7:逃走中…科学都市来訪第二日目
二匹の『龍』が破壊したと思われる、ドアの周りに集まった防衛隊員達。彼らは部屋の様子を窺おうとして、たちまち意識を失った。
意識を失う前に、最後に見たものは、眩く白い光。そして金と蒼の髪の毛だった。
「へへー、やったぜ」
悪戯が成功した子供の笑み。にやにやと笑うのはリゼリア。
「……雷って人を傷付けられるものなの?」
前髪の先が焦げているのはリュウ。焦がしたのはリゼリアである。
彼は、自分の知る雷と違う、リゼリアの扱うモノを、首を捻って眺めていた。
リュウが知る雷は、触ると消えてしまうような、淡い光。雷魔法とは、人を癒すものなのだ。
リゼリアのそれは、真逆。とても有害なものだった。目潰しはできるし、ものを焦がすし、防衛隊員は痙攣して失神。
リゼリアは「雷神」が身に宿っていると言っていたが、本当は違うのではないか。「光神」とか「破壊神」とかじゃないのか。リュウは本気で考えている。
……そう、リゼリアは「雷神」を宿らせている。一方、リュウは「水神」そのもの。
同じようで、全く違う。自分と全く同じ者はいないのだろう。と、リュウは思った。
「……どうしたー、リュウ?」
リゼリアが、リュウの顔の前で、手をひらひらさせる。考え事をしていて、気付かなかった。
「顔が暗いぞう。 ……あ、もともとか! 目が死んでるもんな!」
「言ってくれるね。 いつでも明るいリゼリアさんとは違うんだよ、悩みもあるのさ」
ちゃかしてきたので返してやると、リゼリアは一瞬表情を止めた。すぐに笑顔になったが。
「へいへい、悩み多き10歳児君。 さっさと進むぞー」
そう言って、あの殺人(は、しないか)レーザーを手から発射させながら、ずんずん歩き始めた。ちょっと怒っているような気がする。
―――リゼ姉と自分は違う。けど、彼女は、他の人と接するときと変わらない様子で話してくれるから。
だから、大丈夫だ。リュウは、悩みを一つ消した。
科学都市の街中は、歩いている者などいなかった。皆円盤を使うからだ。
しかし、流石に家の中では、普通に足で移動するらしい。家の中は狭いので、使う必要が無いという理由だ。
「……だからって、建物の中が広いから円盤を使うのは反則だってば~!」
「走りながら叫ぶと、疲れるよ」
リゼリアとリュウは、現在遁走中。
防衛隊員は、部屋の前で倒した者以外に、更にたくさんいたらしい。円盤で飛んで追いかけて来て、厄介だ。
リゼリアは雷で撃ち落とそうとしたが、止めた。止まっている的ならともかく、高速で移動する円盤相手に放てば、殺してしまうかもしれない。
ひたすら、曲がりくねった道を選んで、逃げるしかなかった。円盤は曲がるのが苦手なので、追うのに苦労している。直線の道だったら、車の速度で飛ぶのだ、簡単に追いつかれてしまう。
リゼリアは並走するリュウに囁く。
「水! ありったけ!」
リュウは黙ったまま頷くと、次の角をまがった瞬間、大量の水を後方に向けて放出した。
後ろでがぼがぼ言っているが、気にしない。
曲がりくねった道を選んで走っても、円盤には追いつかれそうになる。そこで、ぎりぎりのところで防衛隊員には溺れてもらうことにした。
リュウが水を出した一瞬だけ、水は通路を塞ぐように現れる。そこに隊員がプールの中に突っ込んでいく。科学都市は海に面しておらず、泳げる人がいない。皆そこで止まる。
その上、円盤は精密機械なので、水に完全に浸かって故障する。どんどんリタイアしていくのだ。
しかし。これも限界が近づいてきている。隊員は、止めても止めても一向に減らない。カミでも、無からモノを作り出すのは体力が必要だ。魔法は使い続けると眠くなる。カミは力を使い続けると体がだるくなるらしい。その証拠に、リュウの走る速さはどんどん遅くなっていっている。
リュウの放つ水が切れたら終わり。リゼリアが雷で撃ち落とすしかなくなる。
リゼリアは、そうしたくはなかった。




