ストーカー系男子
「す、すごい。」
思わず出た声に反応したのはリョウだった。
「ああ、ヌイは知らないんだったね。
彼女は文武両道を地でいってるスーパー女子なんだよ。
中学時代は成績は常に一位。
フェンシングの大会でも優勝してるくらいの実力だよ。
木刀も使えたなんて知らなかったけど。」
「そ、そうなんだ。」
あまりに綺麗な剣筋に見惚れてしまった。
動いた時に舞う綺麗な黒髪がまたいい。
そんなことを考えていると、早乙女さんが近づいてきた。
「早乙女さん。
すごかったよ。」
「ありがとうございます。」
そう言って頭をさげる。
近くで見るとさっきの動きが嘘みたいに感じる。
それくらい華奢な見た目をしてる。
どうやったらあんな綺麗な太刀筋が打てるのか。
謎だ。
「それにしても、相手の男は気絶しちまったな。
早く起こして謝らせよーぜ。」
「いや、いいです。
もうスッキリしました。」
そう言っていい笑顔になる早乙女さん。
「本人がそう言うなら何も言わねえけど。
それにしても、あの男言うまでもなかったな。」
「本当にね。
早乙女さんの実力知らなかったのかな。」
そう言って首を傾げる二人。
いや、あの男もなかなかいい動きをしてたんだけどね。
今回は相手が悪かったんだと思うよ。
「それでは、ご迷惑をおかけしました。
ありがとうございます。
では。」
そう言って歩き出す彼女。
後ろを振り返らずにズンズンと進んでいくその姿は、話しかけることを躊躇わせた。
「お、おい!
ちょっと待てよ!」
「はい?」
そう言って引き止めるシン。
「怪我とかねーのか?
派手に吹き飛ばされてたけど。」
「何も問題はありません。
心配ありがとうございます。」
そう言って頭をさげる。
今がチャンス。
「あの、早乙女さん。
さっきはごめんなさい。
変なこと言っちゃって。」
そう言うと彼女は一瞬固まり、そして一気に赤くなった。
「あ、いえ、全然問題ないです。
全然大丈夫です。」
またもフラフラと歩き始める彼女。
なんか、ぶつかられたの俺のせいな気がする。
「すまん。
二人で先に帰ってて。」
シンとリョウに告げて後を追いかける。
「あの、早乙女さん。
お詫びに送りますよ。
さっきみたいなことになったら大変ですから。」
「え、あ、いや。
だ、大丈夫です。
負けません。」
...戦って勝つ気満々じゃん。
「いや、危ないですよ。
僕がちゃんと送り届けます。
早乙女さんフラフラしてて心配です。」
「そ、そんなことは!」
そうやって勢いよく否定しかけて躓く。
俺は倒れかけた早乙女さんを支える。
お姫様抱っこみたいな形になってしまった。
「あ、すみません。」
慌てて離す。
「いや、こ、こちらこそ。」
赤かった顔をさらに赤くして下を向く彼女。
二人の間を沈黙が支配する。
どうしよう。
「あら、まだ帰ってなかったの?」
そう言って出てきたのは山岡くん。
本当にこの人は謎だ。
どっから湧いてきたのか。
「あ、いやちょっといろいろあってね。」
「決闘とか?」
知ってるのかよ。
何で聞いてきたし。
「うん。
そうなんだ。
それで今から帰るところ。」
「一緒に帰るの?
もしかしてもう付き合っちゃったの?」
な、そんなわけないだろ。
慌てて否定しようと口を開く前に早乙女さんが吠えた。
「ち、違います!
あり得ません!」
今まで聴いた中で一番大きな声だった。
いや、そんなに全力で否定しなくても。
...はあ、落ち込む。
「あ、いや、嫌だというわけではなくて!
御影繡さんに失礼だなと思いまして、大きな声ですみません。」
そうやって落ち込む彼女。
俺を傷つけないためにそんなことを、何ていい子なんでしょうか。
「そうだよ。
早乙女さんに失礼だろ。
からかうのはやめろよ。」
「ああ、ごめんごめん。」
全くの無表情で謝る山岡くん。
本当に謝る気あるのかよ。
「じゃ、後は二人で楽しんで。」
そう言って帰っていく彼。
全然反省してないじゃねーか。
「あ、じゃあ行こっか。」
「はい。」
俺たちも歩き出す。
ちらちらと視線を感じて歩きにくい。
「それにしても山岡のやつ失礼ですよね。
早乙女さんと俺が付き合ってるなんて、迷惑でしたよね。」
「い、いえ。
私は全然大丈夫です。
御影繡さんが心外だろうと思いまして。」
そうやって顔を伏せる彼女。
えー。
なんか前会った時と全然雰囲気が違う。
これが学校の顔って奴か。
それから少しの間無言が続いた。
ちょっと気まずい。
...そうだ。
「そういえば、あの作者の新作は見ました?」
「み、見ました!
またちょっと違った哀しさがありますよね!」
おおう。
急にテンションマックスだな。
やっぱ本の話をしている彼女はすごく楽しそうだ。
「ええ。
実はあれ、パラレルワールドっていう裏設定があるらしいですよ。」
「え!
そうなんですか!?
初めて知りました。
物知りなんですね。」
そう言ってキラキラとした眼差しを向ける彼女は子供のようだった。
いや、高1なんてまだ子供か。
「そうなんですよ。
結局、名前が一回も出てなかったでしょう?
そういうシリーズ物らしいんです。」
「た、確かに。
そういえば主人公がちょっと似てるなーと思ってました!」
そんな感じに話が盛り上がっていく。
本の話をしている彼女は本当に楽しそうで、話を聞いているだけで元気が貰える。
そのまま10分ほど歩いて行くと俺が住んでいるところとは全くスケールの違う寮が見えた。
「早乙女さんって寮生だったんですね。」
「はい。
まだちょっと慣れなくて。」
この学校には寮が二棟あり、一つは俺が住んでいるオンボロ寮、もう一つがここである。
この寮は少し値が張り、俺の住んでる寮のおよそ3倍ほどの家賃である。
すごく大きいし、綺麗で、俺の住んでる寮とは雲泥の差である。
「一人暮らしって初めのうちは慣れないですよね。」
「あ、うん!
そ、そうですね!」
うん?
なんか慌てて同意された。
何だろう。
「じゃ、じゃあ今日はありがとうございます。」
「はい、また明日会いましょうね。」
早乙女さんは寮入り口に向かう。
...ああ、そういうこと。
彼女は入り口ですごくぎこちない動作で、何かを操作している。
この寮はハイテクで、全てシステムによって制御されているらしい。
そのため、機械に弱い彼女は慣れることはないだろう。
可哀想に。
そんなことを思っていると、操作に成功したらしく小さくガッツポーズをとって入っていく。
かわいい。
その時、彼女と目が合う。
彼女は今日何度目か、顔を赤くしながらお辞儀を一回。
そのまま逃げるように小走りで帰っていった。
悪いことしたかな。
***
「あ、御影くん。
今日はすごかったね。」
「あ、碓氷さん。
どうもです。」
寮に戻ると丁度碓氷さんも帰ってきたところだった。
白石高校の入学式は全学年が参加するのである。
あの時も見られてたのか。
「話題になってたよ。
あのイケメンは誰だって。
モテモテだね、御影くん。」
そう言って笑う碓氷さん。
またまた。
「ちょっと、からかわないでくださいよ。」
「本当だよ?
ファンクラブできるね。
私の勘だと。」
大袈裟な。
それにしても碓氷さんの制服姿を初めて見た。
似合ってる。
「碓氷さんの制服姿って新鮮ですね。
とってもお似合いです。」
「あら、ありがと。
御影くんもかっこいいよ。」
さらっと褒められた。
かっこいいだなんて、照れる。
「ありがとうございます。
では、また。」
「うん。
学校で会えたらいいね。
じゃ。」
そう言って部屋に消える碓氷さん。
学校で、か。
なんか新鮮だな。
料理部にでも顔だしてみるかな。
そんなことを考えながら部屋に帰宅。
ハクが一番にお菓子に飛んでいく。
レイも水筒から飛び出してくる。
「山岡康介か。
...何者だろう。」
なんかいろいろあり過ぎてさらっと流してしまったけど、明日問い詰めてみるか。
結構胡散臭かったもんな。
普通の高校生じゃなかった。
平気で人を殺しそうな、サイコな雰囲気。
...流石に失礼すぎるか。
でも、本当に何者だろう。
考えても答えは出ないか。
仕方ない。
それにしても今日は本当にいろいろあったな。
寝坊して、暴力エルフに殴られて、入学式では壇上に上がらされて、胡散臭い奴に会って、お嬢様と再会して、実はお嬢様は強くって。
濃すぎる。
お腹いっぱいだっつの。
けど、早乙女さんと同じクラスだったのは本当に良かった。
まさか同い年で同じ学校の生徒だったとは。
初めて会ったあの日以来、何度も図書館には通っていたのだが、一回も会うことはなかった。
こんな再会をするとは夢にも思わなかった。
悪いことばかりではないか。
よし、明日から学校生活が始まるのか。
しっかり勉強して、青春するぞ!
そんな風に二度目の青春を謳歌することを心に誓っていると、チャイムが鳴った。
「はいはーい。」
誰だろうか。
扉を開けた先には山岡くんがいた。
...ストーカーだ。
ガチャリ。
「ちょっとー。
入れてよー。」
無言で扉を閉める。
...はあ、しょうがない。
こっちも聞きたいこと沢山あるしな。
「なに?」
「まずは部屋に入れて欲しいな。」
仕方ない。
取り敢えず上げることにした。
「へー。
結構綺麗好きなんだね。
お、ハクちゃんにレイくん。
あと、黒い君はなんだ?」
もう隠すこともしまい。
大体ハクとレイを知ってて何でアンは知らないんだよ。
「勝手に座ってて。
今お茶用意するから。」
「お構いなく〜。」
そう言って台所へ向かう。
すると、ハクが近づいてきた。
珍しくレイもやって来た。
山岡くんの得体の知れなさを肌で感じ取ったらしい。
「ありがとう。」
お茶を持っていくと、遠慮など一切なく手をつけ始める彼。
図太いなこいつ。
「で、何しに来たの?」
「えー?
用がないと来ちゃダメなのかい?
友だちだよ?」
うぜー。
友だちにしては謎が多すぎだっつの。
「いいから。
要件は?」
「もう、御影くんは冷たいなあ。
涙が出てしまいそうだよ。」
イラッ。
「そっちから無いんなら俺からいくけど?」
「はあ。
わかったよ。
早漏だなあ御影くんは。」
うるせえよ。
何が早漏じゃ。
「じゃ、単刀直入に聞くけど、君何回死んだ?」
目の前の謎の男から飛び出した言葉は予想していたものとは全く違うものだった。




