2:事件
リゼリアの耳に悲鳴が届いた。それが親友のものだとすぐに分かり、悲鳴の元へと急ぐ。
それがいたのは広場だった。それはムーシャを締め付け、明らかな殺意を向けている。
それが、リゼリアにも見えた。ムーシャにしか見えなかった、怪物の内の一匹、大ダコが。
リゼリアは、すぐに市内袋を掲げ持つと、大ダコの触手を叩いた。何度も叩いた。
「この、バケモノッ…。ムーシャを、放、せ!」
言い終わると同時に、今までより強い力で、打った。流石にこの一撃は効いたのか。タコの触手が緩み、ムーシャが解放された。ほっとするのもつかの間、今度はリゼリアが捕まってしまう。
暫くして、ムーシャが意識を取り戻した。目の前の惨状を見て、目を見開く。
ギリギリと、リゼリアを締め付けるタコの力は強く、少しずつリゼリアの抵抗が弱まっていく。このままでは、リゼリアは死んでしまうだろう。ムーシャは転がっている竹刀袋を拾い、懸命にタコを叩くが、腕力が足りなくて全くタコにダメージを与えていない。泣きながらムーシャは願った。
---誰か!誰かリゼを助けて! 助けてくださいリゼが死んじゃう…!
その時、ちかり、と空で何かが瞬いた。分かった、とでも言うように…
そして次の瞬間、深い霧を一筋の光が切り裂いた。リゼリアの攻撃にも多少驚いた程度だったタコが、初めて悲鳴を上げる。
広場に光が充満する。あまりの眩しさにムーシャは目を瞑った。
ムーシャが恐る恐る瞼を開けると、そこに怪物などいなかったかのような、元の広場の光景があった。元と違うのは、蛇のようにうねる光があることだけ。その光は、一度とぐろを巻くと、リゼリアへと収束し、ふっと消えた。