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獣人と獣



「「うわああああ!!」」




「「きゃあああ!」」




阿吽絶叫が森の至る所で木霊している。




「いやー、まるで地獄だねえ。」




「これは、ひどいですね。」




「...なんであんた達そんなに平気なのよ。」




「...うわぁ。」




俺たち四人は木の陰に隠れて、他のチームがブラッドウルフの群れに蹂躙されている場面に遭遇していた。




あれから俺たちはブラッドウルフの群れを蹴散らし、しばらく身を隠していたのだが、他のチームはそうはいかなかったようで、襲い来るブラッドウルフの群れになす術なく蹂躙されている。




ある者は血だらけになりながら戦い、ある者は涙や鼻水を垂れ流しながら逃げ惑っている。



助けてくれ、痛い、などと叫びながら、ブラッドウルフに至る所を抉られているその様はトラウマものである。




何故こんなに無駄にリアルなのだろうか。



魔法で見せてる風景ならもう少しなんとかならなかったのだろうか。



てか、痛みも感じるのか。



...リンネさん恐るべしと言ったところだろうか。




俺とアリスは口を押さえてなるべく見ない様に気をつけているのに対して、早乙女さんと山岡の二人は真顔でその様子を観察している。




あの二人は何故あんなに平常運転なのだろう。



俺は君たち二人にも恐怖を抱いているよ。




それとは対照的にアリスは青い顔をして項垂れている。



意外だ。



むしろ血の海の真ん中で高笑いしてそうなんだが。



いや、さすがに失礼か。




「大丈夫?」




「...じゃない。」




涙目である。



いつもの唯我独尊な彼女はどこへ行ってしまったのか、すっかりしおらしくなってしまっている。




「あらあら、お二人は今にも死にそうな顔だねえ。

なんかあったの?」




「...なんでお前はそんなに平気なんだよ。」




こいつは本当にいつまでもふざけやがって。



普通こんな光景見たら気分悪くもなるだろ。




「うーん、早乙女さんはどう思う?」




「これくらいで情けないです。」




いやいや、逆に何故早乙女さんはそんなに平気なのだろうか。



恐ろしいよ。




そんなことを考えていると、蹂躙劇は終わったようで、悲鳴が途絶えた。



血を撒き散らして絶命したはずの何かは霞のように消散し、跡形もなくなっている。




どうやら俺たち側もブラッドウルフと同じようにやられたらああやって消えるらしい。




そんなんなら最初っから血とか痛みとか無くしてくれよ。



一生もんのトラウマになる。




「あ、もうそろそろかな。」




何がもうそろそろなのだろうか。



山岡の言うことはいつも理解できない。



そういえばリンネさんが魔法を発動させた時にも意味深なこと言ってたっけか。




「何がだよ。」




「いやー、もうそろそろ予選終わりかなーと思って。」




予選?



もしかしてこれ予選なの?



チーム戦はそもそもトーナメント形式だったはずだけど。



てっきりこの森はリンネさんの悪戯かと思っていたけど、そういうことなのだろうか。




「...あんたは何知ってるのよ。」




「いやー、クラスマッチって毎年恒例の行事じゃん?

けど、チーム戦について聞いても誰も教えてくれないから変だなーっと思って色々調べたんだけど。

実戦形式の予選と、トーナメント式の本戦があるらしくてさー。

実戦形式ってなんぞーって思ってたんだけど、こういうことらしいね。」




なるほど。



これでチーム数減らしてトーナメントするのか。



山岡はそんな情報どこで知ったのか気になるところだが、確かにそうすると辻褄が合う...のかな。




それにしても少しくらい説明あってもいいと思うんだけどな。




「...あ、もう一チームやられそうです。」




...やられそうて。



早乙女さん、結構バイオレンスだな。




言われて早乙女さんの見ている方向には、ブラッドウルフ7匹程に囲まれた四人組がいた。




御愁傷様です。



そう思って手を合わせ目を閉じる。




「...いや、あれはこっち側の人間だねえ。」




やけに真剣な表情で戦況を見守る山岡につられ、再度目を四人組に向ける。




ジリジリと間合いを詰めていくブラッドウルフの群れ。




それに恐れる様子もなく、四人は戦闘体制に入っているようで、それぞれが得物を構えて腰を落としている。




「...あれは、獣人かしら?」




「珍しいですね。」




その場まで少し距離があったため気づかなかったが、言われてみれば確かに耳や尻尾に特徴がある。



それも四人全員が獣人らしい。




獣人自体はそんなに珍しくもないのだが、この学校に入学している獣人というのは確かに珍しい。




前にも言ったように、この学校は主に就職が企業などの生産職に偏っているため、《ランカー》のような戦闘志願者はほぼほぼ入学しない。



そして、獣人は身体能力が高く、《ランカー》に多い。




つまりそういうことなのだ。




「お、彼はすごいね。」




山岡の言うように、一人だけ動きが他を圧倒している。



他の3人もなかなかいい動きをしているのだが、明らかに戦闘慣れしているというのか、一人だけ精錬された動きである。



狼のような鋭い眼光にチラリと見える犬歯。



白い毛で覆われた耳と尻尾は綺麗で、ただ一人だけ得物を持たず、素手で戦っている。




獣人チームの戦闘に目を奪われている一瞬の内にブラッドウルフの群れは霞に消えた。




「なかなかやるわね。」




「そうですね。」




目に活力が戻ったアリスと早乙女さんの二人は互いに頷きあう。



いや、なに調子取り戻してんのさ。




「終わりみたいだね。」




山岡がそう言うのとほぼ同時、足元に魔方陣が浮かび上がる。




この森に来る時に浮かんだものと似た形をしていることを見ると予選は終了したらしい。




意識がなくなる直前、獣人チームと目があった気がした。



どっかで見たことあるような。




***




「おーっと!

今年のメンツは優秀だぞ!

予選通過チームは全部でなんと17チームだ!」




耳に響いてきたのはそんな実況チックなもので、周りには俺と同じく棒立ちでキョロキョロしている生徒。



場所はもちろん闘技場で、森に行く前より人数が確かに減っている。



どういう原理なんだろうか。




何故かアリーナの観客達は盛り上がっているようで、うおー、とか何とか叫んでいる。




なんだなんだと辺りを見渡すと半透明の大きなモニターが宙に浮いており、そこには森の映像が流れていた。



へー、中継されてたんだ。



悪趣味な。




俺の肩にはハクが心配そうに寄り添っていた。



ああ、心配かけてごめんよ。




「では、これから本戦のトーナメントに移ります。

控え室へ移動してください。」




事務的なアナウンスの後にぞろぞろと動き出した選手に続いて俺たちも移動する。




ここまでなんの説明も無しである。



さすがにどうなのか。




「いやー、ぶっ飛んでるねえ、この学校は。」




同意である。



山岡にそんなこと言わせるなんてこの学校は結構やばいのではないか。



そんなことを考えつつ控え室へ到着すると、そのまま待たされる。




控え室は広く、俺たちの他にも何チームかと同じ部屋であるようだ。



ざっと数えて30人程はいるっぽい。



多分予選突破チームの半分が居るんだろう。




「おお?

お前ら1年か?

すげーな。

去年は1チームも予選突破チームなかったぞ。」




そう言って話しかけてきたのは大柄な男で、後ろにいる残り3人もなかなかいい体をしている。



人の良さそうな顔をしている。




「どうもー。」




山岡は手をひらひらして適当に流す。



お前は本当に、大物になりそうだな。




「すみません。

こいついつもこうなんです。」




「え、ひどいなーヌイは。

ところで先輩。

さっきの予選って何だったんですかー?」




全く無表情で告げる山岡が敬語を使ったことに静かに驚いていると、いい人そうな先輩は気にした様子もなく答えてくれた。




「ああ、あれは新人に対するシゴキみたいなもんでな。

まあ、表向きには心構えを鍛えるって意味合いがあるらしい。

魔物なんて空想の存在じゃないからなあ。

日頃から気をつけとけっていうこった。

伝統的なもので毎年やってるんだが、たまにお前らみたいにけろっとクリアしちまうもんがいるから面白いよな。

本戦も期待してるぜ。」




そう言って手を振り少し離れたところで席に着き、談笑を始めた。




何だか大物な風格を漂わせている。




「この学校趣味悪いわね。」




「同感だ。」




珍しく意見が合った俺とアリスだった。




***




「じゃあ一年一組Aチーム。

出て。」




呼ばれた俺らはその声に従って控え室から出る。




俺たちの前にも何チームか出て行き、5〜10分程で帰ってきたり、職員が呼びに来たりしている。




やっと俺たちの試合なんだろう。




「血が騒ぐぜえ。」




「なに言ってんだよ。」




相変わらず山岡はふざけきっている。



女子二人は真剣な表情で武器の手入れをしながら後に続く。




早乙女さんはレイピアを、アリスは刀をそれぞれ得物としている。



どちらも歴戦の勇者の如く立ち振る舞いに隙などなく、ピリッとした緊張感を醸し出している。




これは相手チームが先輩といえど御愁傷様と言う他ない。




闘技場に到着すると、割れんばかりの歓声に迎えられた。




「今回期待の新入生2チームの登場だ!」




うん?



2チーム?




そう思って相手チームを確認する。





「「「「あ。」」」」




相手チームと俺たちの声が見事にシンクロした。




そこには見たことある獣人四人組が佇んでいた。


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