ティーグレ
屋敷の一番奥の大きな扉。
その奥にティーグレ・ボス、ディックがいた。
「覚悟しろ、ディック!!」
「おやおや。もう見つかってしまいましたか。」
ディックは、淡々と喋った。
「残るはお前のみ。命乞いでもしたらどう?」
ルミナーレが挑発的に言う。
「そうですねぇ…今はこちらの不利ですね。では、私はここで退散させて頂きます。」
「そうはさせるか。てめぇは今ここで殺す!」
退散発言をしたディックに、ザギィが殺人発言をした。
「では、約束を致しましょう。」
「んだと!?」
「待ってザギィ。」
熱くなっているザギィをルミナーレが止めた。
「私に任せて。」
とザギィに小声でつぶやいた。
「約束って?」
「ええ。このファミリーには手を出さないことをお約束しますよ。」
「分かったわ。こちらもそちらが危害を加えない限り、手を出さないと約束しましょう。」
ルミナーレが勝手にディックと約束をした。
「おい、大丈夫なのかよ。」
「大丈夫。ティーグレは、約束は絶対守る。手を組むと言ってきたら裏切られる可能性があるけど、約束は平気よ。」
ルミナーレがザギィに説明した。
「さすが情報屋ですね。それを仕事にしているだけ、ありますね。では、これ以上ここには居たくないので。」
バッと、布を翻し、消えた。
「追うよ。ザギィ。」
「追うって…さっき手は出さねぇって約束したばかりじゃねぇか。」
先程と言っていることが違うルミナーレにザギィは疑問を抱いた。
「手を出さないとは言ったけど、追わないなんて言ってない。アジトだけでも分かったほうがいいからね。さ、早く行くよ。」
そう言ってルミナーレは、窓から飛び降りた。
続いてザギィも飛び降りた。
ディックは後ろにいるザギィ達を何度も見てきた。
まるでザギィ達にペースを合わせるかのように。
しかし、あるところを境にディックの姿が見えなくなった。
しかもずっと同じところを回っているように思える。
「もしかしてこれ…幻術?」
ルミナーレが急に立ち止まり、あたりをよく見た。
「幻術だと!?いつの間に掛かったんだよ。」
ルミナーレの発言にザギィは驚いた。
ずっと同じの煉瓦造りの家。
よく考えれば森に囲まれた、トゥロンバファミリーの屋敷の近くにあるはずのない場所であった。
【解】
幻術を解くと、そこは森になっていた。
「やっぱり幻術だったね。さ、先を急ごう。」
そう言ってまた二人は走り出した。
森の奥深く。
どれほど走ったか忘れるほど、走っていた。
そこへ、赤い壁のようなものが道をふさいでいた。
「なんだこれ?」
ザギィが首をかしげた。
「これ…死の結界!?何でそんなものが…。」
「死の結界?なんだそれ。」
「うん。死の結界っていうのはね、禁止された結界なの。親しみのある人間を殺すことで、初めて作ることができる結界。それに殺せば殺すほどその結界は大きくなる。もちろん術を発動させるまでもかなり難しいって言われている。結界の中では最上級と言われているけど、それなりのリスクが危険すぎることで禁止されたはずなのに……どこから作り方を…………」
説明しているルミナーレからは、いかにもこれが恐ろしいというのを物語っていた。
「それほど外道ってことか。」
説明を聞いたザギィは、顔つきが更に強張った。
「仕方ない。帰るか。」
「帰る?ここまできてか?」
「仕方ないじゃない。これの解き方はまだ分かってない。それに約束は守るファミリーだから、大丈夫。心配なら、部下寄越せば?」
ルミナーレが呆れたように言った。
「分かったよ。面倒くせぇな……」
ザギィは折れて、ルミナーレに同意した。
そして二人は元来た道を戻っていった。
次回は最終話です。