信頼
(こいつ…なんて力してやがんだ…!)
「ふーん。どうやら豹変すんのが恐ぇらしいな。豹変しねぇと死ぬって言ってんだろうが!!」
フォートの凄まじい力でザギィは弾き飛ばされた。
「弱ぇな…。あ、そういえば、あの言葉を聞けば、豹変するんだっけ?じゃぁ、“ばけ」
「ザギィーーー!!!」
フォートが“化物”と言おうとしたが、それはルミナーレによって消された。
「チッ。邪魔しやがって…!!」
フォートの殺気がルミナーレに向いた。
「あんたなんか恐くない。」
「殺られてぇのか。」
「殺れるもんなら殺ってみろ!!」
ルミナーレの挑発にフォートが乗った。
「何言ってんだ!俺より弱いお前が、そいつに勝てるわけねぇだろ!!」
ルミナーレに勝ち目が無いと察したザギィが、ルミナーレを怒鳴った。
「じゃあ何で、その強いザギィが負けかかってんのよ!」
「う゛……」
本当のこと言われ、ザギィは怯んだ。
「豹変して。」
「は?」
ルミナーレのいきなりの言葉に、ザギィはクエスチョンマークを浮かべた。
「しなきゃ勝てないんでしょ。大丈夫。元に戻す方法はちゃんと考えてあるから。」
そう言ったルミナーレの顔は、自信に満ちていた。
「でも俺、何処で暴れるか、分かんねぇぞ。」
「大丈夫。それも考えてあるから。あんた達が戦い始めたら、結界を張る。だからその中で戦ってもらう。終わったら結界を解いて、あんたの豹変も解く。それでいい?」
「ああ。それがいい。」
ザギィはルミナーレの策に同意した。
「俺を殺ることに集中しないと死ぬぞ!」
キィィィン
フォートが振り下げた刀をザギィが受け止めた。
「ふーん。やっと豹変してくれるみてぇじゃねぇか。」
フォーとが嬉しそうに笑った。
「ルミナーレ!」
「分かった!」
ザギィが叫ぶと、ルミナーレは退避した。
(仕様がねぇな…。来い!てめぇで殺ってやる!!)
ドクン
その瞬間、ザギィの目付きが変わった。
【光の壁】
それを合図とし、ルミナーレが結界を張った。
刀同士が響き合い、目にも止まらぬ速さで動き続ける、ザギィとフォート。
とても人間とは思えない。
一瞬、ザギィとルミナーレの目が合った。
ルミナーレは鳥肌が立った。
ザギィの豹変した姿を見るのは初めてではないが、最後に豹変したのは、五年以上も前。
それに、目が合ったのは、これが初めてであった。
その目は、根っからの“殺し屋”が持つことが出来ると言っても過言ではないほどのものだった。
慣れることなんて、無理に近いだろう。
「あそこにいたぞ!!」
ティーグレの部下達が、ルミナーレを見つけた。
その言葉で、ルミナーレは我に返った。
彼らが何も言わなかったら、気付くことすらなかったろう。
バンッ
一斉に銃で撃ってきた。
「人数多いなぁ…。」
【光の鏡】
そう言うと、ルミナーレの前に光の壁が出来た。
しかし、壁はそこにあるだけだが、鏡は反射する。
つまり、攻撃を元来た方向に、同じ速度で返す。
だから敵の銃弾は全部返り討ちとなった。
「大分減ったかな?」
しかし、何処から湧き出てくるのか、まだまだたくさんいる。
「面倒だなぁ…。」
【雷の竜巻】
電気を纏った竜巻が、敵の集団を襲った。
敵は感電し、竜巻で巻き上げられ、そのまま地面に叩きつけられた。
それで大半は片付いたのだが、それでもしぶとく残っている奴らもいた。
「仕様がない……。しつこいのは、嫌われるよ!」
【闇の穴】
突然、空間に亀裂が生じ、穴が開いた。
これはいわゆるブラックホールのようなもので、ある一定のものを吸い込む。
吸い込まれたものは、跡形も無く消える。
今回は、目の前の敵だ。
そして、全ての敵を吸い込み終えると、ルミナーレはその穴を閉じた。
「疲れた…。」
この技は、難易度が高く、体力の消耗も激しい。
ルミナーレはその場に座り込んだ。
後ろを向くと、相変わらずザギィとフォートの壮絶な闘いが続いていた。
豹変したザギィと豹変したフォートの戦いは、何の会話も無く続いていた。
常人には、決して見えることの無い速さで闘い続けている。
フォートは息を乱していた。
しかし相手のザギィは、乱れるどころか、逆に落ち着いてきている。
その上、ザギィの顔は笑っていた。
「そう来なくっちゃ、詰まんねぇじゃん!」
フォートは、無理して笑った。
しかしその顔も、時が経つにつれて、次第に引きつり始めた。
どうやら豹変したザギィをここまでとは、思っていなかったらしい。
乱れていた息が、更に乱れていった。
グサ
闘い始めてから三十分。
ようやくこの闘いで傷が出来た。
傷が出来たのはもちろんフォートの方。
【鬼牙】
フォートの怯んだ隙をザギィは見逃さなかった。
この前に出した【鬼牙】とは比べ物にならないほど、大きく、そして威力があった。
「ぐぁぁぁ―――」
二人の闘いを見届けたルミナーレは、結界を解いた。
「ライヤナ!お願い!!」
そして屋敷の上にいるライヤナに声をかけた。
ライヤナは頷き、空を見上げ、深呼吸をした。
そして…歌を歌い始めた。
♪〜 Perché(ペルケ) lotta?
Perché(ペルケ) uccide l’un l’altro?
Tutte della vita di persone ed esso sono uguali---.
In dell’oscurità(ディイル オスクリタ) scura e scura.
Io trovato leggero.
La luce era lontano dal mio luogo.
È(エ) come piccolo come scompare,
Ma luce fuori la quale mai non va,
Persone chiedono,perciò(ペルチョ) continuerà(コンティヌアーレ) lottare.
Perché(ペルケ) lotta?
Perché(ペルケ) uccide l’un l’altro?
La vita di persone loro tutti sono almo---.
Ci sono né(ネ) una cima néil fondo.
Anche persone,un animale,ed una pianta,
cosa valido,una cosa snza quella destra.
Tutti sono tutti.
É(エ) completamente importante---. 〜♪
歌が歌い終わる頃には、ザギィは元に戻り、そして今まで負った傷まで治っていた。
「ライヤナ…お前…」
ザギィは、屋敷の上にいるライヤナを見上げた。
「そ。ライヤナは歌術の持ち主。つまり、歌師だったの。」
ライヤナの代わりに、ルミナーレが答えた。
歌師とは、歌を歌って戦う人のことを指す。
歌に感情を込め、敵を倒す事はもちろん、治癒能力や操り能力、物を燃やすことや凍らすことまで、感情を込めれば何でも出来ると言う能力である。
歌師は、一億人に一人いるかいないかの確率で生まれる。
遺伝子は無関係だという。
つまりこの世界に四十六人いるかいないかという、なんとも珍しく、そして恐ろしい能力である。
「そうか。ライヤナは歌師だったのか。」
「うん。凄いでしょ?」
誉めて誉めてとライヤナは、言った。
「さてと…これで終わりだったらいいけど…終わっちゃいないのよね…。」
ルミナーレが腰を上げた。
「大丈夫なのか?」
「何が?」
心当たりが無いのか、ルミナーレはザギィに聞き返した。
「さっき、【闇の穴】使ったろ。あれものすげぇ体力消耗すっから…。」
「………………」
何も返事をせず、ルミナーレは目をパチクリさせた。
「なっ何だよ…。」
「いや…ザギィはそんなこと言わないと思ってから。フッ…もしかして、全部吹っ切れた?」
ルミナーレが笑った。
「お前こそ。」
ザギィも笑った。
(何年ぶりだろう。ザギィの笑顔を見るなんて…。)
久々に心から笑いあった。
「じゃ、行こうか。ディックのところに。」
「ああ。」
二人の顔付きが変わった。
「ザギィお兄ちゃん…ルミナーレお姉ちゃん…。」
ライヤナが心配そうに二人を見上げた。
「ダイジョーブ。絶対勝つから。ね?」
ルミナーレはしゃがみ、ライヤナと同じ目線になった。
「…うん。がんばってね!」
「任せて。」
そう言って、二人は走り出した。
次回はボス戦?です。