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change  作者: 虚虎 冬
序章
6/98

5:旅立

―――手を貸してくれませんか。

 それはつまり―――第二位世界ここから逃げられる?

 リゼリアは、逃げられる、ということに気付き、ずっと考えていた。

 逃げられる。あの息苦しい教室から。

 逃げられる。クラスメイトの嘲笑から。

 逃げられる。

―――もう目を合わせてくれない幼馴染から。

「……リゼ?」

 そっと呼びかけられてはっと気付いた。逃げられるけど――ムーシャはどうなる?

 ムーシャはずっとリゼリアに寄り添ってくれた。リゼリアがいなくなった後、ムーシャは確実に立場がまずい。自分のせいでムーシャがいじめられたら。そう考えると背中がすうっと寒くなった。

「あの……」

 アウナと呼ばれていたという占い師が、二人に声をかけた。

「リゼリアさんはもちろんですが……。できれば、ムーシャさんにも第一位世界へ行って頂きたいのです」

 思わぬ言葉に二人とも目を丸くした。

「それは……どういうことですか?」

「ムーシャさんは既に一度、化け物から命を狙われています。一度目をつけられてしまえば、これからも襲われてしまうでしょう。……私が助けられればいいのですが、私の命もそう長くは無いので」

 闘神とその依り代の人を、第一位世界に送ったら、私は力尽きるでしょう。そう占い師は言った。

「じゃあ」

 占い師は顔を歪めた。とても悔しそうだった。

「そうです。私はあなたについて行く事ができません」

 その言葉を聞き、ムーシャが勢いよく手を挙げた。

「私、着いて行きます!」

 占い師がつくならともかく、リゼリアを一人になどさせたくは無い。

 占い師はそれを聞いて、ほっとした顔になった。

「それでは……持っていきたいものを持って、明日の朝に北門へ来て下さい」

 リゼリアとムーシャは、次の日に異世界へと旅立つことになった。急なことだが、リゼリアにとってはありがたいことだった。


 改めて荷造りをしてみると、自分の荷物の少なさを再確認した。リゼリアとムーシャだけでなく、白霧学園の生徒は皆、荷物の量はこんなものだろう。意識すると、ここは異様な所だった。

―――白霧学園ここだけじゃなく、他もこうなんだろうか。

 第二位世界は「差別の世界」、歪んでいる世界だそうだ。世界自体、おかしいのかもしれない。

 ぐだぐだと考えてしまったことを振り払う。リゼリアは北門へと向かった。


「……来ましたか。それではリゼリアさん、ムーシャさん、準備はいいでしょうか」

 二人は顔を見合わせて、そして、占い師に向かって頷いた。

「では。……wsrye nmu wrketnm,zznud t kuyt zzeud」

 地面に奇妙な紋様が描かれ、光りだす。

「nmu sue msha,rzia. warye nmu wrketnm,zeeina kaeo ynta nmu sue msha,rzia」

 光の粒が拡散し、集まり、一部はリゼリアとムーシャの方に、そして残りは渦を巻き始めた。

 やがて、空間がねじ巻き、歪んだ。

 歪んだ空間を示し、占い師が言う。

「ここが、入口です」

 ここが入口。……出口はない。

 もう戻れない。

 しかし、二人は一晩の間に、惜別の気持ちを絞り尽くした。

「じゃ、行こっか」

 ムーシャが、わざとらしく明るい声で言った。

 二人は、異世界への一歩を踏み出す。

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