。
「やっぱそうだよなー。
って、俺だってそこそこ頭いいんだぞ。」
まあ、この高校に入ってる程だしな。
「シンはバイト向いてると思う。」
「うん。
僕もそう思う。」
接客とか得意そうだよね。
「そっかー?
じゃ、ちょっと考えとくかな。」
そんないつも通りなんでもない会話をしながら学校へ向かう。
「じゃ、また。」
「おう。」
「夕方ね。」
学校へ着いたら俺だけ別れ逆の方向へ歩く。
クラスが真逆だから仕方ない。
一人でトボトボ歩き、一組の札を潜って教室へ。
すると、いつも通りの会話が聞こえてくる。
「納豆ってあるじゃん?」
「あるね。」
「あれ絶対腐ってるよね?」
「まあ、そういう食べ物だし。
ま、正確には発酵だけど。」
「初めて見た人よく食べようと思ったよね。」
「佐々木知らないの?
あれ、最初は罰ゲームで食べさせられたんだよ?」
「え、そうなの?
じゃ、その人は嫌々食べて、あれ?意外といける。
って思ったってこと?」
「まあ、嘘なんだけど。」
「なにそれ。
林のあほー。
一瞬信じちゃったじゃん。」
「それより豆腐ってあるじゃん。」
「急に話題変えるね。」
「絶対豆腐って腐ってないじゃん。
むしろ納豆の方が腐ってんじゃん。
絶対名前つけるの間違ってるじゃん。」
「...確かに!」
俺の隣で林&佐々木ペアのいつもの突拍子も無い会話が繰り広げられる。
...うーん?
なんか聞いたことあるような。
デジャヴってやつか。
...視線を感じる。
話しかけられるな、これ。
「「御影くんはどう思う?」」
...ここまで全部デジャヴ。
「あー、確かに変だよね。」
なんか変な感覚。
「でしょー、長年の疑問だよね。」
「じゃ、じゃあさ...」
そのまま二人は会話を再開した。
完全に二人の世界である。
おそるべしjk。
...なんかおかしいぞ。
「なに変な顔してんのよ。」
「変な顔って何だよ。」
こっちは違和感と戦ってるんだぞ。
「ヌイは結局碓氷さんとはどうなったの?」
「そ、そうよ!
どうしたのよ!」
...うわー、デジャヴから抜けられない。
***
結局そのままデジャヴを続けて放課後。
まるで一回経験したような1日だった。
ここまで覚えがあるなんて。
一度帰宅。
1日を振り返ってみる。
...なんだこの違和感。
気持ち悪い。
アンもハクもレイも俺に寄り添ってくれている。
心配してくれてるみたいだ。
やっぱりこいつらといると安心する。
ぼーっと気分を落ち着けていると、チャイムが鳴った。
...誰だろう。
「はーい。」
玄関を開けてみるとリョウがいた。
なんだろう。
「あれ、今日は向こうで着替えるの?
ヌイにしては珍しいね。」
うん?
着替える?
一瞬考えて思い出した。
今日バイトじゃん。
「あ、うん。
そうなんだ。
ちょっと待ってて。」
「うん、待ってる。」
急いで荷物と制服を纏めて玄関へ向かう。
珍しいことにレイもハクもアンもついてくるみたいだ。
てか、アンが外に出てるの珍しいな。
いつもはハクの謎空間の中にいるんだけど。
そんな疑問は一瞬のうちに忘れて、俺はリョウとバイト先に向かった。
***
「「おはようございます。」」
「おう。
お疲れ!」
原田先輩に挨拶して事務所へ。
そのまま着替える。
「レジ点はやっといたから、あがるねー。」
着替え終わりレジへ向かうと、藤原さんが事務所へ。
「あ、お疲れです。」
そのままレジに。
「いらっしゃいませー。」
高校の制服を着た、恐らく帰宅途中なのだろう生徒たちの接客を済ませていく。
学校はすぐ近くだから顔見知りも結構な頻度で出没する。
ちょっと恥ずかしい。
いつもはそんなことを考えているわけだけど、今日ばっかりは謎の違和感についてで頭は一杯だった。
***
夜。
外は真っ暗でシフトもあと僅かに迫った頃。
店内に凡そ似つかわしく無い悲鳴が響き渡った。
ちょうど品出しをしていた俺はそおっと悲鳴の主を確認する。
そこには真っ黒な人型の何かがナイフを持って立っていた。
...デジャヴ。
いや、これはおかしい。
さすがにおかしい。
違和感と起きてる事象に頭の中がこんがらがる。
そのせいだろう、持っていた商品を盛大にぶちまけてしまった。
ガシャッ。
散らばったお菓子を慌てて拾い上げる。
ちらりと黒い銀行強盗を見やると、バッチリと目があった。
...ですよね。
得体の知れない恐怖心と謎の違和感。
頭を埋め尽くすその感情にうまく体は動かず、呆然と突っ立っていることしかできない。
ボフンっと音を立てた直後、消えた男。
何故かはわからないが後ろだと思った。
あの男は後ろに現れる。
確信に似たその直感に突き動かされた俺はアンに後ろを守ってもらうよう念じた。
ガキッ、と嫌な音が鳴る。
振り返ってみれば、掌サイズの真っ黒な鴉が、突き出されたナイフを嘴で受け止めていた。
言わずもがなアンである。
ナイスー。
そんなふざけた思考が出来るのは、意外と余裕だからだろうか。
こいつは何なんだ。
ボフンッ。
またも音がしたかと思うと男は消えた。
視界が黒に覆われる。
目の前に真っ赤な眼があった。
え?
そう思った瞬間、脇腹に鋭い痛みが。
一拍遅れて痛みの発生源を確認すると、ナイフが俺の腹に突き立てられていた。
ドクドクと流れ出る血。
痛い。
風魔法を使って距離を取る。
そのままレイに念じて出血を止めさせる。
なんだあいつ。
ハクみたいに瞬間移動が出来るのか。
レイがいなきゃ死んでたぞ。
何故か冷静な俺の頭。
痛みは感じるが恐怖はさっきほどではない。
まあ、死んだことあるしな。
ボフンッ。
くそ、またかよ。
もうちょい間隔あけてくれ。
そんな願いが叶うはずもなく、視界の端に黒い物体が。
近えよ。
この時の俺は油断しすぎていた。
怪我してもレイに治して貰えば済むとか、俺のステータスなら死ぬことはないとか、自分の能力に頼りきっていた。
ボフンッ。
俺のすぐ右側で聞こえたその音が鳴った瞬間、俺の視界は知らない森の中だった。
どこだここは。
くそっ、転移で変なとこ連れてこられたのか!
ズキッ。
右腕に鋭い痛み。
ドクドクと流れ出る血。
レイ。
...レイ?
念じて治させようとした俺は近くにレイが居ないのにようやく気付いた。
ハクもアンもいない。
念じても通じる気配がない。
途端に蘇る恐怖。
真横には黒い銀行強盗が、俺に突き刺さったナイフを抜く瞬間だった。
「ぐっ...!」
...痛え。
そのままナイフを振りかぶる。
何回も刺されるかよ!
痛みは気合とアドレナリンで吹き飛ばし、風魔法で距離を取る。
黒い銀行強盗はナイフを持ち直しゆっくりと歩み寄ってくる。
いたぶるつもりか?
...感謝する。
「...死ね!」
最大出力で風魔法をぶち当てる。
思ったよりも軽い手応え。
黒い銀行強盗は枯れ葉のように吹き飛び、近くの大木に突っ込んでいった。
...そのまま動かない。
...あっけなさすぎない?
警戒しながら近付いてみる。
こういうのってだいたい起き上がるよね。
近付いていくと変化が。
なんと黒い何かが靄のようにサーっと消えていく。
まるで虫が這ってるみたいで気持ち悪い。
そのまま黒い靄は消え去り、中からは人が。
...え?
黒い靄から出てきた人物は筋肉ゴリラで...。
ぐらり。
視界は揺れ、体は冷たくなっていく。
思い出した!
俺はこいつに殺されたんだ!
くそ、なんで今まで思い出せなかったんだ!
耐えられず倒れこむ。
薄れかかった意識の中で、ハクと念が通じる気配がした。
その直後に掠れた視界にレイとハクとアンの姿が見えた。
...そのまま俺は意識を失った。
『殺されました。やり直しますか?』
どうやらまた間に合わなかったらしい。




