昔と今
「ア…キ…ネ…。」
気を失っているルミナーレの眼からは一筋の涙がこぼれた。
「あら、黒猫さん。気を失いながら泣いているわ。それにしてもシェータ、さすがとても上手かったわよ、変化。」
沙梨華はそう言って、自分の隣にいる男に話し掛けた。
「当たり前です。一度ザギィには会ったことがありますし、そのときこの人も居たと思います。だからとっても楽だったです。」
「ふふふ。『見下しのシェータ』さんには『鬼神のザギィ』さんは簡単だったのね。」
そう。この少女、シェータは、先程ルミナーレを裏切ったザギィだったのだ。
つまり、本物はまだ『写しのフォート』と戦っているのだ。
「お姉ちゃん!!」
そこへライヤナがやってきた。
「あの娘は!?お前たち、とっ捕まえておしまい。」
沙梨華はライヤナを見つけると、部下に捕らえるように命じた。
「ライヤナ様!ここは私どもが守ります!早くその方を!!」
ダダダダダダ
マシンガンを持った召使い達が沙梨華の部下を倒していく。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」
「うぅっ……ア…キナ?」
ルミナーレはようやく気を取り戻した。
「お姉ちゃん!ルミナーレお姉ちゃん!!」
「!!」
(私は…ルミナーレ・ビジュ。他の誰でもない。そう。カリネでも…何でも、ない。)
ルミナーレはライヤナの一言で今の自分を取り戻した。
「大丈夫。ありがとう、ライヤナ。」
ルミナーレは微笑み、ライヤナの頭を撫でた。
「ライヤナをお願い。」
ルミナーレはスッと立ち上がると、ライヤナを召使い達に任せ、沙梨華の前へ出た。
「よくも騙してくれたわね。これじゃあ『黒猫』の名がすたるわ。」
「そう。ならどうするの?」
「フッ。決まってるじゃない。知ってる奴を殺る。それだけでしょ?」
先程間でのルミナーレにはなかった、どす黒いオーラと快楽があった。
「!!!っ…。なによ。さっき私におされてたのに生意気言うものじゃないのよ!」
ルミナーレのどす黒いオーラにおされ、沙梨華は吠えた。
【骸骨の怨念】
沙梨華が扇子をひっくり返すとルミナーレを屍が囲った。
【氷剣】
ルミナーレが印を結ぶと刃が氷という美しい氷の剣が現れた。
ザンッ
音と共に屍が二つになった。
「死者の弱点は分かった。さっきそこに居る偽者が教えてくれた。粉々にすれば、元に戻る事はない。」
ルミナーレは笑っている。何かのスイッチが押されたように、さっきとはまるで別人だ。
トコ…トコ…
不気味な笑みを浮かべ、ルミナーレが近づいてくる。
沙梨華もシェータも恐怖で動けない。
「シェータ!ぼぉっとしてないで、何かしてちょうだい!」
「……わっ分かりました、沙梨華様!」
【操り(ラヴォラーレ)】
そう言って、オカリナを吹き出した。
「うぅ……」
それを聞いた、ルミナーレが頭を抱えて、苦しんだ。
しかしすぐにそれはなくなり、棒立ちになった。
そのルミナーレの目は虚ろで、気味悪いものだった。
オカリナを吹き続けるシェータのほうに、ルミナーレが近づいていった。
そしてそのまま、シェータを刺した。
「きゃぁぁぁ!」
シェータが悲鳴をあげた。
「私に操りなんて聞かないの。この…ルミナーレ・ビジュには。」
「ぁぁ……」
シェータの声は次第に小さくなり、最後は消えてなくなった。
「動かないで!」
「?」
沙梨華の声に反応し、沙梨華を見た。
「動かないで。一歩でも動いたらあの娘を殺るわよ。」
「…!ライヤナを?ふーん。殺れば?出来るもんなら…ね。」
見るとライヤナが屍に捕まっている。
「おっお姉…ちゃん?」
ライヤナが不思議そうにルミナーレを見ていた。
しかしルミナーレは、それには何も反応しなかった。
むしろ、笑っていた。シェータの返り血を拭きもせずに。
それがまた、沙梨華に恐怖を覚えさせた。
“スッ”とルミナーレが膝をついた。
「動かないでと言ったはずよ。」
「“一歩でも”でしょ?私はまだ一歩も動いてないけど。」
【巻きつく木】
ルミナーレは印を結び、手を床についた。
見ると、屍の足元から気が現れ、屍に巻きついていた。
バキ ボキ
その力は強いらしく、屍の体は見るも無残な姿になっていった。
「うっ…忍術ね…いいわ。私が直々に相手してあげるわ。」
沙梨華は冷や汗を掻きながらも、強気な事を言っていた。
「ふーん。死んでも知らないよ。まぁ、生かそうとなんて思ってないけどね、小母さん。」
ルミナーレが黒い笑みを浮かべながら、沙梨華を挑発した。
「なっ何ですってぇ!?」
“小母さん”と言う言葉に沙梨華がキレた。
ガンッ
そして沙梨華は、隠し持っていた短刀でルミナーレに襲い掛かった。
そしてそれをルミナーレは動くことなくクナイで受け止める。
「そうやって初めから来てくれればいいのに…もしかして自分を汚したくない人?小母さん。」
ルミナーレは更に挑発する。
「年上を舐めるものじゃないのよ。貴女より十歳は上なのだからね。」
沙梨華はかろうじて笑っている状態だ。
「へぇ。じゃあさ、年下も舐めると痛い目遇うよ?それに、十歳年上って…自分で“小母さん”て言ってるようなもんだよ?」
「なっ!!」
沙梨華の短刀に更に力が加わった。
ルミナーレは負けずと力を加えた。
ザンッ
二人は離れた。
ガクッ
膝をついたのは沙梨華だった。
「何…をされ…たの?」
沙梨華が不思議に思うのは当たり前だった。
何故って…だって彼女はただ離れただけなのだから。
ただ後ろに飛んだだけなのだから。
痛みも何も感じなかった。
「まさか…忍術?」
「まさか。そんな術知らないよ。まぁ“金縛りの術”くらいは知ってるけど…ね。」
「じゃぁ…何……を?」
「簡単よ。このクナイには即効性の猛毒が塗ってある。それだけ。」
「え…?いつ…したの?」
「さっき。離れた時にね。」
「痛みなんて…感じなか…ったわ。」
「もちろんよ。私はプロ。それぐらい当たり前。」
「ガハッ…ハァハァ。」
サリカは吐血した。
「苦しいみたいだけど、大丈夫だよ。多分そろそろだと思うから。それじゃぁね。そうそう。“負ける”なんて考えちゃダメだよ。心が折れた時点で負けなんだから。まぁ、今言っても意味無い…か。」
ドサッ
音と共に沙梨華は倒れた。
「お姉…ちゃん…?」
「大丈夫だった?ライヤナ。」
ルミナーレはライヤナに近づき、微笑んだ。
「さっきの…だぁれ?」
ライヤナの眼は恐怖でいっぱいだった。
「え?」
「さっき戦っていたのは…お姉ちゃん?」
「うん、そうだよ。どうして?」
「だって…すごく怖かったよ…。」
ライヤナは怯えている。
「……。あれが本当のルミナーレだよ。ごめんね。」
ルミナーレはライヤナの頭を撫でながら答えた。
「そうだ、ライヤナ。あの結界…どうやって解いたの?」
ルミナーレは一番の疑問をライヤナに聞いた。
「え?結界なんてあったの?」
「ううん。ごめん、今の忘れて。」
ライヤナのそのセリフに、ルミナーレは驚いた。
(確かに仕掛けてきたはずなんだけど…)
自分の記憶をもう一度探った。
「さてと。それじゃあ、ザギィの所に行かなきゃね。」
ルミナーレの顔が真剣になった。
「ザギィお兄ちゃんの…所?」
「うん。相手はあのフォートだし…早くしないと。ライヤナはここで待っててね。」
「…う…うん。」
ライヤナは少し淋しい顔をした。
「大丈夫。すぐに戻ってくるから。だから待っててね?」
「…うん!」
ライヤナは笑顔で答えた。
それを見たルミナーレは、そこを立ち去ろうとしたが、振り返り、もう一度ライヤナのほうを見て
「あ、そうだ。ねぇライヤナ。一つ訊いていい?」
と尋ねた。
「うん。」
「ライヤナって―――」
次回はザギィVSフォート戦です!
まだまだお付き合いください。