双剣士ローグ
血が噴き出した。しかし、血はネイトからではなく、ネイトを殺そうとしていた男から噴き出していた。
剣が振り下ろされる直前横合いから何かが飛んできて、その男の右胸に突き刺さったのだ。
男は最初、茫然としていたが、自分の右胸に視線を向けると、そのまま、どさりと地面に倒れる
何が起きたのか、その場に居合わせた者達全員が唖然とし、飛来した物に気を取られる中、それを投擲した者は雄叫びを上げながら、ネイトを嘲笑っていた男達に突っ込むと、左手に持ったサーベルで、シャノンを肩に担いでいた男を切り伏せる。
敵が来たと、男達が認識した時には遅かった。サーベルを持った男はあっという間に残る二人も切り伏せてしまったのだ。
「キミ、大丈夫かい?」
その場に似合わぬ、妙に落ち着いた口調で、男はシャノンの前にしゃがみ込み、彼女の安否を確認する。
しかし、シャノンは、助けてもらったとはいえ、この見知らぬこの男が怖いのか、涙を流し嗚咽をあげ、男の質問には答えなかった。
「大丈夫、かな?」
シャノンの様子に戸惑いながらも、男はシャノンが緊急を要する怪我をしてはいないと判断したのだろう。その男は、ネイトを殺そうとした男の遺体に近づくと、死因となった右胸に刺さっている、もうひと振りのサーベルを引き抜く。
見慣れぬ男だった。
その男は二振りのサーベルを腰の鞘に収めるとゆっくりとネイトに近づき、ネイトの前でしゃがみ込む。
「君、動けるかい?」
男は優しくネイトに問いかける。
ネイトは男の質問に頷いて答える。
「良かった。私の名はローグ。君は?」
ローグと名乗った男はそういうと、ネイトの腕を優しく掴み、ゆっくりと助け起こす。
「・・・ネイト。」
立ち上がると、ネイトは自らの名を名乗る。助けてくれた事は確かなのだが、この状況においてネイトはこの面識のない男を信用出来なかった為ややぶっきらぼうな返事になってしまった。
「シャノン!ネイト!」
その時、二人を呼ぶ聞き覚えのある声と共に、高速で一つの黒い影がローグに襲いかかる。ローグは素早く後ろに下がり、その攻撃を躱す。
「お父さん!」
そこにいたのは二人の父親であるバイスだった。
「探したぞ、二人とも。怪我はないか?」
バイスは二人の安否を気遣いながらも、ローグに対する警戒を怠らない。
当然の事だが、バイスはローグを敵と認識していた。はぐれた子供をやっと見つけたと思えば、二人ともボロボロだ。実際は転んだ時の怪我とローグが殺した男によるものだが、今この場に現れたバイスからすれば、ネイトとシャノンの怪我の原因がローグにあると考えてしまっても、仕方のない事だろう。
一方ネイトとシャノンは親であるバイスが駆けつけて安心するあまり、緊張の糸がほどけてしまい、バイスの誤解を説くという考えに至らなかった。
「待って下さい。」
敵意と警戒心を剥き出しにしているバイスに戸惑いながらも、ローグは誤解をとこうと落ちついた口調で話しかけると同時に、咄嗟に腰のサーベルにかけた手をゆっくり離すと、そのまま頭の近くまで両手を上げる。
「私の名はローグ。私はあなた方の敵ではありません。」
「この状況でよくそんな事が言えたな!!」
落ち着いた様子のローグとは対照的にバイスは明らかに激昂していた。もし普段のバイスなら我を忘れて襲い掛かっていただろう。だが、ローグの異様な冷静な態度と、言葉だけでなく、両手を上げて敵意は無いと示すローグに、バイスは飛びかかろうとするのを思い留まる。
「すぐに信用しろとは言いません。しかし私はそこの子供二人を助けました。彼等に聞いてみて下さい。」
「ネイト、シャノン、この男が言っている事は本当か?」
ローグの言葉を訝しがりながらもバイスは、ネイトとシャノンに問いかけ、二人はその問いに頷く。
少しの間ローグを睨み付けていたバイスだが、フッと力を抜く。
「分かった。その言葉信じよう。」
その言葉に安心したのか、ローグは上げていた手をゆっくりと下ろす。
「しかし、何故この二人を助けた?お前はこいつらの仲間じゃないのか?」
ネイトの怪我の様子を確かめながら、バイスは視線で男達を指しローグに問いかける。
この村では、こういった非常時に備えて、避難場所はあらかじめ決めてあった。バイスとしては一刻も早く二人をつれてそこに行きたかったのだが、かといって子供達を助けてもらったとはいえ、今知り合ったばかりの、余所者のローグを連れていく事は躊躇われた。
「その質問には後で答えます。今は少しでも早く安全な場所に。」
予想していた返答にローグは、顔にこそ出さなかったが、内心嘆息する。
かといってこの場でローグをこれ以上問い詰める事は躊躇われた。もしローグが敵で、問い詰めた結果本性を現して戦闘になった場合、怪我をした子供二人を守りながらの戦いとなる。
(仕方ないか。)
バイスは内心で呟くとローグを含めた4人で、避難場所に行く事に決める。ここで自分一人がローグと戦うよりも、避難場所で仲間たちと合流し、戦闘になった方がまだ勝ち目があると判断したからだ。
村の者達を危険にさらす行為だったが、ローグとしては少しでも、自分と子供達の身の安全を優先したかったし、もし仮に何者かに尾行されていたとしても、それに気付く自身があった。
「こっちだ。付いて来い。」
バイスを戦闘にバイス、ネイト、シャノン、ローグの一行は避難場所を目指す。