04・怒声に暴走
高校時代。人見知りでも愛想があり美人だから、それなりに人が集まり知り合いは多くいた。
占いという特技も披露していたので学校の有名人だったが、占いより私が有名だったわけは他にもある。
私の二つ名は"眠れる学校の美少女"。通常"眠り姫"。
私は怒声や口論が苦手。学校は騒がしい場所で時折、喧嘩が起きたり教師の怒鳴り声が響いたりしていた。
普通の人間生活をしなくちゃいけない私にとって、その苦手は致命的だったので自分に魔術をかけたのだ。怒声を聞いて感情が高ぶったら眠くなる魔術。だから私はしょっちゅう眠くなり、ところ構わず眠っていた。
だから変わり者のレッテルを当然貼られた。
その高校は制服だったので廊下で丸くなって寝てしまった時、多くの生徒にスカートの中身を見られてしまって恥をかいたのは軽いトラウマ。
だけどもっと凄いトラウマがあったから、自分に眠りの魔術をかけたまま高校生生活を送った。
おかげで、無事卒業できた。
「お嬢さん、お嬢さん」
沢山の魔術書に囲まれたベッドの上で、小鳥が歌うような声に私は起こされる。
閉め忘れたカーテンから射す白い朝陽が眩しい。寝足りないが部屋の外からデヴィットが呼び掛けているならきっと起こしに来てくれたのだろう。
「なんでしょう?」と返事をしたけれど、音が外に漏れない結界を張ったからいくら聴覚がとんでもなく優れる吸血鬼でも聴こえない。
私は起き上がって、ドアを開けた。目が覚めるような美形で助かる。
「寝不足かい? なにか成果があったのか?」
純金のキャットアイを細めて微笑む吸血鬼。眠気が吹き飛んだ。
「いいえ、あまりないです」
「……ごめん。君の可愛らしい声が聴こえないのだけど」
私はまだ部屋の中にいたから外にいるデヴィットには、私の声が届かず困ったように笑う。
吸血鬼の聴覚でも聴こえないから。
「今なら悪口言い放題ね……」
「なに?」
「貴方の笑顔って嘘っぱちよね。褒め言葉もうわべだけ」
「オレの声は聞こえてるんだよね?」
「貴方のことって世間では腹黒いって言うのよ」
「悪口言ってるだろ?」
「……いいえ」
聴こえないことをいいことに目の前で言ってやったら、当然悪口を言われていると気付かれて私は首を横に振る。
結界から顔を出して「本を運んでもらいたいのですが、手伝っていただけますか?」と頼む。
通じて「全て持って差し上げますよ、お嬢さん」と演技かかった返事をデヴィットはする。
お言葉に甘えてベッドにあった魔術書全部を三回往復してデヴィットに持たせたが、彼は涼しい顔で悠然と運び去った。怪力には鳥の羽根同然のようだ。悔しい。
「あぁ、言い忘れていた。寝起きの顔も美しいよ」
からかう台詞を残して、階段を下りる前に消えていった。
本当に悔しい。ただの人間に戻ったら仕返ししてやるんだから。
私はクローゼットから昨日とは違うピンクパール色のドレスを選び、顔を洗い歯を磨いて着替えた。
寝不足です、と書かれた自分の顔を鏡で宥めながら髪をブラシでとかす。接客しているのだから身嗜みは必要だ。
生憎スティックを振るだけでメイクアップする魔術はない。……作ろうかな?
あまり生活を楽にする魔術は使うなと母に言われて育った。動かなくなったら太って、美しいロアン一族の家系が悲惨になるからと。
母は美しい自分と魔術と私を誇っていた。かなりの自己愛主義者。
溜め息をついてから一階に降りてリビングに入るともう朝食が用意されていた。美味しい香りを放つフレンチトーストと卵焼きとウィンナーにサラダ。またテオが作ってくれた。コーヒーまでついている。
「それで成果の方は? お嬢さん」とデヴィットが読めない魔術書を眺めながらまた問う。
「成果はありません」
「殺す作戦でも立ててたんじゃねーのか」
もう一度答えたら、突き刺すような低い声を放たれて私は震え上がる。ルーカスだ。
デヴィットは呆れ顔を向ける。
私は昨日と同じく、胸に手を当てて乱れた心臓を落ち着かせた。
「ルーカスが怖い?」
テオが私の様子をにやにやしながら見て訊く。
今にも怒声を張り上げそうなルーカスが怖い。
「お嬢さんはこれでも睡眠時間を割いて調べてくれたんだぞ」
「呪いか? それともおれらを殺す魔術か?」
「あっ、あの……失礼します」
口論が激しくなる前に私はリビングから飛び出して一階のお手洗いに囲んだ。
落ち着け落ち着け。
私は自分に言い聞かせた。
ドクドクと恐怖に怯えた時に似た脈の速さが通常に戻るように努力する。
問題を掃除機で埃を吸い込むようにきれいさっぱり片付けたいが、生憎魔女は平和主義がモットーだ。
だから魔女同士の戦争はこれまでなかったし、魔女が世界征服することもなかった。
だから彼らを一掃できる魔術があっても私は使う気にはなれずにいる。
脅迫でも引き受けたら脅してこなくなったし、仕事の邪魔をしないし、食事も作ってくれた。彼らは人間に戻りたくて私を頼っているのだがら、呪いを解いてあげなくちゃ。
そう思う気持ちを優先して昨夜は魔術書を読み漁ったが、いくつか関連する魔術を見付けただけで状況は好転していない。
聴覚や視覚それと嗅覚が優れている点から、能力を上げる魔術を見付け出した。これは呪文ではなく魔法陣を使用して発動させる。
私は指先で自分の耳に魔法陣を描く。頭の中で完成された魔法陣を思い浮かべた。
リビングの彼らの様子に聞き耳を立てる。口論が止んでいたら戻ろうと思ったが、まだデヴィットとルーカスは言い合っていた。
聞きたくないので見えない魔法陣を拭おうとしたら。
「初めから噛み付いてれば、くだらねぇことやってないで寝ずに呪いを解いてただろ! 今すぐあの女を吸血鬼にしてやる!」
「そんなのいやっ!」
ルーカスが怖いことを言ったので私は震え上がり思わず口に出してしまった。
リビングの方の会話はぱったり止んでしまう。まるで消えてしまったかのよう。
まずい。
私の声が彼らに聴こえてしまい、盗み聞きしたことがバレた。
逃げなきゃ。そう思った次の瞬間、私は廊下の床に放り投げられていた。
「貴様盗み聞きしたな」
「やめないか、ルーカス」
倒れた私を囲うように吸血鬼三人が立つ。
私をお手洗いから引っ張り出したのはルーカスだった。彼は歯を剥き出しに私を睨みつけている。
這うように私は階段下の壁に逃げ込んだ。
「吸血鬼になれば躍起になって呪いを解くだろうよ。この女にとって所詮おれらは他人で他人事なのさ、だからこっちが殺される前に噛みつけばいい」
今にも飛びかかりそうなルーカスがデヴィットに向かって吐き捨てる。
「ちんたらくだらねぇ占いごっこをやめて一心不乱に呪いを解かせる、手っ取り早だろ」
デヴィットは三人の中で一番歳上。歳が上の方が力が強く、偉い。だからデヴィットがリーダー。
ルーカスはデヴィットの許可を待っている。
デヴィットの答え次第で私の運命が決まるのだ。私は壁にぴったり貼り付いて強張る。
デヴィットは少しだけ渋った顔をしたが、肩を竦めて「好きにしろ」と答えた。
愕然とする。死刑宣告をされた。
さっき悪口を叩いた仕返しなのか。デヴィットとテオは傍観を決めてただこちらを見る。
「眠らず呪いを解いてもらうぞ」
瞬時にルーカスが距離を詰めて私に鋭く吐く。純金の瞳は凍てつくくらい私を睨んで、剥き出しにされた牙が私の肌を噛む準備をした。
──吸血鬼にされる。
私は咄嗟に自己防衛を働かせて、掌に書いた魔法陣をルーカスに翳した。
風を操る魔術。
ルーカスは吹き飛び私と逆の壁にぶつかる。それを見てデヴィットとテオが身構える。
「貴様! やはりおれらを殺すことを目論んだな!! 殺してやる!!」
「殺すな! ルーカス!」
大したダメージがなかったルーカスが体勢を整えて、私にまた飛び掛かろうと怒声を轟かせた。
デヴィットが殺すなと声を張り上げる。
私は限界だった。
もう堪えきれない。ドクドクと心臓が暴れだし、視界を歪ませる涙が溢れ出た。
デヴィットの声を無視してルーカスが飛び掛かると同時に私は。
「うぁああんっ!!!」
感情に押し出されるように大きな声を出して、私は泣き喚いた。
耳を塞いでその場に崩れ落ちるが、ピンクパール色のスカートと髪がふわりと舞い上がる。
溢れて落ちていく涙が、床に落ちる前に空気周辺の水分をかき集めて凍り付き剣のような氷柱に変わりルーカスの腹を貫く。
「ルーカス!!」
「うあああんっ!」
次から次へと落ちていく涙が氷柱に変化して、吸血鬼達に鋭く突き刺さる。
ルーカスが氷柱をへし折って再び私に向かうが、それより先にどこらともなく現れた太く強靭な蔓が絡み付いて動きを封じた。
「ふえっ、うあああんっ!」
涙は一つ足りとも床に落ちずに宙を漂うか、氷柱に変わるか。
私は暫く泣き喚いた。
耳を塞いで壁にすがり付き自分が泣き止むまで待つ。今は精一杯制御することしか出来なかった。
震える身体を抱き締める。喉をひくつかせる嗚咽を飲み込んで鼻を啜った。宙を漂った涙は漸く重力に逆らわず床に落ちる。
顔を上げて見れば、周りには突き刺さった無数の氷柱と極太の蔓が廊下を飾っていた。
泣いている間待ち切れなかったらしく、大きな赤い花まで咲き誇っている。
美しい容姿の吸血鬼達は数本の氷柱に身体を貫かれその上蔓に絡みつかれて、身動き出来ずにじっとしていた。
動けば氷柱に貫かれて蔓が締め付けると理解したからだ。
ルーカスだけは唸る。
「……ごめんなさい……」
弱々しく謝ると声が震えた。
「……ごめんなさい、私……怒鳴られるのが……苦手で……」
鼻を啜りながら説明する。
「魔女の中には動揺すると、魔力が暴走する人がいるんです……私もそれで……。怒鳴り声や喧嘩の声を聞くと……暴走してしまって」
ドレスの裾で滲み出た涙を拭って私は涙ながらに弁解した。
自己防衛とはいえ攻撃して、身体に風穴をあけたのだから解放したら殺されそう。
「……痛いですか?」
「いや、大丈夫だ」
「本当にすみません……傷付けるつもりはなかったんです、殺すつもりも……」
「わかってるよ。じゃなきゃとっくに心臓を貫かれている」
「……本当にごめんなさい……」
デヴィットは困惑しつつも笑って答えた。身体は大丈夫そうだが、高級そうな服は穴だらけ。
「これすごいな」とテオは状況を楽しんでいる。
吸血鬼には大したことではないみたい。
「泣き喚くと母じゃなきゃ手に終えないんです……。見ての通り。魔力は高ぶる感情に反応してしまうんです……今のは魔力で涙を糧に空中の水分を凍らせて、恐怖を抱かせた相手を攻撃したんです……その緑は飾ってた花だと思います」
「魔女は皆喚くとこうなのかい? それとも君が優れているからこうなのかい?」
「……後者です。私は魔力が多いので……普通の魔女なら風を起こすくらい」
「じゃあ君は正真正銘最も優れている魔女だ」
微笑むデヴィットは氷柱や蔓を退けるよう急かさない。私が説明しながら自分を落ち着かせていたからだ。
胸を押さえて深呼吸。まだ余韻があるから、下手を踏んだらまた涙が溢れてしまう。
だからルーカスも何も言わないが、本音は早く拘束を解いてほしいだろう。一応待ってくださいと声をかけた。ルーカスは沈黙を返す。
「それ、母が言い触らしたんです。魔女仲間に今世紀最も優れてる魔女と大袈裟に言ったんですよ。娘の魔力の大暴走を自分は止められると自慢したいついでに……」
私の暴走の凄さとその暴走を抑え込むことができると自慢したのだ。
「母は自己愛の強い人で、自分の一族と自分の娘を誇っているんです。自分自身だから。……彼女からこの顔と才能はもらいましたが、愛はもらいませんでした。他人との共同生活でしたので、高校を卒業してすぐにこの広い家に引っ越したんです」
「……父親は?」
「母は未婚なんです。恋人との間に私が出来たんですが、魔女だと明かすと怖がられてフラれてしまったんです。だから未婚で産んで私を育てましたが……それは別れた恋人とより戻すための道具だった」
デヴィットから父親のことについて訊かれた。話すつもりだったのでそのまま私は続ける。
少し重い静寂になった。
「私が物心がついた頃に、母は父親と会わせました。母はプライドが高いので彼からよりを戻したいと言わせるために私をダシにしたんです。一時の間だけ父親と家族らしい時間を過ごせました。公園で遊んだりパンケーキ作ったり……母には魔術しか教わりませんでしたので」
家族愛をくれたのは父親だ。
彼は母がしてくれなかったことをしてくれた。
人形を買ってくれたり、服を買ってくれたり、お菓子作りを一緒にしてくれたり、公園で一緒に遊んでくれたり。
お金がかからないことばかりだったが、とても特別な時間ばかりだった。
「うっかり母より父親といた方が楽しいと言ってしまい、それで父親は母から私を引き取ると言い出したんです。よりを戻すどころか私を奪おうとするから、口論になって……それが怖くてその時初めて暴走してしまったんです。父親は私も不気味がり、二度と会わなくなりました」
普通じゃない理解しがたい存在。不気味で危険性を感じれば、忌み嫌われる。
簡単に受け入れられない。
血の繋がった娘さえも。
「それからトラウマに……。酷かったのは、中学の時です。一応美人分類に入るので、男の子二人が取り合って喧嘩をしてしまって……教室を壊してしまいまして……夜逃げしました」
苦笑をして私は言う。誰も笑わない。
中学は一度転校した。悲惨なトラウマだ。
「自分が原因の喧嘩は、とても怖いと思いました。高校は上手くいくように、自分に魔術をかけました。感情が高ぶる前に眠くして阻止したんです……高校は更に騒がしかったので。おかげでついたあだ名は眠り姫」
自嘲気味に笑ってから私は一息つく。落ち着いてきた。
「今、それを退かしますね」
「お嬢さん。オレの話も聞いてほしい」
いい加減突き刺さった氷柱と蔓の拘束から解放しよう。立ち上がるとデヴィットが口を開いた。
「どうか手荒な真似をしたことを許してほしい」と謝る。
脅迫のことだろうか?
「オレとテオはあと一年かかってもいいが、ルーカスは待たせている人がいるんだ。人間の恋人がな」
じっとしたままデヴィットが打ち明ける。私は目を丸めてルーカスを見た。
人間の恋人?
「君の両親のように、打ち明けるには危険な秘密だろう? 吸血鬼だとはとても言えない。黙って共に過ごしたとしても、いずれ老けないことに気付かれる」
デヴィットのなめらかな声が廊下に響く。
ルーカスは愛する恋人と生きるために人間に戻りたい。
共に吸血鬼として生きるより、人間として生きるため。
恋人には吸血鬼だと明かしていない。明かせばきっとあたしの両親のようになってしまう。
「……何故それを先に話してくれなかったんですか?」
「散々たらい回しにされたからだ。他の魔女には訴えたが、聞き入れてくれなくてね……だから君には強行手段に出た」
「吸血鬼は感情を捨てた冷酷な殺人鬼と認識しています。貴方がたが私を信頼しないのと同じです」
私は眉間にシワを寄せてデヴィットを見る。
「信頼していないわけではない」
「いいえ、信頼していません。だから貴方は私を吸血鬼にする許可をルーカスに出したんです。私はびくびくしつつも人間に戻るために私が必要だと思い呪いを解こうと手を尽くしているのに……引き受けてもルーカスが焦る理由さえも教えてくれなかった」
怒鳴るのも嫌いだから静かにでも刺々しく私は責め立てる。
「立て続けに魔女に追っ払らわれたとしても、頼み方というものがあるでしょう。私に追い出す時間がなかったと思ってるんですか? 占いの間でも、寝室にいる間も貴方がたを殺す魔術を唱えられた」
「……でも唱えなかった」
「そうです。私の家に来た晩にルーカスのことを話してくれていれば、私は快く引き受けました」
その理由はわかるだろう。
だからデヴィットはルーカスの事情について今話した。
私だって、両親のようになってほしくない。だからきっとあの晩、脅された後でもこの話を聞けば快く引き受けた。
けれど私に辿り着く前に魔女に拒絶させられたから脅迫したのだ。その上弱点を知られている。
いつ殺されるかわからないと身構えていたのは、彼らの方だった。
「……デヴィットとテオも、恋人のために?」
そう言えば彼らを名前で呼ぶのは初めてだ、と気付く。
「吸血鬼か人間かって訊かれたら、人間を選ぶよ」
テオが笑って答えた。
「吸血鬼が冷酷なのは、感情を捨てた方が楽だからだ。我々はそう簡単に死ねない──この串刺しも苦ではないし、血を求める欲求には逆らえない。オレ達は同じ吸血鬼に呪いを移された縁で友達なんだ。感情は捨てず極力人を殺さない努力をして生きてきたが、やがて堪えられなくなったら互いの心臓を握り潰そうと思っていた」
デヴィットはなんでもないみたいに微笑みを浮かべたまま自殺計画を仄めかす。
私が吸血鬼になるくらいなら一思いに殺されたい理由と同じ。
彼らも感情を捨てて人を殺し続けることは嫌だったのだろう。
だからテオは無邪気に笑えたんだ。感情を捨てた冷酷な吸血鬼ではないのだから。
「けれどルーカスに想い人が出来た……だから心中より人間に戻る方法を探し、そして君に行き着いた」
この三人の友情は固いと感じた。恋人と人間としてそばに居たいという友のために、こうして呪いを解く決意をして動いたのだ。
魔女の呪いのせいで、沢山の被害者が出た。
彼らは終わりにして、人間に戻りたい。ただそれだけなんだ。
私は息を深く吐いた。
デヴィットから一度背を向けて階段の壁に掌を重ねて呪文を呟く。
忽ち蔓は引いていき、氷柱は蒸発していった。ルーカスがぶつかってへこんだ壁も直る。広すぎる家だから、こうゆう掃除が簡単に出来るようあらかじめ魔術をかけておいたものを発動させた。
掌に魔法陣を書きながら、自由になったデヴィットに歩み寄る。
服に穴があいていたが、身体はもう治ったらしく白い肌が見えた。そこに手を当てて直す。これは直す魔術だ。
「貴方がたは私が救います」
はっきりと私は自分の意志を純金の瞳に向かって伝えた。
デヴィットは目を丸めて私を見ていたが、やがてふんわりと柔らかな微笑みを浮かべる。
「……やはり君は優しい魔女だ」
冷たい彼の手が私の手をとり、その甲に口付けをした。
「カメリア。改めてよろしく頼む」
純金のキャットアイが真っ直ぐ私を見つめる。私も見つめ返す。
「お引き受けします」
デヴィッドはただ優しげな眼差しで微笑んだ。