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真っ赤な二人



「ピンポーン」




チャイムの音で目を覚ました俺は辺りを見回す。



すっかり日も暮れており、部屋は真っ暗である。



自分の情けなさに腹を立ててふて寝を決め込んだのが13時頃だったはずだ。



時計を見てみると時刻は20時過ぎ。



いくら何でも寝過ぎだ。



3匹はいつものように戯れている。



可愛い。




「ピンポーン」




2度めのチャイムに、そういえばチャイムで起きたことを思い出す。




「はーい。」




直ぐに玄関に向かう。



こんな時間に誰だろうか。



扉を開くとそこには碓氷さんがいた。




「あ、もう大丈夫ですか?」




ちょっと元気のない碓氷さんにわざと明るく問いかけてみる。



碓氷さんは一つ息を吸い込んで答える。




「今日はありがとう。

すごく助かった。

本当にありがとう。」




「い、いや、俺はあまり役に立てずに。

ヘタレ極めちゃってて。

へへ。」




何が、へへ、だよ。



普通にきもい。




「ううん。

本当に助かった。

かっこよかったよ。

本当に。」




碓氷さんはしっかりと俺の目を見てそんなことを言う。



あんなに怖い思いをしたはずなのに、あんなにヘタレてた俺にこんな感謝をしてくれる。



チートな能力を得たにもかかわらず、ビビって出て行けなかった俺に。



チートになる前だったら助けに行ったかも怪しいのに。




「そんな、かっこよくなんてないですよ。

...隠れてたんです。

本当はもっと早く助けに行けたんです。」




...言ってしまった。



どう思われるだろう。



何て言われるだろう。



沈黙が痛い。




「...知ってたよ。

見てた。

けど、結局出てきて助けてくれたんだから関係ないよね。

かっこよかったんだよ。

すごく。」




そう言って碓氷さんは下を向く。



少しモジモジしている。



言ってて恥ずかしくなったやつかな。



...そうか、知ってたんだ。



そうだよね、距離そんなになかったし、体大きいし。



なんか、すごく恥ずかしい。



ここは、素直に感謝を受け取っとこう。




「ど、どうも。」




...気まずい。



完全に会話が途切れた。



こんな時に女の子になんて言えばいいかなんて学校で習ってないぞ。



何教えてんだよ学校は。




「「あの!」」




...やってしまった。



完全に被った。



息ぴったりかよ。



今それいらないよ。



また、1からやり直しじゃん。



会話ってこんなに難しかったっけ?




「あ、先にどうぞ。」




碓氷さんが気を使ってくれる。



く、話を遮ってなるものか。




「いや、大したことじゃないし、碓氷さんから先にいいですよ。」




「じゃ、じゃあ、その、またご飯どう?

もう食べちゃった?」




二日連続でお世話になっていいものなのだろうか。



けど、ここは気持ちを無駄にしてはいけないだろう。




「あ、まだです。

ありがとうございます。」




「いや、これくらいしか出来なくてごめんね。

あんなに怖い思いして助けてくれたのに。」




碓氷さんは申し訳なさそうに頭を下げる。



いやいや、これくらいなんて、碓氷さんの料理はプロ並みじゃないか。




「いや、碓氷さんの料理すごく楽しみです。

昨日のもすごく美味しくて、本当ですよ。」




そう言うと碓氷さんはクスリと笑う。




「ありがと。

料理には自信があるからね。

まずかったなんて言われたらどうしようかと思ったよ。」




少し冗談っぽく返してくれた碓氷さんの笑顔を見て、安心する。



あの、筋肉ゴリラは誰なんだろう。



気にはなるがこの空気を壊してまで聞かなくてもいいか。



そう思い、碓氷さんの後をついていく。




「どうぞー。」




碓氷さんの部屋に案内される。



よく考えたら二人きりじゃないか。



男女が密室に二人きりだなんて、まずいよな?



碓氷さんも嫌だろうし。




「あ、リンネさん呼びます?

食事は人が多い方がいいですよね?」




我ながらナイス提案だ。



自然かつ繊細で完璧な誘導。



これは俺も碓氷さんも嫌な気分にならない最善の手だろう。



思わずドヤ顔で碓氷さんを見る。




「...別に、御影くんがそう思うんならそうすれば。」




え、何で怒ってるの?



俺完璧な返しをしたよね。




「え、いや、俺は別に大丈夫ですよ。

碓氷さんはいいんですか?」




何が何だかわからない。



昼にあんなことがあったのに男と二人っきりは流石に嫌でしょ。




「あ、どうせ無駄な気遣いしてるんでしょ。

私は御影くんが何かするなんて失礼なこと思ってないよ。

言ったでしょ、助けてくれたお礼がしたいの、私は。」




キリッとした目で俺を見る碓氷さんは何かかっこよかった。




「...お邪魔します。」




とは言ったものの同じ部屋に二人きりなんて意識するなっていう方が無理がある。



自慢じゃ無いけど、こちとら今世は彼女なんていたこと無いんだぞ。




「座ってて、すぐ持っていくから。」




もう料理を作ってたみたいで、少ししたらすぐに料理が運ばれてくる。



どれもがいい香りで、いい色で、すごく美味しそうだ。



もう店を持てるんじゃ無いか。




「やっぱ凄いですね。

すごく美味しそうです。」




「ありがと。

じゃ、食べて食べてー。」




「じゃあ、いただきます。」




昨日の食事では洋食っぽい料理だったが、今日は和食チックである。



お魚に味噌汁に肉じゃが、和え物に冷奴にふっくらご飯。



流石料理部、そのどれもが完璧な味付けと彩りである。



絶対店出せるよ。



お米だけでもすごくおいしい。



どうなっているんだ。



箸が止まらない。



そういえば昼もまだだったんだ。



そんなことを思っていると一瞬で食べ終わってしまった。




「え、食べるの早くない?

足りなかった?」




一心不乱に食べてしまった。



恥ずかしい。




「いや、すごくおいしくて、ついがっついちゃいました。

ごちそうさまです。」




「そう?

そう言ってもらえるとうれしい。

お粗末様です。」




早く食べ終わってしまったので、碓氷さんを改めて見てみる。



すごい美人で可愛い。



髪は肩くらいまでで茶髪のストレート。



サラサラしてて触ったら最高なんだろうな。




「ちょっと、じろじろ見ないでよ。

食べにくい。」


「あ、ごめんなさい。」




視線を外しぼうっと部屋を見渡す。



きれいに片付いてる。



女の子らしく流行りのマスコットキャラクターが部屋の所々で顔を出してる。




「もう、部屋もあんまり見ないでよ。

恥ずかしい。」




「あ、ごめんなさい。」




仕方なくスマホを取り出す。




「ごちそうさま。」




暫くして碓氷さんが食べ終わった。



食器を運ぼうとする彼女を遮って奪う。




「ちょ、今日はお礼何だから、そういうのは無しだよ。」




彼女は慌てて食器を取り返そうとする。



そう言うのを予測していた俺は食器を彼女の届かない位置まで掲げた。




「いや、料理が美味しすぎたから、洗わせてください。お釣りみたいなもんです。」




ぴょこぴょこと跳ねる彼女は可愛らしい。




「お礼にお釣りなんて聞いたことないよ。

えい!」




彼女は脇腹を突っついてくる。



ちょっ、やめてくれ。



食器落ちる。




「だめです。

これは僕に洗わせてください。」




彼女は食器を取り返すのを諦めたらしく、ぷりぷりと腹を立てた。




「せっかくのお礼だったのに、これじゃお礼にならないじゃん。」




ありゃ、これはだめかもしれない。



こうなったら奥の手である。




「じゃあ、一緒に洗いましょう。

これでいいですか?」




すると彼女はジト目で睨んでくる。




「よくないけど、わかった。」




そして二人で並んで食器を洗う。




「いつもあんなに作ってるんですか?」




カチャカチャと食器の当たる音がする。




「ううん。

毎日あんなに気合入れたら疲れちゃうよ。

今日はお礼だったから張り切っただけ。」




その割には昨日の料理もなかなかだったけど。




「そうなんですね。

今日はありがとうございます。

今まで食べた料理のなかで一番美味しかったです。」




「そんな、褒めすぎ。

私なんてまだまだだよ。」




あの腕でまだまだってこの子は何処を目指しているんだろうか。



末恐ろしい子である。




そんなこんなで雑談していると、食器を洗い終わった。




「今日はありがとう。

あの時、助けに来てくれて本当に嬉しかった。」




そんな真っ直ぐ感謝されると照れる。



...今なら聞けるかな。




「あの、あの筋肉ゴリラは何だったんですか?」




すると一瞬ぽかんとした彼女は、理解したのかお腹を押さえて笑い始める。




「くふっ、はっはは。

ちょ、ちょっと笑わせないでよ。

筋肉ゴリラか、確かにすごくしっくりくる。」




涙目である。



そんなに面白かっただろうか。



やっぱり俺にはネーミングセンスがあるのだろうか。




「あいつは田岡一人(たおかかずひと)

去年の夏くらいからずっと粘着されてて、いつもは友だちが追い払ってくれるんだけどね。

今日はタイミング悪く一人の時に見つかっちゃったわけ。

腕を掴まれたの初めてで、すごく怖かった。」




言いながら思い出したのか少し顔色が悪くなる碓氷さん。



嫌なこと思い出させちゃったかな。




「嫌なこと思い出させてごめんなさい。

また何かあったら教えてください。

また僕がぶっ飛ばしてやります。」




わざと大げさにファイティングポーズをとって戯けてみる。



それを見た彼女は少し笑ってくれた。



よかった。




「本当に?

無理はしないでね。」




碓氷さんは心配そうに忠告してくる。



次は絶対すぐに助ける。



もう、あんな自分に腹を立てたくない。



碓氷さんに嫌な思いはさせない。



だって。




「任せてください。

絶対にあの筋肉ゴリラをもう一回ぶっ飛ばしてやります。

碓氷さんは俺の初めての友達なんですから!」




拳を握りしめて宣言する。




「...初めての友達ねえ。」




碓氷さんの視線が心なし冷たくなった気がする。



俺が何か間違ったのかと慌てていると彼女は困ったように笑う。




「友達かあ。

...ふぅ。

じゃ、期待してるからね。

御影くん。」




何か釈然としないけど期待されたからには応えないわけにはいかない。




「ええ。

期待しててください。

もう碓氷さんにあんな怖い思いはさせません。」




少し驚いた顔をした彼女は嬉しそうに笑う。




「うん。

ありがと。

でも、無茶はしちゃだめだよ?

御影くんが怪我するの、私嫌だからね。」




そう言って彼女はお姉さんっぽく忠告してくる。



俺は嬉しくて多分にやけてたんじゃないかと思う。




「心配ご無用です。

怪我なんてしません。

怪我せずあの筋肉ゴリラをぶっ飛ばしてみせます。」




ガッツポーズを見せつける。




「頼もしいなー。

じゃ、よろしくお願いしますね。

ナイト様。」




語尾にハートマークがつきそうな笑顔である。



碓氷さんのナイトか。



悪くない。




「ええ、私のお姫様。

...こほん。

じゃ、じゃあ僕はこれで。」




膝をつき恥ずかしいセリフを言ってすぐ、我に帰った俺は恥ずかしさから逃げるように暇を切り出した。



きっと顔は真っ赤だろう。



悪ふざけが過ぎた。




「...あ、うん!

じゃ、じゃあ気をつけてね!」




少しの間固まっていた碓氷さんは顔を真っ赤にして送り出す。



いや、本当にごめんなさい。



反省します。



恥ずかしさに殺されそうだ。




「...お邪魔しました。」




「...うん。」




部屋に戻って恥ずかしさに身を燃やしましたとさ。





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