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ケモノ目見聞記  作者: 高宮竜多朗
11/12

会議の終わり

「仮にあの娘が身分の高い娘だとして殺してしまった場合、報復に来るのは十年前の連中と違うという事か?」

 村長の言葉でネイトはハっとする。どうやら予想以上に物思いに耽っていたようだ。しかし先程からほとんど話は進んでいなかったようでネイトは安堵する。

 とはいえ、話を聞いていなかった事には変わらないので、ネイトは急いで会議の状況把握に務める。

「はい、十年前の者達は聖教騎士団呼ばれる連中と、傭兵という金で雇われた者達です。」

 ローグは頷くと説明を始める。

 聖教騎士、村の外部における異種族の迫害の元凶ともいうべき存在だ。

 聖教の正式名称はエルレイア教という。

 この宗教は聖女レイアとその仲間達を聖人として、唯一絶対の神を崇める宗教だ。この神は唯一絶対の神であるが故に名は無い。その為この宗教の名前は聖人達の筆頭である聖女レイアに古代語で「聖なる」という意味であるエルを付けてエルレイア教と呼ばれている。

 さて、ここでこの宗教の成り立ちを語っていこう。

 かつてこの世界に存在する全ての種族を巻き込んだ戦争があった。

 後の世に人間達の間でエルレイア聖戦と呼ばれる戦争である。

 この戦争では種族毎に陣営が分かれ、他の陣営全てが無くなるまで殺しあうという様相を呈していた。

そこで一番最初に消えると思われたのが人間の陣営である。理由は簡単だ。

 この戦争が始まった当初一番数が多かったのは人間だった。しかし数が多い故に纏まりにかけ、人間達の勢力内で争いが勃発。人間同士の争いと他種族との戦争で人間達はみるみるうちに、数を減らしていった。

 人間の滅亡が目前とまで迫っていた時、そんな人間達を纏め上げ人間を戦争の勝者とした者達がいた。それが人間の神が遣わしたという黒き髪の天使ソーマと、神託を受け天使ソーマと共に戦った聖女レイアである。

 この二人を中心に残り少なかった人間達は一丸となり、戦争の勝者となったのである。

 その後戦争の勝者となった人間は二度とこのような悲劇が起こらぬよう、エルレイア教を中心に人間の国が作られていった。

 そしてそれとほぼ同時に異種族への弾圧が始まっていった。

 エルレイア聖戦から二百年たった今もそれらは変わっていない。

 そして神の名の下に、異種族への弾圧を続けていた人間達はもっとも数を増やし、逆に異種族達は着実に数を減らしていた。

 基本的に異種族への迫害は人間達の共通認識といってもいいが、異種族への大規模な弾圧を行うのがエルレイア教直属の騎士団、俗にいう聖堂騎士団である。

 十年前の事も聖堂騎士団が主導して行われた。

 この村の人々にとっては聖堂騎士団は忌むべき名である。

 しかし、今回は事態が十年前とは異なるようだ。

「今回はやってくるのは恐らく、地方貴族が持つ私兵と呼ばれる連中です。」

 ローグの言葉を聞き、この場に居合わせた者達は皆一様に疑問符を浮かべる。その様子を見たローグは言葉を選びながら、説明を始める。

 この世界の国には大きく分けて三つの軍隊が存在する。

 一つ目が先程も話題にでた聖堂騎士団。エルレイア教によって組織され、教えに反する者達を神の名の下に断罪する者達。基本的には国家間の争い等には基本参加しない反面、異教と定めた者達には喜々として浄化という殺戮を行う者達。

 二つ目が王の命令によって動く正規軍。王の命の下、様々な戦いへ赴く者達。主に国家間の戦争に使われる事が多いが、異教徒弾圧に参加する事もある者達。

 そして三つ目が貴族子飼いの私兵達。一応正規軍の一部ではあるのだが、王ではなく地方領主である貴族の命令によって動く者達であり、必ずしも国の王の命令に従うわけではない。基本的には主君である貴族の思惑によって動く。

 ローグの説明を聞き終えて、皆一様に黙り込む。どうやら今のローグの説明を理解しようとしているようだ。

 長い沈黙の後村長が口を開く。

「貴族の私兵がやってきた場合、どうして十年前よりも厄介なのかな?」

「私兵というのは主君である貴族の命令で動きます。貴族というのはほとんどが癇癪もちです。感情に任せて私兵を動かす事も少なくありません。」

 そこでローグは一旦言葉を切ると、一呼吸置き続きを話始める。

「自分の身内が殺されたなら、損得等を考えず怒りに任せ犯人を八つ裂きにしろとでもいいだしかねない。そしてそれを止める者達もいないのです。」

 例えば正規軍の場合は王の下に将軍や宰相という者達がいる為、最高権力者である王にもある程度行動に制約がかかる。

 聖堂騎士団の場合は求心力を気にする。その力を振り回し傍若無人にふるまおうものならエルレイア教への求心力を失う事となる。その為、聖堂騎士団は明確に異端とする者が現れない限り動く事はない。

 しかし、貴族の私兵というのはそういった制約がない。まったく無いわけではないのだが、それでも他の二つに比べれば格段に自由に動かせるだろう。

 もし、ネイトが連れてきた女性が貴族の身内だった場合どうなるか?答えは言わずもがなだ。

「しかし、俺たちを皆殺しにするという点では聖教騎士と同じだろ?十年前のようにいかないってのはどういう事だ?」

「ここからは私の推論も入るのだが…」

 そう前置きすると話始める。

「十年前聖堂騎士は村人を皆殺しにする事なく撤退したのは、聖堂騎士に少なくない犠牲者が出たのと、一応目的を達成したからと私は考えています。」

 十年前、聖堂騎士は村人を皆殺しする事なく撤退していった。

 理由は山奥という慣れない地形に聖堂騎士達は苦戦。逆に村人達は逃亡しながらも住み慣れた場所でゲリラ戦術を駆使し抗戦。その結果聖堂騎士には少なくない犠牲者がでた。

 犠牲者をこれ以上増やしたくないという事と、異端の徒を討伐したという実績もあり聖堂騎士は撤退としたとローグは考えていた。

 しかし、貴族の私兵の場合は違う。犠牲が出ようが、何だろうが目的を果たそうとするだろう。それこそ、村人全員を殺さないと彼等は止まらないだろう。

 流石に犠牲者が増えれば撤退するだろうが、それでも聖堂騎士に比べればしつこいのは確かだ。

 以上の事をローグから説明され、村人達は押し黙る。ネイトが連れてきた女性の処遇をどうするか考えているのだ。

 少しの沈黙の後、村長が口を開く。

「取りあえず、今夜は遅い。明日、もう一度集まりを開くとしよう。それまでに皆意見を考えておいてほしい。」

 その言葉でひとまず会議はお開きになるのだった。


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