1:日常
白霧学園高等部、1-Aクラス。
Aクラスは各学年の成績トップクラスが集まり、もともと優れた者が多い中、特に秀でた者がいるところだ。滅多に授業中に居眠りをする者はいないのだが。
生徒から恐れられる女教師。いつもなら教科書とチョークを持つ手に、鞭とハリセンを握りしめている。これらの凶器は一人の女生徒のために使われた。
「…ぅあいたぁっ!?」
はたかれた生徒は何が起きたのか分からず、きょろきょろとあたりを見回していたが、女教師の恐ろしい顔を見て状況が理解できたらしい。すうっと顔を青ざめさせた。
女教師の雷が落ちる。
「リゼリア!午後の授業で寝るのは何度目ですかっ!?」
「す、すみません!」
「放課後に職員室に来なさい」
ああ、やってしまった---そう、女生徒--リゼリアが嘆くと、クラスがどっと沸いた。
「おいおい、またかよ~」
「ドンマイ、リゼリア!」
運動神経も良く、成績もよく。しかしどこか抜けている。そんなリゼリアはクラスの皆から好かれている。
好かれて、いた。
放課後。リゼリアは女教師に呼び出され---校内放送の名指しで!---、こってり絞られた。
全力で土下座し、やっと解放されたので、急いで剣道場へ向かう。部活はもう始まっている。
近道と、路地裏の複雑な道を走る。そういえば、昼に試合をした広場も通るな、と思った。
白霧学園1-Cの生徒、ムーシャも、丁度その広場を通りかかるところだった。彼女は腕に籠を抱え、籠の中からは香ばしい香りが漂ってくる。
「また、リゼは昼寝しちゃっただろうなあ。昼にここで試合してたし」
昼中竹刀を振り回していたら、昼食も食べていないだろう。ムーシャはそう考えて、親友の為にパンを焼いたのだ。
ふいに彼女は、びくっと体を震わせた。人目には、何も無いように見える。しかし、ムーシャの目には、学園中を化け物が闊歩しているように見えるのだ。猫又、化け狸、大きいものではケルベロス。学園に来たばかりの時は、怖くて仕方がなかったが、今ではのんびり観察するくらいだ。お互いに干渉することができないと分かったからできることで、ケルベロスなどの大きなものは今でも怖いのだが。
今日も大きな化け物--大ダコをぼんやりと見た。あのタコ、大きいな。3メートル、いや5メートル?もっとかな…。
そのとき。急にタコがムーシャの方を見た。いや、「見た」という表現では生ぬるい。殺意を込めて睨んできたのだ。
広場に女生徒の悲鳴が響く。