8:科学長…科学都市来訪第二日目
「彼」が研究室から出ると、遠くから走って来る人影が二つ。それを追う円盤たちが、たくさん。
「彼」は目を瞠った。人影の髪は、金と蒼。閉じ込められていたという「龍」だろうか。
垂れてきた前髪が鬱陶しく、「彼」は自分の灰色の髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「……さて」
「彼」の姿を認めた蒼髪の男の子が、焦ったように走る速さを上げる。隣の金髪の少女が、そんな男の子の様子で気付いたのだろう、男の子を抱えて跳んだ。
しかし「彼」はそんな二人を捕まえる。
「にゃっ!?」
「ぅあ」
二人は間抜けな声を上げて、研究室に転がりこむ。
「あー、駄目だよ暴れちゃ。そこらじゅうに危ない物があるからね」
彼が言ったと同時、リゼリアが立ちあがるときにフラスコ瓶を踏み抜き、それは爆発した。
煙がもうもうと揚がる。煙は廊下にも広がった。
防衛隊員の悲鳴が聞こえる。
「してやったり」
「彼」はそう呟くと、部屋の隅にあるボタンを押した。
リゼリアとリュウは、知らぬ間に、灰色髪の男に捕まり、煙が揚がり、男がボタンを押したと思えば壁から取っ手が飛び出て……隠し部屋の様な所に連れてこられた。
「なんなんですか! 何ですかあんたはあ!」
リゼリアは足をばたつかせて叫ぶ。
「……科学長が何の用ですか」
リュウは体を強張らせ、警戒を解かない。
当の「科学長」は、にこにこと笑うばかり。
「まあまあ、落ち着いてよリュウ君、リゼリア君」
リゼリアが、足をぴたっと止めて、じっと科学長を見つめた。
「……なんで私達の名前知ってるんですか」
リゼリアが問うと、科学長は一瞬ギクッとした。
「……いやあ、ほら、『魔族』は名前決まってるから」
「リュウはそうでしょうけどね? 『リゼリア』っていないですよ。私は『キキ』か『リュウ』なのでは?」
更にギクッとなる科学長。
「どうせ、国が知ってるんでしょ。この国は監視カメラがそこらじゅうについているから。音も録音しているから、リゼ姉の名前も録ってるんでしょ」
「……あ、そうそう。そんな感じ。
僕はアリ。科学都市科学長、アリだよ」
科学長はリュウの言葉を聞いてほっとしたようだ。リゼリアの疑問は消えたわけでは無かったが、ひとまず置いておくことにした。
「でも、何で私達を捕まえたくせに、防衛隊に突き出さないんですか」
アリはにこりと笑って言った。彼の笑顔は作りものに見えた。目が笑っていない。
「僕、防衛隊嫌いなんだ。 それに君らを捕まえたんじゃないの、助けたんだよ」
リュウが、アリを睨みながら尋ねる。
「嘘だ。 科学都市の重役を信じられるか」
リュウの声は、今まで聞いた中で一番冷え冷えとしていた。
「信じなくてもいいよ。リュウ君、君が死ぬだけだ」
アリの答えは、淡々としていて恐ろしかった。
「リゼリア君は助けるよ。……リュウ君が死んでも困るけど、リゼリア君は個人的に助けたいんだよね」
リゼリアは内心首を傾げた。何を言っているんだこいつは? 初対面の自分を助けたいなどと言う。
「……へえ」
リュウとアリの冷気で、部屋の温度が一気に下がった気がした。リゼリアは慌てて口を挟む。
「助けてくれるんならありがたいです。けど、途中で引き渡したら……」
リゼリアは威嚇の意で雷を放った。
「おお怖い。引き渡したりしないよ。じゃあ始めようか」
脱出作戦二度目は、内部を熟知した科学長を加えて行われた。




