鑑定持ちのいい奴
朝、目を覚ますとハクが目の前を飛んでいた。
「おはよう。」
そう言うとハクはより楽しそうにパタパタと飛び回る。
起き上がって朝食を用意する。
キッチンに立つとレイとアンも近づいてきた。
そういえば、この子たちは食事しなくていいのだろうか。
考えるには些か遅すぎる気がするが、試してみるか。
食パンを手に取って千切る。
「食べる?」
3匹に尋ねてみるとハクとレイが反応した。
アンは相変わらずぐにゃぐにゃしてる。
一昨日、ハクはお菓子に抱きついていたっけ。
あれ?
ハクは実体持ってなかった筈だよね。
どうやってお菓子に触れていたんだろう。
そう思ってちぎったパンをハクに近づける。
するとしっかりと受け取りもぐもぐと食べ始めた。
あれ?
普通に食べてる。
気になってハクに触れようと手を伸ばす。
それに気づいたハクが俺の手に抱きつく。
確かに触れる。
何で?
最初に召喚したときには確かに触れなかった筈だけど。
あの時と何が違うんだろうか。
...名前?
そう言えば名前をつけて見た目が変わったっけ。
一回り大きくなったし、色も濃くなって存在感が強くなった気もする。
俺の手から離れて食パンに目を向ける。
まだ欲しいのだろうか。
仕方ないからちぎって渡す。
今度はレイにも。
2匹は勢いよく食べていく。
レイに至っては体内に入れて溶かしていく。
体が透明だからすごく面白い。
みるみる食パンが溶けていく。
その内に朝食を準備する。
ウィンナーに目玉焼き、サラダに食パンである。
ちなみに目玉焼きは塩胡椒派である。
レイとハクは食べ終わるとアンの元へ行ってしまった。
3匹は本当に仲がいいらしい。
それにしても食パン少しでいいのだろうか。
3日に食パン少しなんてコスパが良すぎる。
そんなことを考えながら朝食を食べ終え片付ける。
今日はどうしようか。
考えながら風を発生させる。
部屋のものに纏わせ動かしていく。
最初は小さい本から、徐々に大きなものを。
慣れてきたら二つ同時に、徐々に数を増やして。
何しようかな。
考える時間が惜しいと思って、即興で思いついた魔法の練習を片手間に行っていると、何も思い浮かばないまま部屋のもの全てが宙に浮いていた。
何でこんなにも【魔法スキル】を使いこなせているのか。
謎すぎる。
やっぱりステータス高くしすぎたか。
うーん。
やりたいことが多すぎて逆に何やればいいのか。
気分転換に瀬戸くんのところにでも行ってみるか。
思い立ったら吉日。
そんな感じで瀬戸くんの部屋の前までやってきた。
307号室。
この寮は四階まであり、一階につき十部屋存在する。
瀬戸くんはその三階に住んでいるらしい。
チャイムを鳴らす。
今は11時ほどだ。
「はい。」
そうやって出てきた彼は俺の姿を見て笑顔を浮かべる。
「おはよう。」
「おはよう。」
互いに挨拶を交わす。
「どうしてるかなと思って。
片付けはもう大丈夫?」
彼は少し困った顔で首を振る。
「いや、それが全然進まなくて困ってて。」
「よかったら手伝おうか?」
片付けだったら少しは自信がある。
そう言うと彼は申し訳なさそうに頭をさげる。
「いいの?
すごく助かる。」
そう言って部屋の中に案内される。
「お邪魔しま、こりゃ凄いな。」
部屋の中は段ボールの山だった。
量が多い。
「院のみんなからいろいろ送られてきちゃって、取り敢えず食料だけは昨日のうちに出しちゃったんだけど。」
なるほど、彼は偉く院のみんなに好かれているらしい。
服に小物に本に食器。
どの段ボールにもパンパンに詰めれれており愛情がにじみ出ている。
「よし、じゃあまずは服から出しちゃおうか。
こういうのは分担せずに一つに絞って進めるのが一番だよ。」
そう言って一つ目の段ボールに手をつける。
さあ、ここからが俺たちの戦いだ。
***
昼食を食べに近くの定食屋へ。
時刻は13時を過ぎている。
片付けはやっと折り返しといったところか。
「悪いね、手伝ってもらって。
すごく助かる。」
そう言って彼は運ばれてきたとんかつ定食に手をつける。
「いや、全然。
俺片付けるの好きだからお役に立てたなら嬉しいよ。」
俺が頼んだのは親子丼。
卵がふわふわですごく美味しい。
この定食屋は当たりかもしれない。
「本当に助かるよ。
お礼と言っては何だけどここは奢らせて。」
「え。
いやいや、片付け手伝ったぐらいで悪いよ。」
「いや、本当にすごく助かってるんだから。
それに、この前ご馳走になったし、ここは奢らせてよ。」
そう言われると断るのも悪い気がする。
うーん。
ここは甘えさせてもらおうかな。
「そう?
じゃあ、お言葉に甘えさせてもらって。
ご馳走になります。
」
お辞儀をする。
「いえいえ、ささやかなお礼です。」
お礼の言葉に、一瞬昨日の言葉を思い出して身悶えしたのは、瀬戸くんにばれなかっただろうか。
昼食を済ませ戻ってきた俺たちは、すぐに片付けに向かう。
腹も膨れて少し眠気を感じながらせっせと片付けを進めていく。
もっと効率よく片付けできないだろうか。
あ。
「瀬戸くん。
ちょっと離れてて。」
「え?
う、うん。
これで大丈夫?」
瀬戸くんが離れたのを確認して【風魔法】を使用する。
何でもっと早く気付かなかったんだろう。
こっちの方がすぐに片付くじゃないか。
段ボールの中身が風によって持ち上げられ、収納されていく。
それを見た瀬戸くんは目を見開いて驚いている。
「す、すごい。
同い年なのに、もうそんなに【スキル】を使いこなしてるなんて。」
瀬戸くんの驚きの声を聞きつつ制御に集中する。
人のものでやるのは初めての経験で、いつもより集中して慎重に操作する。
僅か20分ほどで全ての荷物が段ボールから出され片付けられた。
「...ふぅ。
よし、こんなもんかな。
どうかな?」
そう言うと瀬戸くんは大興奮で詰め寄ってくる。
「す、すごいよ御影くん!
こんなに【スキル】を使いこなすなんて。
それに、同い年なのに!
天才だよ!」
いつもの落ち着いている瀬戸くんとは違って、弾丸のようなトークである。
そんなに褒められると満更でもなくなる。
「そ、そうかな。
ありがとう。」
しばらく、瀬戸くんの興奮は収まらなかった。
***
「それにしても、そんなにすごい【魔法スキル】を持ってるのに、この白石高校に来るなんて、将来の夢は何なの?」
時刻は夕方。
ひと段落ついて少し話そうということだったので、瀬戸くんの家でお茶の最中である。
そういえば、白石高校は【生活スキル】持ちが多く通う高校である。
一応名門と言われており、【生活スキル】持ちにとっては、白石高校に入ることは名誉あることであり、倍率もなかなかに高い。
俺は勉強だけは頑張っていたので何とか入学を勝ち取ることができたのだが。
「うん。
いろいろあってね。
一応、《ランカー》を目指してはいるんだけどね。」
訳あり風を装って答える。
実際【思考加速】のスキルじゃなかったらこの学校には入学していないわけで。
俺の第一希望の高校は【戦闘スキル】持ちの者が多く通う学校で、多くの有名な《ランカー》を排出している。
そっちに通った方が夢には近道であるわけだが。
だからと言って白石高校がダメというわけではない。
白石高校に入学したいと涙を流す者は多くおり、実際に白石高校を卒業したものは就職に非常に有利に進む。
だが、少し俺の目指す方向とずれているという他ない。
「そ、そうなんだ。
でも、すごいね。
僕は今ので御影くんがすごい《ランカー》になると確信したよ。
《四桁ランカー》も夢じゃないよ。」
そう言ってもらえると嬉しい。
俺の話ばっかじゃ面白くないし、瀬戸くんのことも知りたい。
「ありがとう。
嬉しいよ。
じゃあ、瀬戸くんの夢は?」
そう言うと瀬戸くんは少し考える。
「...うーん。
正直まだ何とも。
あ、僕のスキルは【鑑定】何だけどね。
院のみんなにどうやったら恩返しができるか、勉強だけは頑張ってきたからね。
このチャンスを何とかものにしないととは思うんだけど。」
なんていい子なんだろうか。
俺なんか自分のことしか考えてないっていうのに。
情けなくなってくるよ。
それに【鑑定】持ちだったんだ。
これは大物になる予感。
「瀬戸くんもすごいじゃんか。
【鑑定】持ちなんてそうはいないよ。」
【鑑定】のスキルは数が少ない。
それ故に能力は強力で、腕利きの【鑑定】持ちはあらゆる商売人から引く手数多である。
【鑑定】はあらゆる素材や商品の情報を引き出すことが可能な【スキル】である。
その為、商売の目から見れば偽物を掴まされるリスクがガクッと下がるだけでなく、新しい商売に繋がることも数多くある。
「そんなことないよ。
僕の【鑑定】はまだまだだよ。」
「またまたー。」
そんな風に色んなことを談笑しつつ、一緒に夕飯を食べてその日は別れた。




