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アザとーもリア充したかったのですが・・・

 さて、4日目は飛行機でロス空港まで移動して、メトロでユニバーサルスタジオまで行こう! だったのですが……これがこの道中最大の難関であったのです。

 まずはロサンゼルス空港で。

 自信満々で俺たちを先導していた夫は、どうも成田のように空港内から電車に乗れると思っていたようなのです。

 もちろん、アザとーは「日本の常識が世界で通用するわけではない」派。そのアザとーに育てられた子供たちも然り、なのです。

 アザとーと子供たちはここ数日でなんとなく英語の国に適応しております。だから案内板を見て、どうも駅は空港内にはないらしいと踏んだのですが……当家の猪八戒、かなり強情なのです。

 おまけにここ数日、言葉が通じないながらも「エクスキューズミー」で情報を得てきた俺様に主導権を握られているようで、悔しかったのでしょう。珍しくインフォメーションに質問などしておりました。以下、アザとー脳内補完会話によりお楽しみください。


『駅ならシャトルバスで行けますよ。Gバスです』

「おう、い、いえす?」

『ここを出て、右方向に乗り場があります』

「うう? いえす」

『解ります? Gバスですからね』

「Gばす?」


 アザとーと子供たちは必要な情報を手に入れた状態です。

「父ちゃん、とりあえずシャトルバスの乗り場に行けば解るよ」

「う? む……」

 息子についてゆく夫は明らかに不満顔でした。

 すでに停まっているシャトルバスの運転手に、アザとーがたずねます。


「ヂスはGバス?」

『いや。でも、Gバスなら、ここで待っていな』

「さんきゅー」


 アザとーは自分が調子に乗っていることに気づくべきだったのです。ここは夫に頼りきったフリの一つでも見せておけば、この後の厄災を呼ぶことも無かったでしょうに……

 ともかく、駅についてしまいさえすれば路線図を見るのもお手の物。乗換も余裕なのです。ユニバーサルシティ駅に無事到着!

「来たぜ、ハリウッド!」

 ユニバーサルスタジオ自体は普通にテーマパーク。楽しいところです。ただ、どうも休日のようで、ものすごく混雑しています。

「とても全部は乗れないな」

「じゃあ、じゃあ……」

 恋する乙女の顔で、アザとーが一枚の看板を指します。

「トランスフォーマー♡ オプティマス、プライム様!」

「それは後にして、ここに来たらまず、これに乗らなくちゃ!」

「む~~~~、コンボイ様~~~~」

 引きずられるようにして乗せられたアトラクションは、もちろん楽しかったのです。演出のダイナミックさもさることながら、盛り上がるところを外さず、声を上げて楽しむあたり「絶叫系はアメリカ人と乗れ」と、新たな座右の銘を増やすほど楽しかったのです。

 しかし、シメのトランスフォーマーに並んだ辺りから夫の機嫌は怪しくなりました。

「これに乗ってたら、帰りが間に合わない」

 それは一番人気のアトラクション。長蛇の列が出来ているのだから、さもありなん。

「じゃあ、ブルースブラザーズのショーがあるから、そっちでもいいよ」

「俺はジュラッシックパークに乗るんだよ! ついて来い!」

 横暴ブタ、降臨です。

「ショーなんか見るだけじゃないか! お前達は俺の予定通りに動いてくれない!」

 アザとーや子供たちの意見をことごとく蹴飛ばし、異を唱えます。

 そうなると反抗期の河童は依怙地になり、娘は不機嫌マックスで喚き散らすのです。全くいつも通りではありますが、何が楽しゅうて異国の地に来てまで家族不和を晒す羽目になっておるのでしょう。

「もうやだぁ……」

 収拾不可能な状態にクスンと鼻奥を涙が湿らせます。

「お前は! 泣けば済むと思うなよ!」

 いつもなら誰のことも省みずにズカズカと立ち去る夫も、異郷に家族を置き去りにするほど非常識ではなかったようです。代わりに尻をしたたかに蹴り上げられましたが……

 

 帰りの電車の中では何組ものアメリカン・リア充どもがいちゃついておりました。若いカレシさんも、年取ったカレシさんも、自分のパートナーを大事そうに抱え込んで頬をなで、憚ることなくちゅっちゅしているのに、なぜアザとーのところだけがこんなに冷たい空気が流れているのでしょうか?

 全くこんなとき、情けないやらアホらしいやらで旦那を捨てたくはなるのですが、まさか異郷に家族を置き去りにするほど非情でないのは、アザとーも同じなのです。

 渋滞のせいでシャトルバスを飛び降り、4ブロック全力疾走してまで飛行機に乗って帰り着いたサンフランシスコ空港ですが、この先にまさか落とし穴があろうとは……誰も思いもしなかったのです。


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