35:魔法合戦
始まったのは、突然だった。
「wsly nmu rrnshhka! jmh ritpk, v m!」
高らかに唱えられたサーガの詠唱は、あまり工夫の凝らしていないものに思えた。実際、出てきた魔法は、ただの水。
その水の量が、半端ではなかったが。
「wsly nmu rrnshhka! hh ritpk, v m!」
サリの詠唱で出てきたのもまた、膨大な火。水を追いかけるようにして火が傾れ込む。
そして彼女が、もう一つ。
「さぁてっと! nmu rrnshhka! hh ritpk, kooda to nak……」
狐も、詠唱を始める。
「wsly nmu rrnshhka. jkh ritpk, koe fl nak」
「wsly!」
狐の声に被せ、サリが最後の詠唱を告げる。すると――。
ドン!
サリの火が、サーガの水に追いつき、水を一気に蒸発させていく。発生するのは水蒸気。
水蒸気爆発である。爆風がサリ達の方、ユウ達の方へ拡散していく。その爆風の最中、突如火の壁が出現し、ユウ達の周りに氷の槍が並び立つ。
火の壁は爆風に押されて、ユウ達へと向かってきた。逃げ場所も無い。二人が慌てているかと思いきや。
「……行ける?」
「ハネイヌが、なんとか。じゃ、行くよ」
ユウがハネイヌを高く掲げ、ハネイヌは口を閉じてぶるぶると震えていた。
「ハネイヌ、もういいよ」
ユウの一言で、ハネイヌの目がきらっと光った。ハネイヌの震えが止まり、羽をばさりと揺らして、その口を大きく開く。
「ばあああ!」
風の塊――とは言い難い。ハネイヌの口から発生しているのは、もはや嵐であった。荒れ狂い、爆風と火を退けていく。
「wsly nmu rrnshhka! jkh ritpk, koe in pic, hh ritpk, kooda ful nak」
ムーシャも魔法を唱える。それは五回戦の時の、紅い薔薇。ムーシャが後で悔やまないか、ユウは一度聞いた。
――それを撃って、本当に平気なの、ムー姉
――大丈夫……だと、思うの。あの人達は、これを受けても平気だって思うから
美しく残酷な華を見、観客が息を呑む。また、中の人が死にかけているのではないか――。
その心配は、全く無用だった。
「wsly nmu rrnshhka. jmh ritpk, kooda fl tkm!」
サーガの落ち着いた声が聞こえた。瞬間、薔薇は水によって、綺麗に消し去られる。
薔薇のあったところには、二人の煤けたマント姿と、周りの氷をばりばりと食べる狐。サリが、へにゃりと笑って言う。
「こんなもんじゃ、あたし達、倒せないんだけどぉ? 魔法の使い回しなんてさ」
サリの声は、遠いのでユウ達に聞こえることは無い。しかし、なんとなく察した。ユウはにやりと笑って、
「まだ、続くよ」
地面に手を当て、ずっと何かを探るようにしている。ハネイヌの嵐も健在だ。
ムーシャはハネイヌに、
「そのまま、風をあっちにお願い」
「ば……ふっ!」
嵐が敵の方へと向かい、
「これで、最後、かなっ。wsly nmu rrnshhka! hmh ritpk, m koe to nak!」
ムーシャが、最後の力を振り絞り、火の杭を放った。
「ただの、風と火ぃ? あやや、あたしより頭悪そう!」
「お前より頭悪いやつがいてたまるか。……しかし、あの程度は簡単に防げるな」
サリとサーガが、首を傾げながら迎撃の態勢をとる。その時、狐がぶるりと震えた。
「どうした」
「嫌な、予感ですううう……。何か来るんですぅ」
狐が反応したということは、水の何か。だが、ユウが何かした気配は全く無い。サーガ達は、狐の勘違いだと思った――。
泥に足を取られるまでは。
「あやややや、何コレぇ!?」
「泥……!? 土魔法も撃てたのか!?」
敵の二人は勘違いをしていた。これは、真っ当な魔法だと。
しかしこれは、ユウのした事。
「やっと地下水、見つけた……!」
彼はそう一言、その地下水を地上に誘導し、敵の足場を泥沼とした。泥になるばかりか、水も染み出てくる。
「くそっ……! wsly nmu rrnshhka! jmh ritpk, kooda in pik!」
流石の<武国>最強騎士達、その中でも魔法を撃つ。しかし、心の動揺が現れたのか、その壁はあまりにも小さく。爆風と共にやってきた火の杭を、押し止めることはできなかった。
顔を引き攣らせて、迫る杭を見つめる――。
水を含んだ地面に激突した火の杭は、白い煙を上げた。




