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三度目の死

黒い靄を身に纏い、輪郭がはっきりとしない謎の男は、リョウに何かを呟いているみたいだ。



明らかに異常な空気を持っているその男は、少なくとも客ではないだろう。



大きめの刃渡りを持ったナイフは危険な光を反射している。



前世も今世も合わせて初めてのコンビニ強盗である。



取り敢えず、今の所動きのない黒い男を目にしながら、ハクとレイに念を送る。




直後、ハクとレイが現れる。




ハクの瞬間移動でレイも一緒に来たのだ。



本当にこいつらはチートだな。



そんなどうでもいいことを考えながら黒い男に注意を向ける。




取り敢えず、これで最悪怪我人が出ても問題はない。



そう思った瞬間、黒い男はグルリと顔を回転させた。



男の顔は全身と同様、黒い靄がかかっており、素顔はわからない。



ちょうど目の有るだろうところに、真っ赤な光が二つ存在していた。




魔物!?




黒い男はボフンっと音を立て、消えた。




へ?



ゾクリと背中に鳥肌が立つ。




反射的に前のめりになって跳ぶ。



その判断はどうやら正解だった様で、俺の首筋薄皮一枚が切られ、血が滲む。




俺の背後にはナイフを振り抜いた形の男が立っており、ナイフの先端には俺の血だろう、赤く変色していた。



全く見えんかった。



ばくばくと心臓が鳴り、冷や汗が止まらない。



自殺と他殺はやっぱり違うのだろう。



二回も死んでいて何だが、理不尽な死の恐怖とは自殺とは全くの別物らしい。



自分のタイミングで死ぬ分には恐怖など微塵も感じなかったはずなのだが。




何だこいつは。



とにかく、そう思った俺は【風魔法】を使って男の体を拘束する。



すごい力で拘束を解かれそうになったが、すかさずレイが加勢に入り、黒い男に纏わりつく。



流石に動けなかったのだろう、男はまたも音を立てて消える。




くそっ、どうすりゃいいんだ。



何処から攻撃が来てもいい様に体制を立て直そうと慌てて立ち上がる。




ぐらり。



体の自由が効かず、盛大にうつ伏せに倒れる。




な、なんだ?



異常に気づいたレイとハクは急いで俺の元に駆け寄ってくる。



俺は顔をあげるだけで精一杯だ。



何とか慌てて黒い男を探す。



フッと、俺の目の前に黒い男の脚が現れた。



もはや首をあげるのすら億劫になってきた。




くそ、あのナイフ毒かなんか塗って有るのか。




多分レイとハクは間に合わないだろう。




「やあぁぁああ!!!!」



「うおりゃあぁあぁああぁあ!!!!」




原田先輩とリョウの二人が叫びながら黒い男に突っ込む。



だめだ。


逃げてくれ。




俺の想いは届かず、二人は血飛沫とともに床に伏す。



レイに二人の治療を行うよう念じる。




レイはオロオロと二人と俺を見比べて迷っているようだったが、俺の命令に従ってくれたようだ。




くそ、もう音も聞こえない。



瞼は重く、体は冷たくなってきた。




寒い。




黒い男は俺に近づいてくる。



その顔には喜色が浮かんでいるような気がした。




ナイフを振り上げる。



ここまでか。



早乙女さんごめん。




今度の日曜日行けそうにないや。



そんな呑気なことを考えていたのは意外と余裕だったからだろうか。



全く余裕なんてないんだけど。




諦めて目を閉じようとした俺に何かが触れる。



瞬間、少しの浮遊感ののち、二人を治療しているレイの目の前に移動していた。



ハクか。




レイは分身して二人を同時に治療している。



三体目の分身が俺の首筋の傷を治そうと這ってくる。



助かった。



そう思った俺の胸から赤く光るナイフが生えてきた。



最早体の感覚もないのか、痛みは全くない。




ただ、焦りだけが頭を支配する。



まずいまずいまずい!!!




言いようのない恐怖感に包まれる。



ハクが俺に手を伸ばす。




俺も動かない体を無理やり動かし、腕を伸ばす。



最早後ろを振り向くことすらできず、ただ恐怖から逃れようと必死にもがく。




【思考加速】のせいなのか、はたまた走馬灯とかいうやつなのだろうか。



俺に送られる情報はひどくゆっくりとしていて、それは突然掻き消えた。




『殺されました。やり直しますか?』



俺の頭に響いた声はやっぱり冷たくて、けど妙な安心感があった。



***




意識を取り戻すと真っ暗な空間にいた。



小さな正方形の部屋。



机と椅子と扉が一つずつ。



真っ暗なはずなのにはっきりと見えたのは、この空間が普通ではないからだろうか。



俺はあの黒い男に殺されたのだろう。



何もできなかった。



何なんだあいつは。



脳裏に浮かぶのはあの異常に真っ赤な目。



赤い目は魔物の証である。



いや、あれが目だったのかどうかは分からないのだけれど。



てっきりスキルか魔法かで姿を隠した人間だと思っていたのだが、あいつは何なんだ。




そして、ここは何処だ。



前はこんなことなかったぞ。



小さな部屋を見渡すが、特に何もない。



ただただ真っ暗なその部屋にはやはり机と椅子以外は何もない。



うん?



机の上には本が一冊。



やはり真っ黒であるのだが、表紙に白い文字で何か書いてある。



何だ?




文字化けしているようなそれは、俺には読むことができない。



日本語のような気もする。



漢字?



いや、こっちの世界の言語かもしれない。



とにかく俺には解読できない。



呪文か何かだろうか。



気にしていても読めないものは読めない。




表紙は諦めて本を開いてみる。



「またかよ。」



やはり、表紙は表紙だったようだ。



そこにはまたも文字化けのような呪文が羅列している。




これは読めない。




そう思って本をペラペラめくってみる。



やっぱり何もわからない。



けど、やる事はこれしかない。



この部屋とこの本は何なのだ。



無駄に真っ黒な本をめくり続けるも、やはり全て白い文字化けのような呪文があるばかりである。



意味がわからない。



説明書くらいあってもいいだろう。



不親切だな。




ふと、本にひも状の栞が存在することに気づいた。



栞紐とかいう名前だったか。



本と栞が一体化しているあれだ。



ちなみにこの本はハードカバー式でやけに分厚い。



まるで辞書だ。



何の気なしに栞紐を手に取りそのページを開く。




そこには無駄に綺麗な字でこう書かれていた。



『田岡一人に憑依していたファントムにより殺されました。』



何故ここだけ読めるのか。



田岡一人って、あの筋肉ゴリラか?



ファントム、何だそれは?



疑問で埋め尽くされる脳内。



俺は訳が分からず、その簡素な文字列を見つめ続けた。

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