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ジャンル違いの勇者たち

これは、こんな勇者がいれば楽しそうと思ったけと主人公にして話を書くにはちょっと上手くいなかった3人に1人付け足して書いたものです。


ルール違えよ等の苦情は受け付けたくありません。

さて、どうしたものだろうか。この空気。4人の人間が居て、その間にあるのは沈黙。


これはあれだ。誰かが喋り出すと思って口を閉じたら誰も話を始めなくて全員がタイミングを逃した……そういうことだろう。


つまり、全員がお互いが喋るのを待っている。眼鏡をかけた理知的な少年はさっきから俺をチラチラ見ているし、茶髪の彼は露骨にこちらに視線をやってくる。あっちの金髪で耳の長い彼女もそうだ。


まあ、仕方ないな。金髪の青年と耳長の彼女はさきほど、


「……ええっと」

「……ううんと」

「「あっ……」」

「……あの、その……」

「……うん、ええと……」


と見事なまでに喋り出すタイミングを被らせ、もうこの空気の中口を開けなくなっているのだから。


眼鏡の少年は……多分遠慮をしているだろう。恐らく見た目からして一番この中で歳下なのだろうから。私が26で、青年は十代後半から二十代前半の高校生か大学生、彼女は……少しわかりにくいが青年と同じく20代近辺だろう。それに比べて眼鏡の彼は明らかに10代だ。高校一年か二年というところだろう。もしかしたら中学生かも知れない。


さて、ではそろそろ話を切り出そうか。しかしリアルで人と会話するのはいつ以来だろうか。仕事の話を除いたら三年ぶりくらいだろうか。……緊張してきた。


「……まあ、取り敢えずお互いに自己紹介といこうじゃないか。……他国の勇者方よ」


……なんだ、そのやっと喋ったよあいつ、みたいな顔は。年上なのに今まで黙ってやがってみたいな顔は。やめろよ、凹むぞ。


「私の名前は苔守つくう荘次郎。エーシェイル王国に召喚された勇者だ。と言っても直接的な戦闘力は無いからな。いざという時はよろしく頼むよ」


実際、私の能力——よくわからないがこの世界に来る異世界人は何らかの能力を授かるようだ。次元の扉を超える上で魂が進化するとか何とか。まあ、要するに何時ものアレだろう。詳しく考えるだけ無駄だ。もしそれで発狂でもしてしまえば元も子もないしな。


さて次は、うん、やはりここは男が行くべきだろう。茶髪の彼に目配せすると彼は頭をガシガシとかくと口を開いた。


「……ええと、早乙女隼人です。ビークラット公国で召喚されました。おそらく苔守さん以上に戦闘力は無いかと。……条件さえ整えば絶対に負けない自信はありますが……条件がちょっと微妙でして……」


……意外だった。

早乙女隼人くんは茶髪に緑色の瞳というどこかのノベルゲームの主人公みたいな見た目なのだ。てっきりもっとチャラチャラしたような人物だと思っていた。

早乙女くん、すまない。


そんなことを考えていたら向かいの金髪の彼女が立ち上がった。


「……ええとですね。私は御雷みかずち鮎乃と言います。シームル王国で召喚されました。一応戦闘技能は多いです。というか普通です。良くも悪くも」


おどおどした様子を見せる御雷さんは見た目は完全にエルフだ。金髪碧眼絶壁のエルフだ。しかし日本人であることは確かだ。三角関数を理解していたから間違いない。ということは彼女のがわはゲームキャラクターか何かかな。


「さて、最後は君だ。申し訳ないね一番歳下にトリを任せることになってしまって」

「いいえ、そんなことありません!あ、う、うぅ……」


少年くんは自分で出した声が思いの外大きくて驚いたのか再び口を閉じてしまった。


するとそれを見た御雷さんが少年くんに近付いた。どうやら任せておいても大丈夫なようだ。


「ええと、あなた、名前は?」

徳羽水九すいくです。デール皇国で召喚されました。よろしくお願いします。戦うのは……多分、無理です」


ゆっくり、御雷さんが聞くと水九くんはしっかりとした声で答えてくれた。


これで全員の自己紹介が終わったわけだが。さて。


「まあ、何だかよくわからないがこの4人で魔王を倒してこの世界を救わなければならないらしい。とりあえず全員お互いのパラメータ見せ合わないか?」

「良いですね、わたしは苔守さんに賛成です」

「まあ、否定する面はないよな」

「……はい、僕もそう思います」


異世界にやって来たたった4人の同郷なのだ。できるだけよろしくやっていきたいし、若い3人は早いうちに向こうへ帰してあげたいところだ。


そのためにも今は全員のパラメータを見て方針を決めなければ。


「じゃあ、わたしから行きますね!わたしのパラメータはこれです。メインコマンド、ステータスオープン!」


そう彼女が言うと彼女の前に何やら透明な表示媒体が現れた。ふむ、やはり彼女は「普通」に勇者のようだ。



Name:アマウ・ライトニング

Sex:Female

Lv:114

Class:聖騎士アークナイト

HP:1020(1020)/MP:481(481)

Str:72/Int:40/Vit:65/Min:64/Dex41

Exp10034/20158



やはりフォーマットが違うな。まあ、そんな気はしていたが。


……しかし、どうしたのだろう。早乙女くんがとても落ち込んでいるように見える。彼は魔法使いかそれに類する何かだと思っていたのだがそれ以上に厄介な何かかも知れないな。


「じゃあ、次は僕が。と言っても僕はあんな風にステータスが見せられないので紙に書き出しますね」


早乙女くんを見かねたのか水九くんが名乗りを上げた。書き出すとなるとどうなのだろう。ステータスの無いなにかということか。水九くんの見た目ならモンスターテイマー的な何かの可能性もある。年齢的に。


「ええと、こうですね」



名前:スイク

称号:“アンサーゼロファイブ”

得意ジャンル:雑学



ふむ。これは、アレだな。クイズ系のゲームのオーラを感じる。


……これ、どうすれば良いんだ。明らかに矢面に立たせられないじゃ無いか。まさかの導入で1人メンバーがいなくなるとは。笑えない。


「……やはり、お役には立てそうにありません」

「いや、まだわからん。組み合わせ次第では何とかなるかも知れん」


私もあまり戦闘力は高く無いが水九くんを生かす手がないわけではないしな。


「あ、でも称号を“真実を射抜くもの”に変えるとエフェクトが矢になるので、もしかしたら、少しは」

「そうか、御雷さんは明らかに接近戦がメインだったからそれは助かる」


最悪私が側についていざとなったら抱えて逃げよう。それなら彼も戦えるだろう。


「…………見せたくはないが、見せるしかないよな、この流れ。早乙女くん、君はそう思っているのか?」

「……何故……⁉」

「私は大人だからな。人の考えていることくらいわかる」


まあ、本当はこれは私の技能だが。


「……見せます。見せますけど、笑わないでくださいよ?」

「笑わんさ」


私がそう断ずると早乙女くんは絞り出すような声でステータスを開いた。



名前:ハヤト

教養:B+/運動:A/見た目:A+/真心B



これは……


「恋愛ゲーム、よね?」

「の、ようだな」


なるほど。これは確かに……見せたくないな。まあ、彼も年頃の男の子だ。こういうものに手を出したくなるのはよくわかる。


……もし、これが御雷さんだったりしたら再び沈黙に包まれたかも知れないが。


そういう意味では彼でよかったな。


「なるほど。異性相手にならば確かに強力かも知れない」

「……ええと、つまり?」

「スイクくんはまだ知らなくていいのよ」


その通りである。


「……で、苔守さんはどんななんだ?」

「ん?私か?こんな感じだな」



名前:苔守 荘次郎

年齢:26/性別:男性

STR:10/CON:10/DEX:15/INT:13/POW:14/SIZ:12/APP:11/EDU:17

耐久力:11(11)/MP:14(14)/SAN:70

《言いくるめ》70%/《運転(自動車)》40%/《芸術(演技)》62%/《経理》40%/《心理学》65%/《説得》60%/《値切り》14%/《ナビゲート》20%/《目星》60%/《コンピュータ》50%/《回避》80%/《応急手当》70%



「なんですかこれ?」

「いや、某神話TRPGのパラメータだろ。どう見ても」

「……知っているんですか?早乙女さん?」


だろうなとは、思っていた。私が最後にゲームで遊んだのは同僚6人で納涼TRPG大会やったのが最後だからなあ。


「つまり、各々が最後に遊んだゲームに似たパラメータを得ているわけだ」


早乙女くんは恋愛系のゲーム、御雷さんはRPGで恐らくオンラインゲーム、水九くんはクイズ系のゲームを最後に遊んだということだろう。


なるほど。


だから早乙女くんは妙に同性の私から見ても惹かれるような容姿に見え、御雷さんは日本人なのにエルフのような見た目をしているわけだ……いや、実際エルフなのだが。そして、水九くんも何というか賢そうな雰囲気を放っているわけだ。


しかし、これは、どうしようか。


「どう考えても戦闘向きじゃないのが75%いるな」

「ですよね……」


まあ、あるものでぼちぼちやってくしかないな……











「なんだ、なんなのだ貴様らは⁉」


理解できぬ理解できぬ理解できぬ理解ぬッ!

なんなのだこやつらは⁉戦闘力は殆どないものばかりなのに何故ここまで我を追い込める⁉


我は第13代魔王フェルディア・K・ブラッドナイトだぞ⁉それが!何故こんな冴えない者共に歯が立たない!


戦闘力があるのはあの金髪の女だけではなかったのか⁉


「余計なことを考えている暇はあるんですかね?こちらです」


まただ。何かが転がる音がするとついあの黒髪の男を見てしまう。まるで何かに『言いくるめ』られているような気分だ。


蒼天再月斬ブルームーン・ストライク!」

「くッ!呪術カース紅血なる盾(ブラッド・レッド)!」


そして、この金髪の女の一撃はまるで鍛えること、戦うこと以外は何もしていなかったような者のそれだ。此奴の剣は容易に我を傷つける。


それに、厄介なのは奴だ。身のこなしは軽いがあくまでも一般人の範疇。その癖に黒髪の男以上に私の思考を曇らせるあの茶髪の男だ。


「ええと、そうだな。『止めてくれ、フェルディア。俺は君が傷つく姿を見たくない』」


うう、また、だ。きになる。奴が、茶髪の彼が気になって仕方ない。今すぐにでも彼の言うことを聞いてあげたい。


「くそッ!黒魔スペル・紫熱焦波ァッ!」


闘いの邪魔になる考えを振り払うためにあの茶髪の奴に炎の魔法を放つ。


しかし、これは無駄だ。今までの戦闘でよくわかっている。


またあの子供が射線に割り込んで……攻撃が消え去る。


「まだ、僕の『問題』に答えてませんよ」


そういう子供の前に文字が浮いている


——問題、貴方は「いいえ」と答えられますか?「はい」か「いいえ」でお答えください。


「早く答えて下さい。答えてくれないと僕の出番に成らないので攻撃できないんですよ」


あの謎は本当に意味不明だ。「はい」と答えても「いいえ」と答えても正解に成らない。「はい」か「いいえ」が答えだと言ったのは奴なのに!


気がつけば黒髪と金髪がこちらに近づいている。


雨点石穿閃レイン・ペネトレイター!」

「……防がないでください、『お願いします』……すみません『説得』に失敗しました」


黒髪の声を振り切って再び紅血なるブラッド・レッドを発動する。


「『フェルディア、俺を見ろ。俺を、俺だけを』」


彼が呼んでいる違う、奴に惑わされるなしかし彼の声がアレは敵の術だいやしかし違う呼んでいるいないいるいないいるいない——くそ、また気を取られた今はあの攻撃を捌かなければ、しかし彼が呼んでいるから————


「あああああああああああああああああ、黒淵蝕染波アビス・ウェーブッッ!」


思考がまとまらない以上考える必要のないように辺り一切を吹き飛ばす!


黒淵蝕染波は闇魔法の中でも上位に入る。4代前の魔王が完成させて、人間の軍を全て薙ぎはらった魔法。修得して以来未だに攻略されたことのない私の切り札だ。


これなら、奴らもタダでは済むまい。もし無傷だとしてもあの子供くらいだろう。奴は防壁こそ強固だが体さばきは素人のそれだ。あとはあの防壁を何とかして——


「SSR装備《闇喰らいの星盾》」

「SIZSTR対抗ロールとペナルティ付き《回避》ロール……残念だな魔王殿。03、決定的成功クリティカルだよ」


そこには茶髪の男を担いだ黒髪の音がスタリと地面に降り立つ姿と輝く夜天のような盾を構えて無傷で立つ金髪の女の姿があった。


……ほんの少しだけ、悲しげな顔をして男が口を開いた。


「……魔王殿、貴女では私たちには勝てません。根本的に相性が悪すぎます。水九くんにかかれば大半の攻撃は通りませんし、彼がいれば私と早乙女くんの戦闘離脱率は限りなく低い。御雷さんの装備は闇属性対策が施されたものばかりな上に貴女の防御を十分に破れる攻撃力がある」


「そこに私が撹乱に入ればだいたいどんな相手でも勝てます。私の《回避》は成功すれば絶対ですから前線に出てもそれなりに持たせられます。それに私の言葉は聞き流すのは難しいですから。更に運の悪いことに貴女は女性だ。女性であるがゆえに早乙女くんが恐ろしく威力を発揮する」


「結論から言うと、貴女のルールでは私たちには勝てない」


その言葉はどんな剣よりも鋭く、我を貫いた。


誰よりも強く、誰よりも高く。そんな我をあっさりと傷一つ負わずに下す彼らこそ異界から呼ばれた勇者たち。


戦闘能力は金髪の女を除けば一般人相当だが、淫魔たちのハニートラップは茶髪の男が一蹴し、迷宮の謎や罠は子供が全て流れるように解いていく。強力な魔物をぶつけても金髪の女が倒してしまい、たとえ道を塞いでも黒髪の男が打開策をあっさりと閃く。


するすると奴は魔王城に辿り着き、そして我をもあっさりと倒した。どうしても我々では勝てないのだ。













魔王城からの帰り道。水九くんが私に尋ねてきた。


「で、実際彼女は僕たちをどうすれば倒せたんですか?」

「いや、わりと色んな手があったと思うよ?」


そう答えると水九くんは目を丸くする。


「例えばここに私たちが辿り着く前に大量の魔物をぶつける。そして水九くんと御雷さんを分断すれば水九くんは倒せただろう」


水九くんの『クイズ』能力はあくまでも一対一でしか想定されていないから囲まれれば答えのない問いによる絶対防御も意味がない。


「水九くんが倒されれば私が使えなくなる。私の能力『TRPG』は何処まで行っても結局運だからね。いずれは『運悪く』倒れる。絶対防御でのマージンが取れなければ私は案外脆かったのさ。彼女は気がつかなかった見たいだけどね」


私は孤立させられた状態で決定的失敗ファンブルを引けばリタイアがほぼ確定するからね。


「そして早乙女くんはもちろん男性をぶつければあっさり倒せる。彼女が私をブレインと踏んで淫魔をぶつけたのはかなり良かったけれど早乙女くんにかかれば大したことはなかったね」


早乙女くんは相手によって強いか弱いかが大きく変わるからね。ある意味では一番簡単に排除できる。まあ、それを見越して私を目立たせて相手が色仕掛けをしてくるように釣ったわけだが。

それに、彼のおかげで私たちを取り込もうとする国の思惑を殆ど潰せたしね。


「御雷さんは単純に強いけれど、そこはもう魔王かのじょが直々に出張れば倒せないわけじゃないだろうしね」


実際魔王殿が勝つ手段は幾らでもあったのだ。最後の戦いもしつこいくらい私を狙えば崩せる可能性は高かった。何せ御雷さん以外は攻撃を受け慣れていないのだから。


「結局、彼女が負けた理由は私たちの弱点と強さを測りきれなかったことと、早々に諦めたことだよ」

「そうですか……」


まあ、見かけ上は無敵にすら見えたのかもしれないけれど御雷さん以外は本当に一般人レベルだったからね。一撃でも受ければ危うかった。


さて、帰ろう。どうせこの先も厄介事が列をなしてやってくるだろう。精々踊る。踊り続ければ何処ぞの神がちょっかいを出してくれるかもしれないし。適当に姫様でも早乙女くんに落として貰って帰る手段を探してもいい。探すこと自体を謎扱いにすれば水九くんも十全に働けるだろう。武力は御雷さんがいれば問題ない。

……まあ、魔王戦で疲れた。暫くはゆっくり休める場所でも探そうじゃないか。


「……ドワーフの国に虹の温泉と呼ばれるものがあるらしい。行ってみないかい?」

「いいですねぇ……温泉……行きましょう!」

「俺は……、また余計なイベントが発生する気がするのでちょっと……」

「僕、温泉って行ったことないんです、楽しみです!」


よし、次の目的地は決まった。まずは英気を養い、のんびりと、しかし隙なく向こうに帰る方法、探そうじゃないか。


……そうだな。様式美だし一応言っておこう。


私たちの、異世界生活は、これからである。


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