家族とお別れ
違和感に目を覚ます。
目の前には睡眠薬が入った小瓶が転がっており、手にしたコップからは水が溢れている。
俺は床に寝転がっていた。
『死に戻りを経験しました。ステータス値に+50の補正がされます。』
頭に響いたその音声はもう何度目のことか。
ぼーっとした頭を掻きながら起き上がる。
いつもより高い視界に酔いつつ取り敢えず洗面所へ向かう。
がちゃっ。
扉に手を伸ばしかけたその時、勝手に扉が開かれる。
「なんか大きい音したけど?」
入ってきたのは俺の義理の妹である御影栞だ。
その顔は不機嫌で視線が痛い。
今は真夜中だ。
恐らく自殺してそんなに時間が経っていないんだろう。
「ごめんなさい。」
取り敢えず謝る。
「次やったら殺すから。
あ、次なんてもうないんだった。
ふふ。」
実に嬉しそうに栞は笑う。
さっきまでの不機嫌顔が嘘の様に可愛らしい笑顔である。
別に俺は今から殺されるわけではない。
俺は所謂養子というもので、両親が亡くなってすぐ、俺は御影さん家に引き取られた。
御影夫婦は長いこと子供ができず、養子として俺を引き取ったのだがその次の年に栞が生まれた。
なんじゃそりゃって話だが実際にそうなったのだから仕方がない。
もともとこの家の跡取りとして養子を引き取ったため、俺は必要なくなってしまった。
そのためスキルの使用が許可された俺は表面上は高校に通うために、本質的には厄介払いという形で明日から一人暮らしをするのである。
なんて無責任なことだろうか。
仕送りはちゃんとしてくれるらしく、高校費用も全てを負担してくれることだけが救いである。
高校卒業後は野となれ山となれ方針ではあるが。
そうだった、だから自殺したんだったっけ。
「なに?」
栞を無言で見つめていると、凄く不機嫌な顔と声で言われた。
「い、いやなんでも。
ごめんなさい。」
俺の視界は確かに高くなっている。自殺する前は栞の方が背が高かったのだから間違いない。
つまり、さっきのステータスはすでに反映されている訳だ。
だが、栞からはそれについての言及はなにもなく、いつも通りである。
そういう補正がかかっているのだろうか。
「じゃあ、じろじろ見ないでよ。」
昔はお兄ちゃんっ子だったんだけどな。
そんな昔を思い出しながら、もう明日から会うことはないんだと思うと胸が痛くなった。
今でこそゴミを見る様な目で俺を見てくる妹だが、昔は何をするにも後ろを付いてきていた可愛い妹である。
「お兄ちゃんがいなくなっても頑張れよ。」
そんなことを考えていたからだろうか、自然と口と体が動いた。
俺の右手は栞の頭を撫でている。
「は、はぁ?!
急になに!?きもいんだけど!!」
栞は顔を真っ赤にして怒鳴る。
「あ、ごめん!」
直ぐに手を退かし謝る。
何やってんだ俺は。
栞は無言で部屋から出て扉を閉めた。
これはやってしまった。
まあ、もう明日から会わないからいいか。
いや、最後の最後でより嫌われるなんて最悪だ。
少し寂しいけど最後に会話できて良かったと捉えよう
。
...はあ。
「そっちこそ。」
落ち込んでいると、扉の向こうでパタパタと遠ざかっていく足音がした。
生きているといいこともあるもんだ。
少し心が軽くなった俺はベッドに入り眠りにつく。
明日は義理の両親に今までありがとうって言おうと心に決めた。
***
暖かい日差しに目を覚ます。
今日でこの部屋ともさよならだ。
部屋にはベッドと机があるのみで、殺風景だ。
荷物は先に引越し先に運んでもらっており、このベッドと机は昔父が使っていたものである。
気持ちちょっとだけ部屋を綺麗にして部屋を後にする。
リビングにはすでに父と母が起きていた。
「おはようございます。」
「ああ。」
「おはよう。」
素っ気ない二人の返事に少し気落ちするがいつものことである。
今更どうこう言うつもりはない。
やはり、栞と同じ様に俺の変化は気にならない様である。
その後、栞が起きてきて食事である。
この家最後の食事はハンバーグであった。
朝からハンバーグはきつくないかな。
そんなことを考えながら食べ始める。
朝はいつもパン派な御影家では珍しいがっつりした朝食である。
食べ終わって直ぐに出発する予定である。
さながら最後の晩餐のごとく重苦しい空気が充満している。
「おいしいです。」
こんな空気が嫌で感想を言ってみる。
「どうも。」
母は素っ気ない返事で、でも少し表情が柔らかくなった気がする。
朝食を食べ終わりお別れの時がやってくる。
「お世話になりました。
今までありがとうございます。」
そうすると、両親は少しだけ驚いた顔をした気がする。
そのままバスに乗り込む。
引越し先にはバスで3時間程で着くらしい。
バスが出発する。
手を振ってみる。
普段は会話も少ない家族全員がこれでもかというほどに手を振り返してくる。
少し呆然としてその様子を見守る。
思っていたのと違う。
もっと冷たい別れを予想していたんだけど。
そのままバスは出発し両親と妹の姿は見えなくなった。
バスの中で俺はハンバーグが大好だと、昔母に言ったことを思い出して涙が溢れた。




