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幽霊的なあれ



孤独な街、〈ファンガス〉。



そこは、3つの組織、通称〈三柱(みつはしら)〉によって支配された一つの世界。




そのひとつが、武力集団、〈神殺しの槍〉である。

この組織は力こそが絶対であり、強い者が集う。



一人一人が一騎当千の力を持った、少数精鋭である。




次に〈三柱〉の一つを担っているのが、共和集団、〈弱き盾〉である。



〈弱き盾〉の所属数は、〈ファンガス〉の住人の2/3を占めており、最も多い。




〈三柱〉最後の組織は自由主義、〈隣人の友〉である。





この組織の一員には、他の〈三柱〉に所属している者も在籍していると言われており、全容が把握されていない。




これらの組織によって守られているのが、孤独な街、〈ファンガス〉である。



彼らは一人として弱いものはなく、それぞれの志を持って生を堪能しており、ただ一人として縛られることはない。



〈三柱〉と呼ばれるこの街の法は、絶対であり、逆らうことなど決して許されないのである。



孤独な街、〈ファンガス〉の住人は〈三柱〉によって守られ、〈三柱〉によって命を落とすのである。



もしも、この街、〈ファンガス〉を訪れることがあったならば、決して〈三柱〉に逆らうべきではない。



彼らは常に貴方の行動を観察し、常に貴方の命の価値を見定めているのである。




〈孤独な街、ファンガスを生きる〉第24項 参照




借りてきた本を読み終え、背伸びを一つ。



これで借りてきた本の全てを閲覧した。



今は、夕方19時を少し回ったくらいである。



この前借りてきた〈ファンガス〉についての文献を一通り読み終わった感想は、なんて街だ、である。



知れば知るほどこの街は物騒で、理不尽である。



ある一定の強いものが街の法となり、秩序を守り、この街を回している。



なんだか、行ってみたくない場所トップを独走しているような気がする。



だが、この街には俺の知りたい【召喚魔法】のヒントが転がっており、訪れてみたいのも本心だ。



この街の人間は完全に外界との繋がりを絶っており、独自の社会が出来上がっている。



故に孤独な街、〈ファンガス〉。



〈ファンガス〉の住人の殆どが推定ランク400を超え、その戦力は一国さえ凌ぐ化け物集団らしい。



...本当かどうか怪しい。




図書館で〈ファンガス〉について知った日から3日。



やっと見つけた【召喚魔法】についての手がかりであるこの街を知ろうと思い、部屋に篭って読書の毎日である。



知れば知るほどぶっ飛んだ街である。



【召喚魔法】持ちではないかとされているのは〈隣人の友〉のトップである、須藤徹(すどうとおる)である。



彼は側に化け物を従えており、噂によれば100を超える数を支配下に置いていると言われている。



...桁がおかしい。



仮にそれが本当だとすれば、レイやハクやアンの様な子たちがわらわらいるなんて、もはや魔王ではないか。



...ふぅ。



いけない。



こんな本当かどうかもわからない情報に踊らされるなんて馬鹿馬鹿しい。



今度は考え方を変えて、この子たちについて調べてみよう。



そんなことを考えつつ、本を片付けていく。




「あ。」




手に持っている本はあの日のお嬢様に勧められた一冊、〈今度は君にさよならを〉である。



そう言えば読むのを忘れていた。



気分転換に読んでみるか。




***




読み始めて40分ほどであろうか、読みっぱなしで肩が凝ってしまった。



ちょっと休憩しよう。



なかなか面白い話だ。



水をコップに注ぎ、飲み干す。



ハクが近くを飛び回り、レイとアンは相変わらず戯れている。




「今日も元気がいいな。」




少し構ってやろうと思ってお菓子を取り出す。



ちょっと分かってきたのだが、ハクもレイもお菓子が大好きらしい。



その証拠に俺の取り出したポテチに群がっている。




「はいはい、あげるから慌てないで。」




そう言うとハクとレイは少し落ち着きを取り戻した。




そうやって3匹と戯れていると、チャイムが鳴る。



誰だろう。




「はーい。」




扉を開けると、そこにいたのは碓氷さんとリンネさんだった。




「どうしたんですか?」




「最近部屋にこもりっぱなしだから何してるのかなって澪ちゃんが。」




「ち、違うよ!

ちょっと!何言ってるのリンネちゃん!

ほ、本当に違うからね!」




えらく慌てて否定する碓氷さんと、ニヤニヤ顔のリンネさん。



あ、これは悪戯が成功した時の顔だな。




「お茶でも出しましょうか?」




このままのリンネさんを放置していると俺にも飛び火しかねないと思い、提案する。




「いいの?

じゃ、お邪魔しまーす。」




「え、ちょっとリンネちゃん!

勝手に入って行っちゃダメだよ!」




ケロッとした顔でずいずいと部屋に上がっていこうとするリンネさんとそれを慌てて止める碓氷さん。



...何しに来たんだろう。




「いいですよ。

どうぞ、上がってください。」




「ご、ごめんね。

リンネちゃんったら遠慮知らなくって。」




「...聞こえてるんだけど。」




ジトッとした目で碓氷さんを睨むリンネさん。



碓氷さんはしれっとした顔で見つめ返す。



してやったりといったところであろうか。



弄られたのを気にしていたんだろう。



あ、あの子たちに隠れてもらわなきゃ。




「ちょっと片付けてきますね。

待っててください。」




そう言って慌てて部屋に戻る。



戻って部屋を見渡してみるが、部屋には誰もいなかった。



あら?言う前に隠れたのか。



偉いぞ。




「なんだー。

ちゃんと片付いてるじゃん。」




後ろを向くとリンネさんがいた。



え、待っててって言ったよね。




「ご、ごめんね。

リンネちゃんったら言うこと聞かなくって。」




そう言って謝る碓氷さん。



いや、ちゃっかりついて来てるのはいいの?




「慌ててえっちな本とか隠してるのかと思って期待したのに、つまんないのー。」




リンネさんから非難の目を向けられる。



理不尽だ。



碓氷さんは顔を少し赤くして部屋をチラチラと見渡している。



こらこら、探すな探すな。




「もう、ふざけないでくださいよ。

じゃ、お茶持ってきますね。」




二人を座らせ、台所へ。



お菓子とお茶を準備する。



ハクがふわふわと寄ってきてお菓子を催促する。



よしよし、隠れてくれてたお礼だ。



そういえば、どうしてハクも隠れていたんだろうか。



お菓子を幸せそうに頬張るハクは見ていて癒される。




「お待たせしました。

うん?どうしました?」




お茶を持って戻ると二人はニヤニヤと俺を見てくる。



なんだろうか。



すごく嫌な予感がする。




「御影くん、こんなの読むんだ、意外だねー。」




そうやってリンネさんが手に持った本は、〈今度は君にさよならを〉である。



読みかけのその本には栞が挟まっており、確か机の上に無造作に置いていたはずだ。



やってしまった。



レイやアンを隠すのに気を取られて、忘れていた。



ニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべる二人。



くそう、俺が純愛ものを読むのがそんなにおかしいのか。



こっちだって考えがあるぞ。




「あ、ああちょっと知り合いに勧められて。

...やっぱ変だったかな。」




落ち込んだふりをして答えると二人はアワアワと慌て出す。




「ご、ごめん。

ちょっと意外だっただけで、全然変じゃないよ。

うん。

私もこういうの大好きだし!」




「そ、そうだそうだ。

私も好きだぞ!

全然変じゃない!」




二人の慌てようを見てちょっと悪いことをしたかなと反省する。



普通に笑って済ませばよかった話しなのに。



変にやり返そうとしてしまった。




「あー。

ごめんなさい、大丈夫です。

全然気にしていませんよ。

で、今日は何のようですか?」




そう言うと彼女らは申し訳なさそうに答える。




「あ、今日はね、実は気になることがあって。」




「そうそう、寮生以外を部屋に入れる時は許可がいるんだけど、言ってなかったなと思って。」




うん?



そうなんだ。




「そうなんですね。

わざわざありがとうございます。」




そう言って考える。



何だろう。



このタイミングで、しかも、碓氷さんと一緒にこれだけ言いにきたとは考えにくい。



なんか苦情でもあるのかもしれない。



もしかして、生活音うるさかったかな。




「あ、それで、その。

許可がいるんだけど、許可が。」




「はい。

わかりました。」




何だろう。



そんなに言いにくいことなんだろうか。



リンネさんと碓氷さんはどちらも俺を見たまま何も言わない。



まるで、俺の言葉を待っているとばかりに。




「...えーっと。

なんか不味かったですかね?

以後気をつけますので、ビシッと言ってくれて大丈夫ですよ?」




そう言うと彼女らは首をかしげる。



俺もかしげる。




「...えっと、御影くん誰か連れ込んでるのかなと思ったんだけど。」




碓氷さんは言いにくそうに言葉を続ける。




「...もちろん誰を連れ込んでも御影くんの勝手だよ?

た、たとえ言いにくい相手でも決まりは決まりだから、あの、その、ね?」




そう言ってもじもじと下を向く碓氷さん。



え、どういうこと?



誰も連れ込んでないけど?



むしろずっとひとりぼっちですけど?



幽霊的なやつ?



幽霊的なやつなの?




「えーっと、何の話かな?

ねえ、リンネさん。

何の話かな?何の話なのかな?」




縋るようにリンネさんに助けを求める。



怖いよ。



もしかして、俺には見えていない何かが出入りしてたの?



懇願の目でリンネさんを見つめる俺に、彼女は全てを把握したような顔で頷く。



何て頼もしいんだ。




「...澪ちゃん。

一回少しの間外出てて。」




いつになく真剣な表情の彼女。



碓氷さんは何かを感じ取ったのか泣きそうな顔で一つ頷き、この部屋を後にする。



怖がらせてしまったようだ。



ぱたんと碓氷さんが部屋を出た直後。




「で?

澪ちゃんに聞かれたくなかったんでしょ?

誰?」




リンネさんの口から出てきた言葉に俺は固まる。



どういうこと?



なんか、根本的に話が食い違ってる気がする。




「あの、本当に何の話ですか?」




そう言うとリンネさんは眉を寄せる。




「ここまで来てしらばっくれる気?

流石に許せないよ?」




え?



なんか怒り始めた。




「えと、ごめんなさい?

本当にわからなくて。」




さらに眉の皺を深くして言い返される。




「だーかーらー!

全部言わなきゃダメなの?

澪ちゃんから全部聞いてるんだから!

御影くんが部屋に篭ってから誰かと会話してるのを聞くって!」




...あ!ああ!



なるほど!そう言うことか!



レイやハクやアンと話してるのが碓氷さんに聞こえたのか。



それで気になった碓氷さんがリンネさんに報告して今の状況と。



...何て説明しよう。



全てを把握した上で、今までのやり取りを思い出して嫌な汗が出てきた。



俺が悩んでいると心配したのかハクが近くに寄ってきてくれた。



優しいなお前。



肩に止まったハクを見て、そういえば今までどこいたんだろう、とか考える。



目の前の問題から逃げてそんなことを考えていると、リンネさんが驚いた声で俺を指差す。




「へ?

何でこんな所に精霊が?」




そう言ったリンネさんの視線は俺の肩に集中している。



え、もしかして見えるの?




「み、見えるんですか?」




そう言うとリンネさんは目を見開いて答える。




「え、御影くんも見えてるの?」




二人で驚き合う。



何だかよくわからないが、これで何とかなるかもしれない。



精霊っていうのは何なのかわからないけど、リンネさんの反応を見る限り悪いものじゃないみたいだし。




「え、あ!

もしかしてそう言うこと?

ってことは、御影くん《精霊使い》だったの!?」




《精霊使い》?



何だろうかそれは。



けど、これは何とかなるかもしれない。




「その《精霊使い》が何なのかわかりませんけど、多分この子と話してたのを碓氷さんは勘違いしたんだと思います。」




「へー、そーなんだ。

てっきり女の子でも連れ込んでるのかとおもった。

それにしてもこんな場所に精霊がいるなんて知らなかったー。」




さっきまでの空気が嘘のように柔らかくなる。



でも、さっきから精霊精霊って。




「あの、精霊って何ですか?」




精霊なんて学校で習った覚えはない。



何でリンネさんはそんなことを知っているのか。



気になって思わず聞いてしまった。




「うん?

あ、そっか。

中学では習わないんだったかー。

精霊っていうのは、半透明な生命体で、魔法を使いこなすエネルギー体のことだよー。

普通は魔力の多い場所を好んで暮らすんだけど、珍しー。」




そう言ってハクに興味津々なリンネさん。



へー。



ハクは精霊なのか。



いいことを聞けた。




「すごいなー。

完全に御影くんに懐いてるー。

かわいー。」




「あの、精霊って沢山いるんですか?」




気になったことを聞いてみる。




「うん。

この子たちはいろんなところにいるんだよ。

けど、精霊を見れる人は少ないからあまり知られてないんだよねー。」




なるほど。



見れる人と見れない人がいるのか。



いいことを聞いた。



リンネさんって物知りなんだな。



意外だ。




「なんだー。

じゃー、御影くんが話してる相手ってこの子のことだったんだー。」




「あ、そうなんですよ。

すみません。

話をややこしくしてしまって。」




そう言って頭をさげる。




「あの、この子ってペット扱いになるんでしょうか?」




この部屋でハクと住めなくなったらどうしよう。



少し不安になりながら聞いたみる。




「いや?

全然大丈夫だよ?

それにしても本当にややこしー。

今度から気をつけてよー。」




はい。



気をつけます。



そういえば碓氷さんを放ったらかしたままだった。




「碓氷さん呼んできますね。」




そう言って部屋を出る。



廊下には碓氷さんが座り込んでいた。




「ご、ごめんなさい!

遅くなっちゃいました!」




「え、あ、いやいや!

全然待ってないよ!

大丈夫大丈夫!」




慌てて立ち上がる碓氷さん。



その顔は少し強張っている。



なんか無理してる?




「あ、その、さっきの話なんですけど。

実は、



「いやいや!全然気にしてないよ?

男の子なんだから彼女の一人や二人連れ込んでも何もおかしくないよね!」




え?



盛大に勘違いされてらっしゃる。




「ちょっと待ってください、碓氷さん。」




「な、何かな?

別に私は全然気にしないよ?

だって御影くんの勝手だしね。

でも、言いにくかったよね?

ごめんね?

いきなり押しかけてこんなこと。」




うわー。



完全に勘違いしてるじゃん。




「落ち着いてください。

勘違いですよ。

そんなんじゃないです。

それに僕、彼女なんていませんし。」




「へ?」




そう言うと碓氷さんはポカンとした顔で固まる。




「詳しくは中で話しましょう。」




そのまま彼女はこくりと頷いた。




***




「な、なーんだ!

そうだよね、御影くんがそんなことするわけないもんね。

いきなり変なこと言ってごめんね?」




事情を説明したことで全てを把握した碓氷さんは早速謝ってきた。




「いえ、元々僕が蒔いたタネですし、碓氷さんは何も悪くないですよ。」




「そうだそうだー。

ややこしいよー御影くん。」




そう言ってきたのはハクと戯れてるリンネさんだ。




「澪ちゃんなんか、御影くんが女の子連れ込んでるかもしれないってひどい慌てようだったんだからー。」




え、それはどういう。




碓氷さんの方を見てみると赤くなった顔と目が合う。




「あ、あ、そ、それはあれだよ!

と、友だちの御影くんが心配だったからだよ!

他意はないよ!?」





必死に話す彼女の顔はどんどん赤くなっていく。



その反応は逆にあれなんじゃ。



いや、自惚れるな俺。




「心配してくれてありがとうございます。

けど、碓氷さんにはハクが見えないんですよね。」




何とか話題を逸らす。



これ以上この話題が続いたら俺はどうにかなってしまう。




「あ、うん!

そうなんだよね。

すごく残念。」




そう言って本当に残念な顔をする碓氷さん。



そう、彼女にはハクが見えなかった。



何が違うんだろうか。




「あー。

じゃ、問題は何もなかったし、私は戻るかなー。」




そう言ってリンネさんは立ち上がる。



そっか。



確かに長いこと話し込んでたな。




「じゃ、私もそろそろ。」




リンネさんに続いて碓氷さんも立ち上がる。



あの空気のまま二人っきりにされたら俺の心臓は間違

いなくやばかっただろう。




「えー、せっかく気を利かせて二人っきりにさせようと思ったのにー。」




ニヨニヨと悪い笑顔のリンネさん。



と、笑顔なのにどこか迫力のある碓氷さん。



あ、これは。




「リンネちゃーん。

ちょっと話そっか?」




「...ごめんなさい。」




今の笑顔は何処へやら。



小さくなってしまったリンネさんは、碓氷さんに引きずられていく。



...南無。




「じゃ、またね。

突然お邪魔してごめんね。」




そう言って二人は帰っていく。




残された俺は碓氷さんの言動を思い出してひとり枕に顔を埋める。



どういうことなの?



あれ、脈ありっぽくない?



思わせといてって奴?



この前の一件以来会ってないよね?



そして、この前の一件を思い出す。



思い出す。



黒歴史が蘇った。



ないわー。



こんな奴好きになるわけないわー。



何舞い上がってるんだ俺。




急に冷めた俺は、しかし、まだそわそわしつつ本を手に取る。



忘れようと本に集中する。



...これ恋愛小説じゃん。



逃れられない思考に俺はひとり悶々と夜を過ごした。



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