僕はまた君に恋をする
まずは覗いてくださりありがとうございます。
最近、ひたすら甘いのが書きたくなりまして。
できたのは前作に続き甘々の小説。
よければお読み下さい。
「好きです。
僕と付き合っていただけませんか」
熱の籠もった、まっすぐな声と、
「すみません」
申し訳無さそうな小さな声。
大学内のカフェテリアにて。
私ー神野菫ーは、毎日告げられる言葉に少し罪悪感を感じながらもそれを断る。
今、告白をしてきたのは、今川隼人という同学年の男性で。
格別にイケメンだとか勉強ができるとかいう訳ではないけど、普通にイケメンの部類に入るし、勉強もまあまあできる、そんな人。
それに物腰が柔らかく、誰にでも親切であるということで私の学年の中ではモテる男である。
そんな彼がなぜ私のようなごく普通の女子大生に告白してくるのか。
私にも不思議である。
が。
彼曰く「一目惚れしました」そうだ。
平均くらいの顔に身長、そして成績。
どこにも一目惚れする要素はないと思うが、毎日好きだと言われて信じない訳にもいかない。
「私、何もいいとこないですよ…」
こそっと呟いた独り言を彼はしっかり聞き取って。
「いえ、あなたが好きなんです」
まるで王子様のような輝く笑顔。
そして少しも迷いを感じさせない返事に言葉が詰まった。
それだけ言われて、しかも私自身が彼に好感を持ってるのだ。
早く付き合っちゃえ。
なんて友人にはよく言われる。
でも、私にだって付き合えない理由はしっかりとあるのだ。
それは、ずっと昔。
私が今の世の中に生まれる前のお話。
そこは日本ではなかった、と思う。
その頃は本当に王子様がいて。
そして私は単なる女中だった。
王子様の身の回りのお世話をしたり、お城のお掃除をしたり。
王子様となんてどうやって話したらいいのかもわからなくて身の回りの世話をしてるときでさえ、自分からはまともに話そうとしなかった。
でもある日、
「いつもありがとう」
そういって優しく声をかけてくれたあの人に私は恋をしたのだ。
身分違いの恋。絶対に叶わない恋。
恋を叶えようとか、私の思いを知ってもらおうとか、そういうことは全くなかった。
ただ隣にいれるだけで幸せだったのだ。
しかしある日、第二王子だったあの人は、隣国に婿入りすることになった。
隣国のお姫様は本当に綺麗で可愛くて素晴らしい人だという話を聞いたから、あの人にはすごくいいことだな、って素直に喜んだ。
しかし、隣国へと出発する前の晩のこと。
あの人に呼ばれた。
最後の最後に何か粗相をしてしまったのかとおどおどしながら行くと、私を見たあの人がすごく嬉しそうな顔をするから、扉をあけたまま固まった。
「入って」
わざわざ扉のところまで来てくれたことにまた驚きながら歩をすすめる。
「最後に会えてよかった」
用事を聞こうとしたとき耳に入った優しい声が心を震わせる。
今、この部屋には…
えっと王子と私しかいなくて…
じゃあさっきの言葉は誰に?
自分には決して言われる筈のない言葉。
けれど心が勝手に期待してしまう。
私の瞳を覗き込んだ王子が笑い声をたてて空気を揺らす。
「あなたに言ってるんだよ、
マリーさん。
そんな顔しないでよ。」
悲しい涙?それとも感動の涙?
なぜかわからないけど涙が零れる。
頬を伝う雫を親指で拭いながら王子は続ける。
「明日出発だというのにごめんね。
でも、どうしても伝えたかったんだ」
今度は髪をサラリと撫でて。
「あなたのことがずっと好きでした」
甘くて切ない言葉を紡ぐ。
思わず開こうとした口は王子の手によって優しく塞がれて。
「返事はいいんだ。
ただ、もう会えないだろう君の記憶に少しでも残りたくて」
悲しそうな、でも少しすっきりした顔で
「自分勝手でごめん。
でも、聞いてくれてありがとう。
これで僕は心置きなく行ける」
伝えられる言葉。
「じゃあ…またね」
そんな言葉を残して離れていこうとする王子に思わず後ろから抱きついた。
「ありがとうございます…
そう言って頂けて本当に本当に嬉しいです」
本当は大好きだけど、そんなこと伝えたらきっとこの人の重荷になってしまうから。
「あなたのこれからが…
素晴らしいものであることを心から祈っております。」
心からの感謝と祈りをこの人に捧げる。
「それでは、失礼します」
どうにか涙を堪えてあの人の部屋から駆け出したあの夜。
私は誓ったのだ。
王族として国のために結婚なさるあの人が下さった思いを大切にすること。
自分は誰とも結婚せずにあの人の幸せを願いつづけること。
それをあの世の中で守り、一生をひとりで暮らしたことは覚えている。
そんな強烈な恋を覚えていて、しかもまだあの人に恋してるような人が新しい恋をできるだろうか。
答えは否である。
それに毎日告白してくれる彼に好感を抱いた最も大きな理由は、あの人に似ているからである。
自分でも気持ち悪いと思うほど忘れられない。
彼には悪いが彼のためにも断るしかないのだ。
そんなことをずっと考えてる私の前で彼はまた言葉を紡ぐ。
いつもは言うだけ言って去っていくのに、今日は違った。
「菫さん、好きな人がいるのですか」
ドキッとして俯いていた顔を上げる。
「その顔は、好きな人がいるといっているようなものですね…」
少し悲しそうな顔をして彼が笑う。
「どんな人か教えてもらってもいいですか?」
優しい声に導かれて、ずっと堪えていた言葉が溢れ出す。
ほとんど全てを話した後で彼の顔をそっと見ると、
なぜか嬉しそうな顔をしていた。
「菫さん、やっぱり好きです」
え、え、え、今忘れられない人がいるって話を
したばかりでは…?
混乱してる私をよそに、彼は更に言葉を重ねる。
「彼の名前は、アラン・ロム・ジュレアス、ではないですか、マリーさん?」
「なぜ、その名前を…」
思わぬ展開に心臓がバクバクする。
「僕もあの時代に生きていたからです。
そして、あのときの僕の名前、それこそがアラン・ロム・ジュレアスなんです」
はにかみながら伝えられた言葉はあまりにも意表をついていて。
口をパクパクさせるしかなかった。
「ずっと好きでいてくれたと、自惚れてもいいですか」
彼の言葉は甘く甘く私の心に響く。
「あらん、さま…。」
ぽろぽろと零れだす言葉を
「ずっとずっとずっと…
好き、でした。」
彼は心から受け入れてくれる。
「もう、他の人に、恋なんて、できないくらいに。」
やっとできた告白。
それにつられて涙がまた零れだす。
あのときと同じことを繰り返す大好きな人。
優しく私に触れた指はあのときと同じで。
「あなたのことがずっと好きでした」
でもあのときと今とは結末が違う。
「僕と付き合ってくれますか、菫さん」
うなずくだけでも、彼は優しい笑みをくれた。
長い年月を巡った二人の恋はまだ叶ったばかり。
これからの二人にどうか幸せが訪れますように。
───────────────────────
〈その後の二人のある日の会話〉
「隼人さん、私のことはいつから…?」
少し照れながらも期待を膨らませながら尋ねる菫。
「僕の身の回りを世話し始めてくれたときかな」
「そんな前から?」
素直に驚く菫に隼人が優しく笑いかける。
「最初見たときから好感を持ってたんだ。
それでずっと見てたら、この人ほんとに丁寧な人だなって思ってね。
いつのまにか目で追ってた。
気づいたらもう恋してた」
甘すぎる笑顔に菫の耳はもう真っ赤である。
そんな菫に追い討ちをかけるように言葉が続く。
「ちなみに、前世を思い出したのは、
菫をもう一度この世界で好きになったとき。
前世なんて関係なく、
君にまた一目惚れしたんだ。」
読んで下さりありがとうございました。
よかったら前作もよろしくお願いします。