16:参戦
黒闘技場は<武国>で一番大きく主要なドームらしい。今回ユウ達が強制的に出させられたこの武闘大会は、一年に一度行われる盛大な祭りだそうだが、その本戦の会場はここになる。もちろん、この闘技場はとても広い。戦う相手が、ゴマ粒に見えるほどに。
ここまで広いと、進むのもなかなか躊躇われる。相手の陣地まで出るのは、遠いので時間がかかり、しかも自分達の旗を守ることも難しい。そして、ここまで広いと、敵が大魔法を撃ってくる。逆に、こちらが大規模な魔法を撃つこともできるが。
開始の鐘が鳴ってから、既に五分程経っただろうか。互いに動かず、様子見を続けている。
「<武国>の人って血の気多いでしょ。何で相手はあんなに我慢できてるの」
ユウは、隣にいる白いやつ――アルトに小さい声で尋ねると、
「ここまで進んでくると、騎士の中でも位が高い者が出てきます。彼らはまだ自制心が効くのでね」
アルトは皮肉気に答えた。成程、「まだ」我慢が効くのか。
そのまま、何秒が経ったろうか、遂に相手が動き出した。二人飛び出してくる。
「……行くぞ、リゼリア」
「あ、了解」
アネルがすっと長剣を脇構えにして走り出す。リゼリアは、手持無沙汰に手を開いたり閉じたりしながら、アネルの後を追った。
そのままアネルは相手と剣を交えた。相手は太刀のような物を力強く振り回している。アネルの剣は細身なので、まともに打ち合えば折られてしまう。彼女は相手の太刀を上手くいなしていく。
一方、リゼリアは、敵の剣をひょいひょいと避ける。避けきれない分は、剣を持つ相手の腕に雷を叩きつけ、剣筋を逸らす。
アネルは、リゼリアを見て思った。敵を殺す気で戦っていない。今のところ負けていないが、勝つこともできないだろう。さっさと目の前の敵を片づけ、リゼリアの方へ加勢しなければ。
アネルは、相手の太刀を突いて態勢を崩し、すかさず剣を引き戻し、もう一度突き出す。相手の腹腔へと。
「アネルはとりあえず勝ちましたね」
さらりと言ったアルトの言葉に、ユウは目を凝らした。あんな遠いところの様子は、あまり見えない。ふと思いついて、水を創りだして形を練りだした。即席の虫眼鏡ができたので、覗いてみる。
「リゼ姉、また……」
「あれでは終わりませんね。疲れてリゼが負けます」
ムーシャが非難するようにアルトを見た。
「そう言うなら、助けに行かなきゃ」
「行くなら私が行きますけど……まあ、アネルが何とかするでしょう」
アネル、アネルって。ムーシャの顔にははっきり、不満だと書いてあるのだが、アルトは気が付かないようだ。
こんな状態の二人に挟まれて、リゼリアは大変だったな。ユウは少し金髪の少女に同情した。この試合が終わったら、話し合おうか。
何度目だろうか、リゼリアが間一髪で剣を避けた時、アネルが脇からすらりとした剣を自然に突き通した。相手は悲鳴を上げて剣を取り落とす。
「……そんな温い考えでは、死ぬぞ」
「だってこれ、試合じゃあ……」
リゼリアの言葉を遮り、アネルはやれやれと首を呆れたように振った。
「よくそれで、今まで生きてこられたな。助ける気も失せる」
「何さ! 殺し合いのつもりで行けってこと!?」
「そうだ」
アネルの返答に、リゼリアはぐっと詰まった。この世界が、ひどく歪んだところだとは分かっているつもりだった。しかし、人を「殺す」と簡単に言えてしまうのだろうか。そればかりは、納得できない。
「私は、私のやり方でやる。アネルは放っておいて」
「……死んでいいんだな。この馬鹿が」
アネルは小さく吐き捨てた。
と、視界に赤い何かが映った。
「あれ、何……!?」




