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change  作者: 虚虎 冬
楽園サラダ編
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プロローグ:心も色鮮やかに

 日差しは強く、道の露店では色鮮やかな野菜、果物が並ぶ。買い物をする大人たちの間を縫って、子供が走り抜けていく。<白の街>の子供たちは白い制服だったが、ここの子供たちは、紺の制服を着ている。その笑顔は、太陽の輝きに勝るとも劣らない。

 国の中央には、水晶でできた城があった。これもまた、日の光を反射して輝いている。

 住人の髪の色は、様々だった。赤、黄、青、緑……。鳥が上空を飛べば、そのカラフルな国の様子に驚いただろう。

 この国は、立派な名前が付いていたが、周りの国の住人からは、羨ましさを込めて<楽園サラダ>などと呼ばれ、周辺国の重鎮からは、賞賛の意を込めて<子供たちの笑う国>と呼ばれている。

 リゼリアとムーシャの二人が、第一位世界に来て初めて訪れるのが、この国である。



 リゼリアとムーシャがねじ曲がった空間を抜けると、そこは第二位世界では見られない、広々とした草原だった。木が立っているが、それも地平線が見えるくらいにまばらである。

 ムーシャは思わず歓声を上げた。

「凄い! こんなの実家でしか見たことないよ」

 リゼリアも、呆然としながら答えた。

「私も。……こんな景色、何年振りだろう」

 <白の街>に一旦入ってしまえば、出ることも難しかった。二人とも、帰省は学園に入ってから一度もしていない。……思えば、家族と会わずにここへ来てしまったのだ。それに気が付いて、心のどこかがチクリと痛んだ。

「……あ、ムーシャ」

 あることに気が付いて、リゼリアは声をかけた。

「何?」

「……ムーシャの髪」

 ムーシャの髪は、元は赤茶色だ。

 今は、赤みがかった紫色。ムーシャの髪も、<白の街>では許されないものになっていたのだ。

「うわー、きれい! これでリゼとお揃いだね!」

 お揃い。色は違うが、そんな気分だった。


 ところで、だだっ広い草原だと、どこへ向かえばいいか分からない。このままでは餓死してしまう。

 ムーシャはパニックになりかけたが、そのときリゼリアが言った。

「こっち。……に行くと良い気がする」

 リゼリアの勘(?)によって、二人はなんとか人がいるところにたどり着いた。大きな壁があり、物見(やぐら)がある。物見櫓に立っていた人が叫んだ。

「そこの二人! この国に入りたいか?」

「入れるなら、是非」

「今門を開ける! ちょっと下がって待て!」

 リゼリアは目を丸くした。検問でもされるのかと思ったからだ。ムーシャは「楽しみだねえ」とはしゃいでいる。

 そのうち門が開いた。

「あの! ……入っていいんですか?」

 リゼリアの言葉を聞いて、見張りの兵は苦笑した。

「この国は、悪さをしない限り自由だ! とくに気にせんで入れ!」

 その言葉を聞いてほっとした。この国は、歪んでいる世界にある国だからと言って、悪い国でも無さそうだ、と直感的に思った。


 リゼリアもムーシャも、今まで生きてきたほとんどは<白の街>の中だ。白くて殺風景なところである。

 また、先ほどの草原だって、緑一色だった。

 二人は、ここまで色鮮やかな景色を見たことがない。驚いて、入口で立ち止まってしまった。

 声も出ない。リゼリアはともかく、思ったことをすぐ口に出してしまうムーシャすらも黙っている。

 そんな二人に、ある露店の店主が声をかけた。

「どうしたい、そこの嬢ちゃん!」

「……あ、私達ですか」

「そうだよう! ここに来て驚いてるのかい? 始めて来るやつは皆びっくりするからね!

 ところで、コレ、買わないかい? 美味しいよ!」

 ムーシャの視線が、店主の持つ焼き鳥にくぎ付けになる。たれがぽた、と落ちた時、ムーシャがごくりと喉をならした。

 そういえば、朝に第二位世界を出発してから、何も食べていない。占い師からもらったお金もあるし、とリゼリアは考えた。

「……2本、ください」

 ムーシャがぱっと振りかえった。

「いいの?」

 そう言いつつ、ムーシャの目は輝いている。これで買わないと言ったら、とても落ち込むだろう。

「まいどありー! 2本で160ペクね!」

 店主から焼き鳥を受け取ると、1本をムーシャに渡した。

「わあ……」

と一言、ムーシャは焼き鳥に夢中になった。その様子を見て、リゼリアもふっとほほ笑む。そして、自分も食べ始めた。

―――ああ、ちゃんと笑えるんだな。

 店主は元気になった二人の様子を見て、安心したのだった。

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