機械音痴系女子
昨日は結局1日瀬戸くんの家で過ごしてしまった。
ちょろっと気分転換に行くつもりだったんだけど、話してると時間を忘れるもんだな。
「おはよ。」
いつものように3匹に挨拶して起きる。
今日は何しようかな。
いい加減この子達について知りたいし、図書館にでも行ってみるかな。
そう考えて朝食を済ませ3匹とともに家を出る。
もちろんアンはハクに隠してもらって、レイには水筒に入ってもらう。
この辺に図書館があることはこの前碓氷さんに教えてもらった。
結構大きいらしい。
学校の近くに図書館があるってのもあまり聞かないけど、あるもんは仕方ない。
そんなどうでもいいことを考えつつ歩いていると、女の子がスマホを片手にキョロキョロと辺りを確認している。
何だろうあの挙動不審な子は。
気になった俺は思い切って声をかけることにした。
「すみません。
どうかされましたか?」
「あ、えと、道に迷ってしまいまして。
この辺に図書館があるはずなんですけど。」
おう、この子も図書館を目指しているのか。
「なら、僕も図書館に行くつもりでしたので、ご一緒にどうですか?」
「え、本当ですか?
助かります。」
綺麗にお辞儀する。
どっかのお嬢様かもしれない。
「ええ、ではこっちです。」
進もうとすると彼女は首をかしげる。
長い黒髪がさらりと広がる。
「え、どうしました?」
なんか変だったろうか。
「いえ、ただ地図だと逆方向でしたので。」
そう言ってスマホを見せてくる。
え、まじかよ。
超恥ずかしいじゃねーか俺。
そう思いスマホを確認する。
うん?
「あ、あの、これ逆向きですよ?
こっちが正解です。」
そう言って地図画面をスワイプする。
「え、あ!
すみません。
私の勘違いでした。」
そう言って倒れるんじゃないかと心配になるほど顔を赤くして勢いよく謝罪する。
誰にだって間違いはあるある。
「いえいえ、さあ、行きましょうか。」
ここは華麗にスルーする。
変に慰めても恥ずかしさが大きくなるだけだ。
経験者は語る。
「それにしても、いい天気ですね。」
見てて気の毒になってくるほど真っ赤な顔で恥ずかしがっている彼女に別の話題を振ってみる。
変に無言だと逆に恥ずかしさが増すだろう。
昔の俺だったら自殺してる。
「え?
あ、ああそうですね。
雲も少なくて綺麗な青空ですね。」
少し自分を取り戻したのか、落ち着いた声で答える彼女。
「ところで、図書館には何をお探しになられるんですか?」
今度は彼女から話題を振ってきた。
もう大丈夫かな。
「ああ、少し調べ物を。」
「あら、勉強熱心なことですね。
すばらしい。
近頃の若者は本なんて読まずに機械の、何ですっけ?
スマホ?で全て済ませてしまって、本の良さなんて分からないのでしょうね。」
すごい勢いで話し始める。
なるほど、このお嬢様は機械が嫌いなのか。
さっきのミスも普段使っていないからなのかもしれない。
「そ、そうですね。
本はいいですよね。」
若干圧に押されて言葉に詰まってしまった。
「えぇ。
わかってくれますか?
みんなもっと本の良さに気づくべきです。」
そう言って彼女は本の良さについて話し始める。
その話は図書館に着くまでの20分ほどの間ずっと続いた。
「それでですね。
私は思ったのです。
何て寂しい結末でしょうと!」
彼女は完全に話に入り込んでおり、この前読んだ本について熱弁し始めた。
おーい、目の前にその大好きな図書館がありますよー。
「あのー。
着きましたよー。」
そういうと、彼女はハッとして我に返った。
またやってしまったとばかりに顔に手を当て固まる。
「面白そうですね。その本。
題名は何て言うんですか?」
見ていられなくなり、思わず題名を聞いてしまう。
「あ、〈今度は君にさよならを〉という本です。
すごく感動したんですよ。
オススメです!」
そう言って彼女は目をキラキラとさせる。
そんな目で見られると読まないわけにはいかない。
こういう戦略か、恐ろしい子である。
「わかりました。じゃあ今日にでも借りてみますね。」
「はい!
是非とも読んでみてください!」
そして、彼女と別れる。
すごく感謝された。
こんなに話を聞いてくれた人はあなたくらいです!って勢いよく。
そのついでとばかりに、道案内についても感謝された。
どうやら、道案内<話、の構図ができたいたらしい。
面白い子だった。
また会った時には本の感想でも準備しとこう。
俺は当初の目的通りに【召喚スキル】について調べていく。
〈珍しい【スキル】一覧〉
〈失われた【スキル】〉
〈歴史上の偉人の所持【スキル】一覧〉
〈【スキル】のあれこれ〉
〈【スキル】考察〉...
それっぽい本を片っ端から持ってきて目次を確認するがそれらしいものはない。
仕方なく本を元の位置に戻す。
しばらくはその繰り返しである。
「...ない。」
あれからまる3時間。
片っ端からそれっぽい本を取るが手がかりすら浮かばない。
もうお昼である。
一旦図書館を後にして近くのファストフード店に向かう。
ハンバーガーのセットを頼んで席に着くと、あの女の子が入ってきた。
気が合うなー。
そう思ってぼーっとしていると彼女の番になる。
あたふたと慌て出す彼女。
...やっぱり。
この店は最近出来たチェーン店で注文は全て設置されているタブレットからである。
...機械嫌いのあの子がスムーズにいくとは思えなかった。
後ろのお客さんも少しイライラし始めた。
...ストーカーと思われないかな。
そんなことを思いながら彼女の元へ向かう。
「何が食べたいですか?」
俺の声にビクッと反応する彼女。
俺を見てホッと胸をなでおろした。
少し潤んだ目が俺の母性をくすぐる。
「えと、ハンバーグです。
あと飲み物も。」
えっと。
「種類は?」
彼女はまたも慌て出す。
「えと、あの。」
これは、やっぱお嬢様なのかもしれない。
「じゃあ、僕のオススメでいいですか?
好き嫌いとかあります?」
そういうと彼女はぱあっと顔を輝かせて頷く。
「はい。
辛くなければ大丈夫です。」
よし。
じゃあ照り焼きにしてみようかな。
俺が頼んだのはチーズバーガーだし、どっちか食べたいのあるだろう。
「じゃあ、飲み物は何飲みたい?」
「こ、こーらがいいです。」
コーラに言い慣れてない感じがすごく可愛い。
そんなことを考えつつ注文を済ませて席に着く。
「あとは運ばれてくるのを待つだけです。
この券の番号呼ばれたら取りに行くんです。」
「ほうほう。
物知りなんですね。」
真剣に俺の話を聞いて頷く彼女。
こういうところは初めてらしい。
立ち振舞からお嬢様感がにじみ出てるもんな。
「48番でお待ちの方ー。」
「あ、じゃあ、僕行ってきますね。」
そう言って受け取りに行く。
戻ってくると丁度入れ違いで彼女も呼ばれたらしい。
すれ違う。
ちゃんと持ってこれるかな。
少し心配である。
席に商品を置き、こっそり後を追う。
「54番です。」
彼女は店員にしっかりと番号を伝える。
なんか、子どもを見守る親の気持ちがわかってきた。
彼女はトレイを持ったことがないのか、危うい動作で受け取る。
店員も流れ作業であるためか、渡してすぐ次の作業に入る。
ちょっと危ないかな。
ジュースがこぼれそうだ。
手伝おう。
そう思って近づこうとしたその時。
トレイに男がぶつかった。
やばい!
俺はとっさに【風魔法】を使ってジュースを固定する。
「ご、ごめんなさい!」
彼女はぶつかってしまった男に謝る。
トレイに気を取られて前方不注意になってたみたいだ。
だって、その男に謝る必要なんてないんだから。
「おい、なにぶつかってきてんの?
汚れちゃったじゃんか。
どうしてくれんの?」
「おい、自分からぶつかっといてなに言ってんだあんた。」
そう。
この男はわざとぶつかりにいったのだ。
明らかに変な動きをしていた。
「あぁ?俺がなんだ...あっ!」
なんだ?
俺の顔を見た途端急に慌てだした。
うん?
こいつどっかで、あ!
「おまえ、この前の取り巻きその2だな。」
「な、誰が取り巻きその2だ!
くそ!」
悪態をついて取り巻きその2は足早に去っていった。
あいつら筋肉ゴリラがいなきゃなんもできねえのかよ。
図体だけでかいやつだな。
沸々と怒りが湧いてきた。
「あ、ありがとうございます。
二度ならず三度までも。」
お嬢様は深く頭をさげる。
手にトレイを持ってるのも忘れて。
ちょ、危ないから!
【風魔法】を使ってジュースを固定し俺が持つ。
「え、ジュースが飛んだ?
え?なんで?」
取り敢えず席に着く。
すこし目立ちすぎたみたいで周りの視線が痛い。
「大丈夫ですか?
怪我とかありません?」
「あ、全然大丈夫です。
ありがとうございます。
ところで、さっき手にジュースを吸い寄せたのはもしかして、【念動魔法】ですか?」
ちょっと違うけど、訂正する必要もないかな。
「そんなところです。
トレイはもっと低く持つといいですよ。
高く持つと安定しなかったでしょ?」
このお嬢様は自分の肩の位置でトレイを持っていた。
そりゃグラグラするわな。
「あ、そうなんですね。
教えていただきありがとうございます。」
「いいえー。
じゃ、食べますか。
あ、こっちがチーズでそっちが照り焼きです。
どうします?交換します?」
そう言うと彼女は交互に見比べる。
「い、いや、悪いですよ。
せっかく選んだんですから、そっちを食べてください。」
と言いつつ目はチーズバーガーに釘付けである。
わかりやすい。
「あー、でも、照り焼き見てたら食べたくなってきました。
すみませんが、交換してくれますか?
あ、勿論ダメなら全然大丈夫です。」
そう言うと彼女はすごくわかりやすくにこにこになる。
「えー、そうですか?
仕方ないですね。
私は全然気にしませんよ。」
言いながら手はチーズバーガーを掴んでいる。
早い。
交換して食べ始める。
無言で。
彼女はすごくチーズバーガーが気に入ったようで口周りが汚れるのも気にせず頬張っている。
俺がその姿にすこし驚いていると、彼女は恥ずかしそうに食べるのを中断する。
「あ、あの、こうやって食べると聞いたのですが、はしたなかったでしょうか。」
顔を赤くして下を向いてしまった。
これはまたやってしまったのではないか。
なんとかしなければ。
「いえ、いい食べっぷりだなと思いまして。
ハンバーガーはこうやって食べるのが一番うまいんですよね!」
そう言って大口を開いて一口食べる。
口が汚れるのなんか気にしない。
ちらりと、彼女を見てみると、彼女は笑っていた。
「ふふ。
そうですよね。
私も負けてはいられません。」
二人で早食い競争とばかりに平らげる。
食べ終わった俺たちは、お互いの汚れた口を見て笑い合う。
ちょっとして落ち着いたらジュースを飲みつつ会話する。
「そういえば、調べ物は見つかりましたか?」
「それが、全くだめで。」
そうだった。
何も進歩はないんだった。
どうしよう。
「何を調べてるんですか?」
うーん。
なんて言おうか。
ストレートに言ってしまおうか。
まあ、この子だったら大丈夫な気がするし。
「実は【スキル】についてなんですが、【召喚魔法】って聞いたことありますか?
ちょっと気になってて。」
答えに期待せずに聞いてみるだけ聞いてみた。
すると彼女は少し考え込んでしまう。
そんな真剣に考えなくてもいいのに。
いい子だなー。
「...あ!
確か...孤独な街、なんでしたっけ。
ふ、なんちゃらだったような気がするのですが。
ふぁ、あっ!ファンガスです!
孤独な街ファンガスって知ってますか?」
うん?
なんだろう聞いたことあるような。
「すみません。
勉強不足で、それはなんですか?」
「孤独な街、〈ファンガス〉。
それは、魔族大陸、〈クルーウティア〉に存在する唯一の人族が支配している街です。
実際に今も存在しています。」
「初めて知りました。
その〈ファンガス〉っていうのと【召喚魔法】はどう関係があるんですか?」
そう言うと、彼女はよく聞いてくれましたとばかりに胸を張る。
「その街のトップが3人いるんですけど、その一人が魔物を操る不思議な【スキル】を使うのです。
一説にはその魔物を召喚したのだという声があるんです。」
ほう。
よくそんなこと知ってるなあ。
物知りだ。
「ありがとうございます。
参考にしてみます。」
「いえ、お役に立てたようなら嬉しいです。」
しばらくして二人で店を出る。
「じゃあ、今日は何度も助けていただきありがとうございます。」
「いえ、変な奴が時々いるみたいなんで気をつけて下さいね。」
この数日間で2回も遭遇したのだ。
時々どころではないかもしれない。
そのまま別れて図書館へ向かう。
あの子に言われた通りに〈ファンガス〉についての文献を漁る。
***
それから2時間ほど経った。
確かに、召喚という文字がちょくちょく出てきていたが、細かいところまでは残念ながら分からなかった。
だが、これは大きな発見である。
もし、チャンスがあれば将来、〈ファンガス〉に立ち寄ってみたいと考える。
もうそろそろ帰ろうかな。
結構文字を見ていたからか、肩が凝っている。
流し読み程度しかしてなかったはずなんだけどな。
そう思いながら約束を思い出す。
なんて名前だったかな。
えーっと、さよならを、違うな。
今度はなんちゃら、みたいな。
うーん。
あっ、これか!
手を伸ばすと誰かの手も伸びてきた。
「「あっ」」
ベタすぎる。
これはドラマで何回も見たぞ。
二人は大体結ばれるやつだこれ。
そんなことを考えながら手の主をちらりと伺う。
「あ、本当に読んでくれるんですね。」
そこには今日何度目か、お嬢様がいた。
「はい。
これであってますよね?
もしかして読まれます?」
「い、いえ。
ちょっと確かめに来ただけでしたので。
じゃ、じゃあ私はこれで。」
そう言って彼女は足早に去っていく。
なんだったんだろうか。
確かめなくてよかったの?
借りる本をカウンターに持っていく。
《スキルカード》を提出し、借りることに成功する。
実はこの《スキルカード》は身分証のように使うことが可能なのである。
本を持って図書館を後にする。
図書館を出てすぐ、ハクに借りた本を収納してもらう。
またあの子に会えるだろうか。
今度会った時に感想言えるようにちゃんと読んどこう。
そんなことを考えながら帰路につく。
そう言えば名前聞けばよかったな。
そんなことを考えながら、俺は今日会った名前も知らないお嬢様の顔を思い浮かべた。




