4:占い師
放課後は、部活動で賑わう時間帯だ。リゼリアは部活ができないし、ムーシャは時々家庭部に顔を出すくらいで暇だった。今は二人で街を散策している。
リゼリアが、一緒に居ない方がいい、と再び言ったのだが、ムーシャは頑として聞かなかった。
「いじめられるからって友達辞める気はないからね! 一緒にいるんだから」
ムーシャの言葉を聞いて、またリゼリアの涙腺が緩んだのは余談だ。
二人が奇妙な出店を見つけたのは、散策もそろそろ止めようか、という頃だった。全体的に黒っぽい雰囲気の店だ。「黒」という色を、この街の住民は本能的に避ける。今も店を避けるようにして人が歩いている。
「なんだろうね、あれ」
リゼリアは黙って店を見つめていた。
「…行く?」
そうムーシャが尋ねると、目を瞬かせた。ムーシャがそう提案するとは思わなかったらしい。
そこは占い師の店だった。体格から女だとは思えるが、フードを深く被っていて、顔は窺えない。
リゼリアとムーシャには知る由もないが、かつて街をさまよっていた、あの女である。
女は顔を上げるような仕草をすると、ムーシャを見て驚いたようだった。そしてリゼリアを見ると、これまた驚いた。
「…いらっしゃいませ」
低く、聞いていて落ち着く声だ。ムーシャは女の声をそう評価した。
「リゼリアさん…ですね」
尋ねる口調ではなく、断定した言い方だった。それを聞いて、リゼリアは多少戸惑った。
「そうですが…なぜ知っているのですか?」
「…2週間前に見たからです」
思わず二人は声を上げた。2週間前に起きたことと言えば、あの大ダコの事件しかない。この女性は、それを見ていたというのか。
「…あんなことにならないよう、リゼリアさんの周りで護符を貼っておいたのですが…。成程、ムーシャさんはアレを見る力をお持ちのようだ。…それを化け物達が警戒したのでしょう」
「アレが、見えるんですか!?」
「…なんでムーシャの名前も知ってるのですか?」
女は、周りの目を気にするように視線を彷徨わせた。
「私は占い師ですから。…すみません、人気の無いところに行ってもいいですか。そこでお話します」
私は、占い師です。名前? 確か、アウナと付けてくれた人がいました。…私は人ではないですから。
まず一つ。「世界」はたくさんあります。まずこの世界…第二位世界と呼ばれています。そして私がもともといた世界は第一位世界。他に第三位世界がありますが、これら3つの世界は、数ある世界の中で一番力が強く、権限を持つ世界達です。
しかし、これら3つの世界は長い年月をかけて少しずつ歪んできました。今や第一位世界は「歪んだ世界」、第二位世界は「差別の世界」と呼ばれ、他の世界から蔑まれています。
…蔑まれるだけなら、それで済むなら、良かった。しかし、第一位世界の神――世界神は暴挙に出始めました。数千年前から、他の力の弱い世界を、自分の世界に取り込み始めたのです。そして遂に、この第二位世界に目を向けました。
化け物達を送り込み、少しずつ第一位世界に馴染ませていきました。もう、この世界は、元からあった「差別」という歪みと、第一位世界から与えられる大きすぎる歪みで、崩壊寸前です。そして、第一位世界神は知りませんが、第二位世界を取り込めば、第一位世界も歪んで破裂します。2つの世界の崩壊で発生するエネルギーによって、他の世界も無事には済みません。
なんとかして世界神の暴挙を阻止しなければならない。けれど、今、どの世界にも阻止できるような人はいません。数百年後にしか誕生しない、と言われました。
そこで私達は、――「神」は、阻止できなくとも、この計画を鈍らせることができると思いつきました。
…思いついたことで、世界神に消されそうになり、命からがら逃げ出した「神」が二人いました。…この世界に逃げてきました。そしてそのうち一人は、ここにいる。リゼリアさんの中です。大ダコを殺したのは、リゼリアさんに憑依している「雷神」です。髪が金色になったのも、雷神の影響のためです。
ここからが大事なのですが。リゼリアさんに雷神が憑依したために、リゼリアさんが第一位世界に向かう必要があります。憑依すると、リゼリアさんが死ぬまで離れられないし、…もう動ける「神」がいないんです。世界神が、私と、雷神と、闘神以外の、世界崩壊阻止のため動ける「神」を消してしまったのです。
勝手ですがお願いします。リゼリアさん、第一位世界に行って、手を貸してくれませんか。