アツイ男とゲーム会
「やった、僕のひとり勝ち!」
「あっ、ミスった。」
「な、それはずるだろ!」
春休みも残り僅かとなって来た今日この頃。
俺たちは、瀬戸くんのともだちである和泉信助くんの部屋でゲームに没頭していた。
「せっかくいいところだったってのに、漁夫の利って奴じゃねーか。」
「負け犬の遠吠えって奴だね。」
「言ってやるな。」
俺たちがやっているのは、最大四人同時に対戦できる格闘ゲームだ。
俺と和泉くんで熾烈を極めた戦いを行っていたのだが、チャンスを狙っていた瀬戸くんに同時にやられてしまった形である。
平静を装ってはいるが、実はすっごい悔しかったりする。
和泉くんはまだ瀬戸くんのプレイに文句を言っている。
早く次いこうよ。
和泉くんとは昨日知り合った。
紹介したい人がいるとのことだったので、瀬戸くんの部屋に久しぶりの訪問をしたところ、彼がいたのである。
初対面だったにもかかわらず、和泉くんは昔からの友人に会ったかのような歓迎をしてくれたのだ。
俺は感動したね。
「おい!もう一回だ!
二度とそんなドヤ顔させてやらねえ!」
「ふ、僕に勝てるとでも?」
ノリノリの二人である。
和泉くんは見ての通り、非常に感情的で社交的な体育会系男子だ。
まだ会って1日経っていないにもかかわらず、確信を持てるくらいには社交的だ。
「もうそろそろ俺も勝ちたいしね。」
そう言ってコントローラーを握りなおす。
前回勝ってからしばらく負け続けている。
俺も心中穏やかじゃないぜ。
「おっしゃ!
やってやるぜ!」
そう言って張り切る和泉くんを他所に、瀬戸くんは今日初めて使うキャラを選択している。
じゃ、おれも。
***
「くっくっくっ、やはり俺様が最強だぜ!
お前らなんか相手にならねえ!」
あれから4戦、ようやく勝った和泉くんはここぞとばかりに胸を張る。
今までの戦績は、俺が7勝、瀬戸くんが6勝、和泉くんが3勝である。
もはや、この戦績こそがそのまま強さの順番と言っても過言ではない。
瀬戸くんと俺はいい勝負ではあるのだが、実は和泉くんはあまりゲームがうまくない。
動きが単調すぎて負ける気がしない。
「はん!
お前ら悔しくて言葉も出ねえのかよ!」
カチン。
一回勝ったからって調子に乗りやがって。
俺は瀬戸くんと目を合わせ互いに頷き合う。
今の内に存分に勝利の美酒に酔いしれているといい。
「じゃあ、もう一戦ね。
次は負けない。」
「うん。
シンには悪いけど黙らさせてもらうよ。」
「ああ!?
やってみろよ、返り討ちにしてやんよ!」
言って、俺たちはゲームの画面に集中する。
キャラをさっき使っていたのとは変更し、本気で勝ちに行く選択をする。
瀬戸くんも同じ考えらしく、即座に持ちキャラに変更する。
「はっ!
そうやってコロコロキャラ変えるから勝てねーんだよ!
男はこれと決めた奴一択だろうが!」
そう言って、今日1日やってるにもかかわらず頑なに同キャラを選択する和泉くん。
ふっ、勝った。
何回そのキャラの動きを見てると思っているんだ。
「男は黙って〈平野〉一択よ!」
そう言ってステージを〈平野〉に設定する和泉くん。
好きだなあ〈平野〉。
戦闘が開始される。
初動、和泉くんに一直線に詰め寄る。
瀬戸くんも同じ動きである。
一瞬早く肉薄した瀬戸くんが先に一撃をいれる。
「はっ、お前の動きは読めてるぜ、リョウ!」
そう言って見事な回避行動をとる和泉くん。
これには瀬戸くんも驚きの表情を浮かべる。
瀬戸くんのゲームセンスをして最速の初撃だったはずだ。
和泉くんもゲームの中で成長しているというのか!?
だが、これは残念ながら二人ゲームじゃない。
避ける先を予測して攻撃を放つ。
一度回避してしまえば、隙が生まれる。
とった。
ニヤリと浮かべた俺の顔は一転、凍りつく。
和泉くんは俺の回避読みの完璧な一撃を、"受け止めた"。
今の一瞬で回避を諦めガードに切り替えたのか!?
すばらしい判断力だ。
賞賛に値する。
しかし、捉えた。
瀬戸くんの顔がニヤリと悪い笑みを浮かべる。
ガード後の硬直を瀬戸くんが見逃すはずがない。
一気にたたみ込む。
勝負あった。
「はっ!
お前らが二人でくるなんてわかりきってるんだよ!
よく雑魚がやる手段だぜ!」
今度こそ、そう思った攻撃を和泉くんは全て"捌き切る"。
なっ!?
これには瀬戸くんも俺も操作の手を止める。
今の動きを可能にする為には、コンマ数秒のタイミングで只の一度のミスも許されない操作が必要なのである。
そんな技術、和泉くんは持っていなかったはずだ。
「...うし!
どうだ!
また二人掛かりでくるか!?」
そう言われて俺と瀬戸くんは顔を見合わせる。
...認めよう。
俺たちは和泉くんを見くびっていたらしい。
「...ふぅ。
瀬戸くん。」
「...うん。
そうだね。
僕たちが間違ってたよ、シン。
こっからは一対一対一。
小細工なしの真剣勝負だ。」
覚悟を決める。
「...おもしれえ。
やってやんよ。」
俺たちはコントローラーを握りなおす。
3人の視線がゲーム画面に集中する。
緊張が高まっていく。
緊張が最高潮に達したその時、示し合わせたわけではないのに、3人は同時に動き出す。
みなその顔には笑みを浮かべていた。
***
「くっ。
くそっ、負けちまった。」
「いや、俺もギリギリだったよ。」
「今回いい勝負だったね。」
勝者は俺だったけど、この戦いは誰が勝ってもおかしくなかった。
今までにないほど白熱したバトルだった。
「和泉くんも瀬戸くんも強すぎ、指がつるかと思ったよ。」
そう言って手をプラプラとさせていると、視線を感じる。
「な、なにかな?」
和泉くんがじいっと俺を見つめてくる。
もしかしてなんか癇に障っちゃった?
「あのさー。
ずっと思ってたんだけど、俺シンでいいぞ?
俺、ヌイって呼ぶし、な?」
「う、うん。
僕もリョウでいいよ。
御影くんがいいなら、だけど。」
そう言って二人はニコニコと俺を見てくる。
...涙が出そう。
「い、いいの?」
恐る恐る聞き返す。
「ダメなわきゃねえだろうよ。
な?」
「うん。
もちろんだよ。」
なに言ってんだと呆れた顔のいず、...シン。
名前で呼んじゃったよ。
いや、まだ心の中でなんだけど。
名前で呼び合う仲。
何度憧れただろうか。
いいの?呼んじゃうよ?本当だよ?
そんなよく分からないテンションになりながら覚悟を決める。
いや、なんの覚悟だよ。
「あ、ありがとう。
...シン、リョウ。」
「うん。
じゃ、改めてよろしくね、ヌイ。」
「おう。
よろしくな、ヌイ。
...はは。
なんか俺まで小っ恥ずかしくなってくるな。」
そう言って頬をかくシン。
そうだねとリョウ。
「じゃ、もう一戦いくか!」
「そうだね。
今度は負けないからね、ヌイ。」
「おい!
俺を忘れんなよ!」
「全然負ける気がしないね。」
「なんだと!」
二人で言い合う様は、なんだか昔からの友人みたいでちょっと羨ましい。
「おい。
聞いてんのかよヌイ?
そんな簡単に勝ちは渡さねーぞ?」
「そうだよ?
次は負けてもらうからね、ヌイ。」
そんなことを考えていると二人に見つめられる。
...うっ。
「ふっ。
シンにもリョウにも負ける気がしないね!」
気恥ずかしくなって大きな声で誤魔化す。
俺たち男の戦いは深夜まで続いた。
友だちって最高!




