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限定恋愛  作者: 久遠夏目
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01 再会

「うげっ」

「あ」


 ほぼ同時に発せられた声で目が合う。ああ、できれば会いたくなかった。


「お、お久しぶりです」

「そうだね、中学卒業以来?」

「そ、そうですね……じゃ、じゃあわたしはこのへんで!」

「え」


 そう叫んで、わたしはそそくさとその場をあとにしたのだった。

 今日は成人式で、これはそのあと行われた中学の同窓会だった。わたし、織原砂名おりはらさなはそれには行かないつもりだったのだが、幼なじみにせがまれて参加することになった。まあ卒業以来会っていない人もいるし、ちょっとくらいならいいか。――そう思ったのが間違いだったんだ。

 中学の同窓会ということは、先ほど会話とも言えないような短いあいさつを交わした『あの男』も来る可能性は十分にあったのだから。しかも幹事め、立食なんて自由に動き回れる形式を採用しやがって。

 あー、もう嫌だ。だから同窓会とか出たくなかったんだよ。幼なじみには悪いけど、もう帰ろうかな。


「はあー……」


 そう思って深いため息をついた、そのとき。


「楓くん」

「……は?」


 後ろから聞こえたのは、先ほど別れを告げたはずの『あの男』の声。しかも、呼ばれた名前はわたしのものではない。

 しかし、わたしはその名前に反応してしまう。それは何故か。それは――


「その呼び方はやめろっていつも言ってたよね?」


 くるり、眉間にシワを寄せながらゆっくりと振り向けば、そこにいた人物はにこり、と笑った。くそ、忌々しい。


「ああ、ごめんごめん。ついクセでさ」

「中学を卒業してから五年も経ってるのに?」

「今日は同窓会だから、昔を思い出したんだよ」

「あっそう」

「楓くんは全然変わってないね」

「あんたもね」


 何がおかしいのか、くすくすと笑みをこぼすこの男は、今日の同窓会に参加していた一人で、つまり、わたしの中学時代の同級生である高梨千尋たかなしちひろだ。端から見れば会話が弾んでいるようだが、別に仲が良かったわけではなく、どちらかと言えば、というかむしろめちゃくちゃ仲が悪かった。だって、わたしはこの男にずっとパシられていたのだから。

 高梨と初めて同じクラスになったのは中学二年のとき。最初の数ヶ月は特に関わりがなかったのだが、ある日幼なじみが墓穴を掘ったせいで、わたしはとある弱味を握られてしまったのだ。


「ていうかホントにその呼び方やめてくんない? わたしはもう先輩のことすきじゃないんだから」

「え、そうなの? まあそうだよね、楓くん彼女いたし」

「こんな日までイヤガラセとはいい度胸だな」


 その弱味とは、当時すきだった人をこの男に知られてしまったということ。しかも、その人はこの男の幼なじみであるうえに、部活の先輩でもあったのだ。だから、彼らはかなり仲が良くて、逆らったらバラされる可能性が大いにあり、わたしは大人しくこの男に従うしかなかったというわけだ。

 とどのつまり、先ほどからこの男が言っている『楓くん』というのがわたしのすきだった人の名前であり、イヤガラセの一貫として、わたしがこの男に呼ばれている名前なのである。

 そんな中学時代の汚点とも言えるこの男は、至極愉快そうな笑みをたたえながら口を開いた。


「今はすきな人いないの?」

「いないね」

「周りはほとんど彼氏がいるのに?」

「別に彼氏がほしくないわけじゃないけど、いなくても問題ないから」


 あおりを軽く受け流されたせいか、高梨は「ふぅん」とつまらなそうにつぶやいたが、すぐに何かを企んでいるかのようににやり、と口角を上げた。


「――じゃあさ、俺と付き合わない?」

「……はあ?」




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