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アザとー一家 道中記  作者: アザとー
再々道中記
21/31

ゴルファーの姫、こんがり

 せっかくハワイに来たのだから泳がなくては損だ。アザとー一家は水着に着替え、近くのビーチまで歩いた。

 風はすっかり温かいが春の風で、日差しもそんなにまぶしくない。だから冷たい海につかっていればさほど焼けることは無いだろうと少し侮っていたのかもしれない。私と子供たちは日焼け止めを塗ることも忘れて一目散に砂浜を走り抜け、海へと飛び込んだ。

 これに対し、ゴルファーの姫はノロノロとビーチタオルを広げて砂浜に寝転ぶ。

「母ちゃ~ん、俺のサンオイル知らない~?」

 ゴルファーの姫、もう若くはない。家族全員で「日焼けはやめておけ」といったにも関わらずこの台詞だ。

「俺は日焼けしに来たのに~」

「じゃあ、その辺に転がってれば」

「うん、そうする~」

 そんなゴルファーの姫を捨て置いて私たちは泳ぐ泳ぐ。

 もともと運動は苦手な家系だが、水に対してはフォームがむちゃくちゃだというだけで泳ぎが苦手なわけではない。それにここは海中に簡易な防波堤を立てて波を防いだ浅いビーチ、いわゆるオコサマプール感覚であるのだから、子供たちが少々無理をしても溺れる心配はない。

「おおっ、見て見て、お魚がいる!」

 たかが小魚ごときでも、これを子供に見せたいと思うのは万国共通母親の気持ちというものだろうか、私が叫んだすぐそばで、やはり子供に向けて母親が叫ぶ。

「オウ、フィッシュ!」

 アザとーのポンコツな耳では単語を拾うのが精一杯だが、幼い子供が何か「フィッシュ」について母親に返事をした後で、その魚たちを追いかけはじめた。

 もともとがアザとー、変態すれすれレベルで子供が大好きだ。幼子が無邪気に魚を追い回す姿など、日本の灰色の砂に暗く水沈む砂浜ですら頬がほころぶような光景だというのに、まして白い砂浜に白い肌の幼子、まして海は青いのだから画的にもサマになる。

「やばい、めっちゃ眼福です」

 それにしてもウチの子供たちは、もはや下の子も中学を卒業した年だ。魚後時で大はしゃぎしてはくれない。

「あ~、はいはい、お魚ね」

「追いかけないの?」

「そんな、子供じゃあるまいし」

「じゃあいいよ、母さんが追いかける!」

 かくして、私が魚を追いかけるはしゃいだ姿を娘が生暖かく見守るという……まあ、アザとーの家の親子関係はいつもこうである。

 ひとしきり、体が海の水と同じくらい冷たくなるほど泳いでから浜に上がれば、ゴルファーの姫はのっそりと起き上がったところであった。

「もうあがってきたの? 俺いまから泳ぐんだけど?」

 姫変換すると『私も泳ぐのにぃ、なんで遊ぶのやめちゃったの?』であるか。

「いや、さすがに寒いからさ、ちょっと太陽で体あぶってくるから」

『仕方ないなあ、もう~』とご立腹ではあったが、ゴルファーの姫は海に向かって内股で駆けてゆく。

 私は白い砂の上に無造作に身を投げた。

「う~わ、空がめっちゃ青いわ」

 絵葉書そのままの青い空、青い海。

「ああ、太陽の具合もちょうどいいかもな」

 体の表面の少しでも多くに陽の光が当たるよう、両手を広げて大の字になる。子供たちも海から上がってきて同じように寝そべり、へそを太陽に向けた。

「お、けっこうあったかいじゃん」

 こうして姫が海から上がるまで三十分程度、ほどよく体も温められてよかったのだが、南国の日差しを舐めてはいけない。

 ホテルについて、シャワーを浴びる段になって水着を境にくっきりと肌の色が変わっていることに気づいたのである。

「うわ、そんなに日差し強くなかったのに、やっぱり違うねえ」

 私と息子は少しでも肌を焼きすぎると真っ赤になって熱を出すタイプである。だから解熱鎮痛剤などを用意したほうがよいかとアメリカでクスリを買うときの注意など検索する。

 そんな私の後ろで、ゴルファーの姫はご機嫌である。

「やっぱりハワイで焼くと色艶が違うよね」

「あんたは一人、のんきだなあ」

「へ、何が?」

「ま、わかんないならいいや、いいや」

 幸いに熱がでるようなこともなく、私たち一家はこんがりとおいしそうに焼けたのであった。


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