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change  作者: 虚虎 冬
科学都市編
31/98

7:逃走中…科学都市来訪第二日目

 二匹の『龍』が破壊したと思われる、ドアの周りに集まった防衛隊員達。彼らは部屋の様子を窺おうとして、たちまち意識を失った。

 意識を失う前に、最後に見たものは、まばゆく白い光。そして金と蒼の髪の毛だった。


「へへー、やったぜ」

 悪戯が成功した子供の笑み。にやにやと笑うのはリゼリア。

「……雷って人を傷付けられるものなの?」

 前髪の先が焦げているのはリュウ。焦がしたのはリゼリアである。

 彼は、自分の知る雷と違う、リゼリアの扱うモノを、首を捻って眺めていた。

 リュウが知る雷は、触ると消えてしまうような、淡い光。雷魔法とは、人を癒すものなのだ。

 リゼリアのそれは、真逆。とても有害なものだった。目潰しはできるし、ものを焦がすし、防衛隊員は痙攣して失神。

 リゼリアは「雷神」が身に宿っていると言っていたが、本当は違うのではないか。「光神」とか「破壊神」とかじゃないのか。リュウは本気で考えている。


 ……そう、リゼリアは「雷神(トーラ)」を宿らせて(・・・・)いる。一方、リュウは「水神(ポセイダス)」そのもの。

 同じようで、全く違う。自分と全く同じ者はいないのだろう。と、リュウは思った。

「……どうしたー、リュウ?」

 リゼリアが、リュウの顔の前で、手をひらひらさせる。考え事をしていて、気付かなかった。

「顔が暗いぞう。 ……あ、もともとか! 目が死んでるもんな!」

「言ってくれるね。 いつでも明るいリゼリアさんとは違うんだよ、悩みもあるのさ」

 ちゃかしてきたので返してやると、リゼリアは一瞬表情を止めた。すぐに笑顔になったが。

「へいへい、悩み多き10歳児君。 さっさと進むぞー」

 そう言って、あの殺人(は、しないか)レーザーを手から発射させながら、ずんずん歩き始めた。ちょっと怒っているような気がする。

―――リゼ姉と自分は違う。けど、彼女は、他の人と接するときと変わらない様子で話してくれるから。

 だから、大丈夫だ。リュウは、悩みを一つ消した。



 科学都市の街中は、歩いている者などいなかった。皆円盤を使うからだ。

 しかし、流石に家の中では、普通に足で移動するらしい。家の中は狭いので、使う必要が無いという理由だ。

「……だからって、建物の中が広いから円盤を使うのは反則だってば~!」

「走りながら叫ぶと、疲れるよ」

 リゼリアとリュウは、現在遁走中。

 防衛隊員は、部屋の前で倒した者以外に、更にたくさんいたらしい。円盤で飛んで追いかけて来て、厄介だ。

 リゼリアは雷で撃ち落とそうとしたが、止めた。止まっているてきならともかく、高速で移動する円盤相手に放てば、殺してしまうかもしれない。

 ひたすら、曲がりくねった道を選んで、逃げるしかなかった。円盤は曲がるのが苦手なので、追うのに苦労している。直線の道だったら、車の速度で飛ぶのだ、簡単に追いつかれてしまう。

 リゼリアは並走するリュウに囁く。

「水! ありったけ!」

 リュウは黙ったまま頷くと、次の角をまがった瞬間、大量の水を後方に向けて放出した。

 後ろでがぼがぼ言っているが、気にしない。


 曲がりくねった道を選んで走っても、円盤には追いつかれそうになる。そこで、ぎりぎりのところで防衛隊員には溺れてもらうことにした。

 リュウが水を出した一瞬だけ、水は通路を塞ぐように現れる。そこに隊員がプールの中に突っ込んでいく。科学都市は海に面しておらず、泳げる人がいない。皆そこで止まる。

 その上、円盤は精密機械なので、水に完全に浸かって故障する。どんどんリタイアしていくのだ。

 しかし。これも限界が近づいてきている。隊員は、止めても止めても一向に減らない。カミでも、無からモノを作り出すのは体力が必要だ。魔法は使い続けると眠くなる。カミは力を使い続けると体がだるくなるらしい。その証拠に、リュウの走る速さはどんどん遅くなっていっている。

 リュウの放つ水が切れたら終わり。リゼリアが雷で撃ち落とすしかなくなる。

 リゼリアは、そうしたくはなかった。

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