13:談話…科学都市来訪第三日目?
※9月3日、一部修正
「……ああー、暇だー」
親友が、そうぼやいて、木の床をごろごろと転げまわる。
「暇だけど、その年になって床を転がらないでよ」
青い髪の男の子は、呆れた目でダンゴムシの様な彼女を見ていた。
「うるさいぞリュウ」
「いつもうるさいのはリゼ姉でしょ」
視線で火花を散らし始めた二人を、ムーシャは何とか宥める。
「まあまあ、二人とも。……何か作ろうか」
「おっ! ムーシャの手作り料理ですか」
ムーシャの言葉を聞いて、ダンゴムシ――もとい、リゼリアはぴたりと動きを止めた。
「ムーシャの料理はおいしいよね~」
「ムー姉は料理上手なんだ。……どこぞの金髪さんは得意なことあるのかねえ」
「むかっ。私だって取り柄あるし! 剣道上手なんだからね」
「へーそうなんだすごいね」
「全く凄いと思ってねーな!」
よく口喧嘩をするリゼリアとリュウだが、それはそれで仲がいいのかもしれない。
言ったら、二人ともに全否定されそうだが。
「剣道か……最近竹刀振ってないな」
リゼリアは、少し懐かしげな表情をした。
「というか、そのケンドーって何なの」
「第一位世界にはないかあ。剣持って戦う」
「説明がアバウトだね」
「どうせ説明しても聞かないんでしょ」
リュウが目を最大限に開く。
「……なんと。よく分かったね」
「本当に聞かねーのかよ」
また、ばちばちと弾け出す火花を、ムーシャは消火しようとする。
「そ、それはそうとさ、アル君はどうしているかな」
「……あいつなんてどうでもいい」
……しようとしたが失敗した。リゼリアにこの話題は禁句だったようだ。彼女は、どうでもいいと言いつつ、寂しげな表情だ。
「『アル』って誰」
事情が分からないリュウが尋ねる。何故か、少し顔を顰めている。
「ヘタレ。とだけ覚えておけばいいよ」
「ふむ。リゼ姉はバカ、ムー姉は料理上手、二人の知り合いのアルって人はヘタレ、と……」
「バカ!? バカっつったかリュウ!」
「合ってるでしょ」
「覚え方が酷い! 私そんなバカじゃないし。せめて……えっと……何か他のにしてよ」
「自分のいいとこが分からないバカ」
「それ、バカなのは変わってないし」
「いい所はあるんじゃない? 正義感強いとか? 人に甘いとか?」
「二つ目は微妙……」
リュウが「いい所がある」と言うことは稀だ。そう言われたリゼリアが、リュウの中でどんなに大きな存在なのかは、ムーシャも言われたリゼリアも、リュウ自身も分かっていなかった。
「アリさん……まだかー」
リゼリアはドアを見つめて貧乏揺すりをしている。
「そんなに見ていても変わらないけど。やっぱバカ?」
「いちいちバカとつけるな」
二人の言葉の応酬を聞きながら、ムーシャは昨日の事を思い出していた。
アリは、ムーシャ達三人を、すぐに国から脱出させた。このままだと壁の警備が強まるという理由で。
ムーシャは、国に残っている院長、他の子供たちの様子が不安だったが、アリが説得した。
「君たちが出国したと分かれば、その人たちの命も危ないだろうね。大丈夫、僕が全員探しだして、<科学都市>から出してあげるから」
そうして、ムーシャ達三人と、ミドリ、レンジの二人は、孤児院に帰ったのだった。
因みに、ミドリとレンジは別の部屋で寝ている。二日間、寝ずに動きっぱなしだったのだから、疲れ切って眠ってしまうのも仕方が無い。
リュウは何故だか起きていられるのだが、カミだから睡眠は少なくてもいいのかもしれない。院長が「リュウ君は朝早くて夜遅いから不安」と言っていたが、心配はないようだ。
「<科学都市>ではゆっくり寝られないでしょう? 子供たちは疲れているし、孤児院までの道のりも長いし、着くのは遅いんじゃない?」
そうムーシャが考え考え言うと、
「分かってはいるけどさ……。もし何かあったらと思うと」
そのままリゼリアは黙りこんでしまった。ムーシャの心がざわめく。
何かあったら。アリが間に合わなくて、誰かが捕まっていたら……。
つかの間の沈黙の後、リュウが言う。
「……そうだ。ムー姉、何かお菓子作ろう」
「お菓子?」
「そう。皆が帰って来た時、お菓子があると喜ぶよ」
リュウは相変わらずの無表情だ。リゼリアには感情を見せることがあるのだろうか、などと考えつつ、ムーシャは自然と笑顔になっていた。
―――帰ってくると思っていた方が、いいじゃない。
またアリには楽観的だと諭されそうだが、それはムーシャの欠点で美点だ。
腕を捲りつつ、ムーシャは台所へと向かった。
次回更新、9月7日




