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黒いコンビニ強盗



「納豆ってあるじゃん?」




「あるね。」




「あれ絶対腐ってるよね?」




「まあ、そういう食べ物だし。

ま、正確には発酵だけど。」



「初めて見た人よく食べようと思ったよね。」




「佐々木知らないの?

あれ、最初は罰ゲームで食べさせられたんだよ?」



「え、そうなの?

じゃ、その人は嫌々食べて、あれ?意外といける。

って思ったってこと?」



「まあ、嘘なんだけど。」



「なにそれ。

林のあほー。

一瞬信じちゃったじゃん。」



「それより豆腐ってあるじゃん。」



「急に話題変えるね。」



「絶対豆腐って腐ってないじゃん。

むしろ納豆の方が腐ってんじゃん。

絶対名前つけるの間違ってるじゃん。」



「...確かに!」




俺の隣で林&佐々木仲良しペアの、女子高生らしい突飛な会話が聞こえてくる昼休み。



結局クラスマッチは優勝して一組で打ち上げやって、解散した。



なんだか高校生の眩しさにやられて早めに抜け出してしまったのを覚えている。



お前が今日の主役なんだからと引き止められたのだが、なんだか言いようのない苦しみに襲われて無理に途中で抜けてしまったのだ。



とにかく一人になりたかったことを覚えている。



なんでそう思ったのかはわからないけど、俺は時々そんな想いにかられる。



「「御影くんはどう思う?」」



林&佐々木ペアの唐突な話題振りに遭う。




彼女二人はいつも楽しそうにいろんな話をいろんな人に振っては笑っている。



なんだか眩しいなと思う。




俺にもこんな時代があったんだろうか。



そんなことをぼんやり考える。




「「ねえ、御影くん?」」



「...あ、そうだね。

確かに考えてみればおかしいよね。」




「でしょー、長年の疑問だよね。」



「じゃ、じゃあさ...」




二人はそのまま会話に帰っていく。



嵐のような子たちである。



「なにぼーっとしてんのよ。」



「いいだろ、別に。」



アリスはあの日以来少し優しくなったような気がする。



少なくともちょっとのことでは手を出してこないようにはなった、気がする。



...いや、それが普通なんだけど。




「ヌイは結局碓氷さんとはどうなったの?」




「そ、そうよ!

どうしたのよ!」




「な、なにもねえよ。」




そうだった。



あの日、クラスマッチが終わった後、碓氷さんと会話をしていた時だった。




優勝おめでとうとか、チーム戦すごかったよとか、そんな会話をしていた時。



ずんずんと、擬音がつきそうなほどの歩みでやってきた田岡先輩こと筋肉ゴリラ。



俺と碓氷さんは身構え、山岡、アリス、早乙女さんの三人はキョトンとしていた。




そんな俺たち、いや、俺に、筋肉ゴリラは涙を流しながら頭を下げてきた。



今度は俺と碓氷さんもキョトンとするしかなかった。



お前には男として負けた、澪ちゃんはお前の女だ。

そんなことを言っていた気がする。



取り巻きその一、その二、その三、に連れられ、わんわんと泣きながら去っていく後ろ姿に暫し目を奪われること数分。




碓氷さんに事情を聞いてみたが、首を振る。




あ、あの人確かチーム戦で戦ったよ。

山岡はそんなことを言う。




そのまま微妙な空気のまま解散したんだった。




いまだにあの謎は解決していない。




「御影繡さんはあの方を好いておられるのですか?」




若干上気した顔で問いかけてくる早乙女さん。



て、好いておられるってきょうび聞かねえな。



そして、あなた恋愛の話になると一層楽しそうになるよね。




「そんなんじゃない、よ?」




「なんで疑問系なのよ!」



アリスにポカンっと頭を叩かれる。



いや、嫌いじゃないけどさ。




「あれあれー、アリスちゃんはなんでそんなに怒っているのかなー?

もしかしてヌイのこと好いてるのかな?」




「な!

そんなんじゃないわよ!

ただ、はっきり言わないなんて碓氷さんに失礼でしょうが!」



「うげ!」



なぜかもう一発チョップを貰ってしまった。



そのチョップは俺じゃなくて山岡なのでは。




「おいおい。

痴話喧嘩は外でやってくれよ。」



「あんたほんとぶっ飛ばすわよ。」




中山くんの一言にアリスは拳を振りかぶり答える。



「アリスお前今日はやけに暴力的だな。」



「っ!

私はいつもこんなもんよ!」




いや、そうだけど。



わかってたんかい。




クラスマッチから一週間がたった。



俺たち四人の胸ポケットには紫に輝くバッジが付いている。




最初は特待生なんてめんどくさいと思っていたのだが、これがいかんせんいいことづくしであった。



まず、学費免除。



これはでかい。



俺の学費は全て親が負担していたからこれで少しは親孝行出来たかな。




...親か。



あの日以来会うことはおろか電話すらしていない。



時々メールくらいは来るのだが。




「特待生組は本当に仲がいいな。」



中山くんはそう言って笑う。



最近の俺たちは特待生組なんて呼ばれている。



少し恥ずかしい。



「まあねー。」



山岡は得意げな無表情でそう告げる。



ああ、そうだ。



特待生についてだったか。



このバッジをつけていれば、校内でのスキルの使用が許可される。



基本的にスキルは屋内で使用が制限されているのだが、特待生はその枠に入らない。



ま、限度はあるのだが。



「ヌイー。

今日はバイト?」



「ああ、そうだな。」



あと、特待生はバイトが可能である。



特待生以外にも正規のルートで申請することでバイトは可能であるのだが、特待生はそれが必要ない。



因みにバイト申請するためには幾つかの条件が存在しており、テストの点数であったり、日頃の素行であったり、少しめんどくさい。



特待生はその延長で就職にも有利になるらしい。



実質推薦を貰っているみたいなものである。



この特待生はこの学校の代表です。

そんな意味を持っていると言う。



特待生は他にも学校に対する発言力が生徒会ほどあるらしい。



その辺はよくわからない。



クラスマッチで優勝するだけにしては大きすぎる特典であるのだが、問題を起こせば、もちろん剥奪されることもあるらしい。



「へー、あんたどこでバイトしてんの?」



「ん?

あー、コンビニだよ。」



「...なんで?

この辺他にもいろいろあるじゃない。」



なんでって言われてもな。



前世ではコンビニバイトしかしたことなかったからな。



なんとなく選んでしまった。



それに、リョウと同じバイト先だし。



「しかし、特待生ってのはこんなに簡単になれるものでいいのだろうか。」




「いや、私たちが異常なのよ。

普通はこんなに簡単に優勝できないわよ。」



確かに。



歴代のクラスマッチ優勝チームは大体が三年生である。



特待生は一年に一度行われるクラスマッチで優勝したチームがなれるわけだが、一年の俺たちが優勝したことにより、来年のクラスマッチも優勝しなければバッジは次の優勝チームに渡ることになる。




ただ、特待生に一度でもなっていれば進学や就職は約束されるとのことらしい。



特待生効果恐るべし。




「でも、なんでこの白石高校でクラスマッチの戦闘チーム優勝者が特待生になるんだろーね。」



確かに、疑問である。




「いえ、特待生になる方法はあと二つあります。」



「そうね。

あんたたちはなんで知らないのよ。」




え、そうなんだ。



そもそも特待生制度があることも知らなかったんだけど。



「はあ。

仕方ないわね。

特待生になるための方法は三つよ。

一つ目がこの前あった5月のクラスマッチのチーム戦で優勝すること。

二つ目が今度の11月にある文化祭で表彰されたチーム。

これも四人チームで全学年合同ね。

三つ目が3月にある全校生徒合同試験での各科目の一位四人。

これは一般学、魔法学、スキル学、魔族学の4科目があるわ。

あんたじゃ無理でしょうけど。」




「うるさいな。

わかんないだろ。」




「ふっ。」



こいつ鼻で笑いやがった。



覚えていろよ。



「つまり合計12人の特待生がいるわけだな。」




「いえ、そうでもありません。

試験の一位は必ずしも四人とは限りませんので。

現にこの三年間4科目全て一人がずっと一位を独占していますし。」



まじ?


つまり、一年のときからずっと4科目一位ってことだよな。



化け物かよ。



「ちなみに、文化祭表彰ってどんな感じなの?」



「えーっと、去年は映画だったかしら。

あの映画界の巨匠、古谷充(ふるやみつる)さんが直々に表彰に来たらしいわ。」



古谷充って、あの古谷充?



この学校にきたの?



まじで?



ていうか。



「四人組で映画ってどうやんの?」




「【変声】のスキル一人と【絵描き】のスキル二人と、監督役が一人でアニメ映画を作ったんです!

震災をテーマに作成されていて、〈魔族のいない世界〉という題です!

題の通り魔族がいないどころか【スキル】のない世界なんです!

男女二人視点で物語は進むのですが、叙述トリックのような、最後にはハッと気付かされるそんな映画です!

古谷充さんは元々、人あっての映画という考えで、アニメ映画を批判していたのですが、この映画は唯一評価していまして、これ以上の映画はないと言わしめたほどなんですよ!

絵がとにかく繊細で、【変声】のスキルでそのキャラクターの心情がひしひしと伝わってくるんです!

涙無くしては見れない、そんな映画です!

円盤が発売されてて、未だに上位に組み込むほどの売り上げなんですよ!

私すぐ購入して8回は見ました!

オススメです!

一緒に見ませんか!」




弾丸のような喋りに圧倒されながらも、久しぶりに見たキラキラした早乙女さんの目に吸い込まれてしまう。



「う、うん。」



思わず頷いてしまった。



そうするとぱあっと明るかった表情がさらに明るさを増していく、尻尾があったら千切れるのではないかと思うほどの嬉しそうな顔だ。



「ど、どうしたの瑠璃?」



「あー、すごいね。」




アリスだけでなく山岡まで驚いている。



あ、そっか、早乙女さんのこの感じ学校では見たことなかったっけ。



教室を見渡してみれば、みんなが早乙女さんを見て固まっている。



普段の早乙女さんとは真逆だもんな。



小説だけではなく、映画までこんなに興奮するとは。



「じゃ、じゃあ今度の休みにでも見ましょう!」




早乙女さんは周りの視線に気付かない。



「じゃあ、二人も誘う?」




そう言ってアリスと山岡を見る。




早乙女さんは笑顔のままアリスと山岡を見る。



「どうですか!

見ますか!」



「え、ええ。」



「う、うん。」




アリスと山岡が押されている。



珍しい。




暫く、興奮が冷めない早乙女さんの会話に押されながら会話は進む。



「じゃあ、日曜日ですね!

用意しときます!」




あー、レコーダーとか準備できるのかな。



心配だな。



「わかったわ。

日曜日ね!」



ぐっと拳を握りニヤけ顔のアリス。



初めて見る表情に首を傾げていると、アリスがそれに気付き、顔を赤く染める。



「な、なによ。

初めてなのよ。

友だちの家に行くの。」




「お、おお。」



...かわいい、って言ったら殴られるんだろうか。




「楽しみです!」



今日は木曜日だから日曜日まであと3日か。



そわそわしてしまう。



***



放課後、一度帰宅する。



ハクとレイの2匹は一目散にキッチンに走っていく。



最近帰宅したらすぐに、キッチンに置いてあるお菓子に一目散である。



必死に食べる2匹を見ながら学校の制服からバイト先の制服に着替える。



丁度着替え終わった頃、チャイムがなった。




「じゃ、行くよ。」



2匹にそう言うと手を振って見送ってくれる。



最近はレイもハクもお留守番してお菓子を頬張ることが多い。



とは言っても、一瞬で転移して現れるため、そんなに変わらない。



パーカーを制服の上から着て玄関のドアを開けると、リョウがいた。



「行こっか。」



「うん。」




今日のシフトはリョウと同じだったため、一緒に行く約束をしていたのだ。



...友だちと一緒に出勤。



「ヌイはなんでバイト先で着替えないの?」



「うん?

ああ、向こうで着替えるのめんどくさくって。

家の方がいいかな、俺は。」



学校で体操服に着替えるのとか、あまり好きじゃない。



わからないかなあ。



***




「「おはようございます。」」



「おう。

お疲れ!」



今日のシフトは夕勤三人体制だ。



先に来ていた原田先輩は元気がいい。



裏で少し話してレジへ向かう。




「いらっしゃいませー。」



今は夕方だから、帰宅途中の高校生が多く見られる。



「レジ点はやっといたから、あがるねー。」



「あ、お疲れ様です。」




このコンビニの紅一点、藤原さんはささーっと裏に戻っていく。



「いらっしゃいませー。」



俺たちの時間が始まる。



***



時刻は午後9時を少し回ったところ。



あと1時間程でバイトはあがりである。



「きゃあああ!!」



品出しをしていた俺の耳に、おおよそコンビニとは無縁の悲鳴が飛び込んできた。




なんだ?



ちらりと様子を伺ってみれば、全身真っ黒に覆われナイフを所持した男がレジに向かっているではないか。




レジには原田先輩とリョウの二人が固まっている。




え、コンビニ強盗?




その黒い何かに包まれている男はレジの手前に立って何かボソボソと呟いているようだ。




ここからじゃ聞こえない。




店内にいたお客さんの殆どが我先にと外に逃げ出していく。




黒い男はそれに全く気にした様子を見せず、リョウに向かって何かを言っている。




ど、どうしよう。









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